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第1章 残酷な伝統薬
人間を殺してもいい獣人
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「レベリオ……?」
十月の声は震えていた。言葉が通じるのか不安に陥る。今にもレベリオは十月の首へ飛びかかってきそうだった。
「十月、俺は人間を殺してもいい獣人だろうか?」
レベリオは目を鋭くさせる。十月は何も答えることができなかった。自分の言葉でレベリオを地獄に突き落とすかもしれない。そう気づいてしまえば何て言えばいいのかわからなかった。
すぐに十月はブラットに助けを求めた。ブラットなら何か言ってくれる。そう思ったからだ。
「十月の意見を聞かせろ」
だが、レベリオが十月の視界に入り込む。ブラットの姿はレベリオに隠れて見えなくなってしまった。
「レベリ……「うるさい、お前の意見は聞きたくない」
か細くなったブラットの声が聞こえてくる。一瞬にしてレベリオの威圧が含まれた声に掻き消されてしまった。
「お、俺は……」
酷く喉が渇いていた。こんなにも緊張したことはない。いつだって、自分は人生を操作される側で支配できる立場になったことは一度もなかった。渇いた咳が止まらない。息を上手く吸い込むこともできない。
「わしは子どもの頃、夜間に来訪した男たちに引きずり出され右腕を切断された。腕は隣国に運ばれ解体されて信仰治療師に持ち込まれたそうだ。犯人はまだ捕まっていない。証拠はなかった。それでも殺してはいけないのか」
矢継ぎ早にレベリオは言う。レベリオは悲痛な顔をしていた。未だ消化されていない出来事なのだろう。苦しんでいるのがひしひしと伝わってくる。本当は言いたくなかったはずだ。それなのに、過去の記憶に苦しみながら十月に伝えようとした。冗談も言えないような雰囲気に十月はゴクリと息を飲みこんだ。そうしないと話すことができなかった。
「そ、その人達にも家族がいるかもしれない」
十月は話をすり替えようとした。他人とはいえ、命の選別を行うことはできなかった。異国の空気に呑まれていたとはいえ、そこまで冷血にはなれない。脳裏には母の顔が浮かんでいた。母を悲しませることはしたくはない。
十月にとって母の存在は抑止力になっていた。
「……右腕を失った俺は父親に見放され浮浪者になった。腕を無くした獣人など使い物にならないからだ。弱肉強食、それが全てを語っている。わしの腕で金儲けするやつらの家族などどうでもいい。十月はそう思わないのか!」
レベリオの怒鳴り声の後に、義手が軋む音がした。無機質なはずの金属が軋む音はレベリオの悲痛な叫びとして聞こえてくる。今すぐにでも怒りをぶちまけて、レベリオの右腕を持つ一家をその鋭い爪や牙で惨殺したいのだろう。十月は痛いほどその気持ちに共感してしまった。
レベリオは義手をつけているが、よく壊れる。獣人用の義手はあまり復旧していないからだ。需要もないため、おざなりに作られている。耐久性もあまりなかった。
だからと言って、獣人はそれほど器用ではない。手は獣に近く細かな作業は苦手だ。時折、十月は義手のネジを締め直す。レベリオにはできないことだった。
「何か言ったらどうなんだ!」
耐えきれなくなったレベリオが大きな口を開けて吠えた。途端、十月は身体がすくみ動けなくなる。度重なる躾で硬直していた。
***
血の繋がりがない他人はこの世で一番酷く冷たい生き物だ。今でも思い出してしまう。小学生の時に裸で家の外に放り出されたことを。正座をさせられて足の上に重たいブロックを置かれたことを。ボールペンで腹を刺されたことを。
別に犯罪を犯したわけでもない。理由は掃除をしていなかったから、とかそんな理由だった。
包丁で指を切られそうになったこともあった。お小遣いも貰えなくて、どうしても遊ぶお金がほしかった。やってはいけない、と分かっていても隠れて母の財布からお金を盗ってしまった。それがバレると『盗むような手ならいらないだろう』と包丁で指を切られそうになった。その時にできた右手人差し指の付け根には一直線の傷が残っている。
