アルビノ崇拝物語

弓葉

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第1章 残酷な伝統薬

自分じゃなかったら

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「お、おれは……レベリオが、誰かを殺したら、か、悲しい……」

 レベリオの毛並みは純白のように白かった。その毛並みが血で汚れてしまうところを見たくはない。偽善者と言われようとも、この世で一番綺麗な生き物を自分自身で汚してしまうことが嫌だった。

「そうか」

 レベリオは感情無く言った。そして振り返ることなく、ボロボロの部屋から出て行こうとする。

「レベリオ!」

 次に繋げる言葉など思いついていなかった。ただただ、夢中になって叫んだ。これが最後の別れになるような気がして。

「ブラットの傍にいろ」

 レベリオは十月の名を呼ぶことはなかった。それが酷く拒絶された気がして十月は深く傷つく。名前を呼ばれなかっただけで、こんなにも胸が苦しい。二度と会えなくなってしまえば、自分はどうなってしまうのだろう。

「嫌だ!」

 言うことを聞かないのは何年振りだろう。いつもどこかで仕方がないと諦めていた。静かに時が過ぎるまでジッと大人しく待っていた。そうしてトラブルが過ぎ去るのを待っていた。

 だけど、今行動しなくちゃいけない。そうしないとそれ以上のトラブルが自分に降りかかってくる。

「十月……」

 レベリオは一瞬だけ振り返った。悲しんでいるような、嬉しいような複雑な表情が見えた。それも一瞬だけで、すぐに怒りへと変わってしまう。

「ありがとう」

 お礼を言われたはず、それなのにレベリオは部屋を出て行った。十月はレベリオの後を追いかけようと廊下に飛び出す。だが、レベリオの姿はない。行ってしまったようだ。

「しゃーねぇよ、十月は悪くない」

 ブラットは十月の肩を引き寄せる。十月は震える肩を抑えるために、ブラットの手を握った。

「もっと、もっと他にレベリオにかけられる言葉があったはずなんだ。だけど言葉が出てこなかった。それが悔しくて……!」

 十月は膝をつく。涙があふれてくることに対しても腹が立っていた。レベリオの方が泣きたいはず。日本語なのかベスティア語なのかわからない言葉を泣き叫ぶ。出会ったのが自分じゃなかったら、レベリオを止められていた。

ーーそして、数日後。アルビノライオンの右手が盗まれ、所持していた一家は獣に食い散らかされ惨殺されていた。
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