アルビノ崇拝物語

弓葉

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第1章 残酷な伝統薬

異質

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「ち、違う!」

 十月は否定した。幸い、今は発情期ではない。ごまかし通せると必死に頭を働かせる。心臓の音はうるさく、ドクドクと胸を強く打ちつけていた。激しい心音がライオン獣人に聴こえているのか不安になる。

 十月が鳴らす胸の鼓動に呼応するかのように、ライオン獣人の耳がピクピクと反応していた。それを見て、十月は落ち着かせようとバレないように深く呼吸をするが落ち着く気配が一向に見えない。せわしなく鼓動を繰り返していた。

「別に取って食ったりなどしない」

 ライオン獣人はそう言うが、十月は獣人とは初対面だったため信頼できなかった。そもそも住んでいる環境と価値観が違う。自分のものさしだけで、相手を信頼するかどうか決めてはいけない。そうして何度裏切られたか。

「いいや、俺はオメガじゃない。見た目が華奢に見えるかもしれないが、ベータだ」

 十月なりに威勢を放ったつもりだった。さすがにアルファと嘘をつけばバレてしまうかもしれないが、大多数のベータならバレないと思った。

「そう言い張るのならばいいが。わしみたいに鼻がいいやつにはすぐバレると思うぞ」

 ライオン獣人は大きく鼻を鳴らす。大きな呼吸に十月の心臓はドクリとまた大きく跳ねた。

「も、もし俺がオメガとして、あ、あんたは俺をどうするつもりなんだ。奴隷みたいに殴ったりするんだろ」

 十月はライオン獣人から離れ距離を取る。ライオン獣人が一歩でも動けば、このまま闇に紛れて逃げてしまおうと考えていた。

「お前が住む国では、そういう扱いを受けてきたのか?」

 ライオン獣人にとっては単なる疑問だったことに過ぎないのだろう。だが、今の十月にとっては人生を否定されたように感じた。

「そんなわけないだろ!!」

 大声を出してしまえば、嘘をついているとバレてしまう。それでも十月は叫ばずにはいられなかった。誰かが迎えに来なければ日本にも帰れない。今の自分を迎えに来てくれる人なんて誰も思いつかなかった。

 結局、自分は無価値な人間で、寂しい人生なんだ。

 自覚してしまえば、虚しくなってきた。

「あいにく、わしにそんな趣味はない。ただ、迫害される気持ちはわかる。この見た目だからな」

 ライオン獣人は手を広げた。だが、動いたのは片腕だけだ。

 十月はまじまじとライオン獣人の姿を見る。ライオン特有の茶色の毛並みではなく、白い。自然に紛れることもなく異質な存在。一方で十月は見た目だけは普通に紛れる存在。予測でしかないが、ライオン獣人の方が生きにくい人生を送ったに違いない。

「……俺はオメガだ」

 自分から告白したのは初めてだった。異国の空気に飲まれてしまった。それだけだ。

「ああ、どうりでこの辺じゃ見ない顔だと思った」

 ライオン獣人は納得するように深く頷く。十月は襲われないことに対して違和感を持っていた。獣だから本能で襲うと思っていた。そんな自分を恥じる。
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