今思うと、レベリオと同じでいつ殺されてもおかしくなかった。
十月の声は震えていた。言葉が通じるのか不安に陥る。今にもレベリオは十月の首へ飛びかかってきそうだった。
「十月、俺は人間を殺してもいい獣人だろうか?」
レベリオは目を鋭くさせる。十月は何も答えることができなかった。自分の言葉でレベリオを地獄に突き落とすかもしれない。そう気づいてしまえば何て言えばいいのかわからなかった。
すぐに十月はブラットに助けを求めた。ブラットなら何か言ってくれる。そう思ったからだ。
「十月の意見を聞かせろ」
だが、レベリオが十月の視界に入り込む。ブラットの姿はレベリオに隠れて見えなくなってしまった。
「レベリ……「うるさい、お前の意見は聞きたくない」
か細くなったブラットの声が聞こえてくる。一瞬にしてレベリオの威圧が含まれた声に掻き消されてしまった。
「お、俺は……」
酷く喉が渇いていた。こんなにも緊張したことはない。いつだって、自分は人生を操作される側で支配できる立場になったことは一度もなかった。渇いた咳が止まらない。息を上手く吸い込むこともできない。
「わしは子どもの頃、夜間に来訪した男たちに引きずり出され右腕を切断された。腕は隣国に運ばれ解体されて信仰治療師に持ち込まれたそうだ。犯人はまだ捕まっていない。証拠はなかった。それでも殺してはいけないのか」
矢継ぎ早にレベリオは言う。レベリオは悲痛な顔をしていた。未だ消化されていない出来事なのだろう。苦しんでいるのがひしひしと伝わってくる。本当は言いたくなかったはずだ。それなのに、過去の記憶に苦しみながら十月に伝えようとした。冗談も言えないような雰囲気に十月はゴクリと息を飲みこんだ。そうしないと話すことができなかった。
「そ、その人達にも家族がいるかもしれない」
十月は話をすり替えようとした。他人とはいえ、命の選別を行うことはできなかった。異国の空気に呑まれていたとはいえ、そこまで冷血にはなれない。脳裏には母の顔が浮かんでいた。母を悲しませることはしたくはない。
十月にとって母の存在は抑止力になっていた。
「……右腕を失った俺は父親に見放され浮浪者になった。腕を無くした獣人など使い物にならないからだ。弱肉強食、それが全てを語っている。わしの腕で金儲けするやつらの家族などどうでもいい。十月はそう思わないのか!」
レベリオの怒鳴り声の後に、義手が軋む音がした。無機質なはずの金属が軋む音はレベリオの悲痛な叫びとして聞こえてくる。今すぐにでも怒りをぶちまけて、レベリオの右腕を持つ一家をその鋭い爪や牙で惨殺したいのだろう。十月は痛いほどその気持ちに共感してしまった。
レベリオは義手をつけているが、よく壊れる。獣人用の義手はあまり復旧していないからだ。需要もないため、おざなりに作られている。耐久性もあまりなかった。
だからと言って、獣人はそれほど器用ではない。手は獣に近く細かな作業は苦手だ。時折、十月は義手のネジを締め直す。レベリオにはできないことだった。
「何か言ったらどうなんだ!」
耐えきれなくなったレベリオが大きな口を開けて吠えた。途端、十月は身体がすくみ動けなくなる。度重なる躾で硬直していた。
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血の繋がりがない他人はこの世で一番酷く冷たい生き物だ。今でも思い出してしまう。小学生の時に裸で家の外に放り出されたことを。正座をさせられて足の上に重たいブロックを置かれたことを。ボールペンで腹を刺されたことを。
別に犯罪を犯したわけでもない。理由は掃除をしていなかったから、とかそんな理由だった。
包丁で指を切られそうになったこともあった。お小遣いも貰えなくて、どうしても遊ぶお金がほしかった。やってはいけない、と分かっていても隠れて母の財布からお金を盗ってしまった。それがバレると『盗むような手ならいらないだろう』と包丁で指を切られそうになった。その時にできた右手人差し指の付け根には一直線の傷が残っている。
今思うと、レベリオと同じでいつ殺されてもおかしくなかった。
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