アルビノ崇拝物語

弓葉

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第2章 レベリオの右腕

獣人はオメガに飢えだす

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「この少年はまだ番になっていないだろう。うなじに噛み跡がない」

 鷹昌は羽先で十月のうなじを掻き上げる。十月はうなじを羽でなぞられ、ゾクリ、と身を震わせた。

「そうだが、この事件が解決すれば番になろうと決めていた」

「……レベリオ」

 初耳だった。十月はレベリオを見る。偽りなくまっすぐと見つめられれば逸らすことなどできなかった。そもそも誰かと番になる未来なんて想像していない。それどころか将来の夢も見つけていなかった。

「ならば、先に事件を解決した方が少年の番になる、というのはどうだろう」

 鷹昌は挑発するように十月の肩を引き寄せた。羽毛が十月の鼻をこそばす。

「わかった」

 レベリオは十月の許可を取ることなく答えた。

「ち、ちょっと待てよ。俺の意思は……」

 てっきり、自分の許可を取るものだと思っていたのが調子を狂わされる。グルグル、と頭の中で『番』ってなんだっけ……? と頭の中がパンクした。

「そうだぜ、トッキーの意思も考えてやれよ」

 ブラットは見かねて話に入ってくる。十月は助かった、と強張っていた肩を下ろした。ブラットに任せておけばこの事態も回避できるだろう。

「お前は欲しくないのか? 次男だから、と諦めているわけでもあるまいし」

 またしても鷹昌は挑発するように言った。十月はブラットの顔を見た。次男、ということを知らなかったが、なぜ夜鷹が知っているのかわからない。それにつくづく、この夜鷹は人の神経を逆なでにしてくる。

「それは……」

 ブラットは苦虫を潰したような顔をする。

「戦争が始まればオメガはセリスロピィから逃げるだろう。獣人はオメガに飢えだすからな。そうなる前に手元に置いておかないと」

 鷹昌の言葉に十月はカチン、ときた。

「俺を物扱いすんな!」

 十月は拳を握り、鷹昌の羽を殴りつける。胸板を殴っても意味がないと思ったからだ。義父に殴られ物扱いされてきた。母がいるから反抗できなかったが、ここでも物扱いだなんて死んでもごめんだ。

「おうおう、怖い怖い。血の気が多いことよ」

 鷹昌は楽しげに十月から手を離す。十月は鷹昌から逃げてレベリオの背後に回った。

「でもよぉ、今まではのらりくらりと生きてこられたが番がいないオメガは狙われるぜぇ。知らないやつと番になるより、あっしが出した条件はいいものだと思うがなぁ」

 鷹昌はかぎ爪をカチリ、カチリと鳴らす。少しずつ早く鳴る音に急かされ、十月の考えが上手くまとまらなくなった。正常に判断できない状態で答えを決めなければならなかった。

「そもそも、火薬倉庫のような状態なのに日本に帰らないってことは番になりたいと思うような人がいないんだろう?」

 鷹昌の言葉は鋭い。触れてほしくないところを的確に突いてくる。

「そんなことは……」
 ない、とは言えなかった
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