8 / 59
第1章 残酷な伝統薬
異質
しおりを挟む
「ち、違う!」
十月は否定した。幸い、今は発情期ではない。ごまかし通せると必死に頭を働かせる。心臓の音はうるさく、ドクドクと胸を強く打ちつけていた。激しい心音がライオン獣人に聴こえているのか不安になる。
十月が鳴らす胸の鼓動に呼応するかのように、ライオン獣人の耳がピクピクと反応していた。それを見て、十月は落ち着かせようとバレないように深く呼吸をするが落ち着く気配が一向に見えない。せわしなく鼓動を繰り返していた。
「別に取って食ったりなどしない」
ライオン獣人はそう言うが、十月は獣人とは初対面だったため信頼できなかった。そもそも住んでいる環境と価値観が違う。自分のものさしだけで、相手を信頼するかどうか決めてはいけない。そうして何度裏切られたか。
「いいや、俺はオメガじゃない。見た目が華奢に見えるかもしれないが、ベータだ」
十月なりに威勢を放ったつもりだった。さすがにアルファと嘘をつけばバレてしまうかもしれないが、大多数のベータならバレないと思った。
「そう言い張るのならばいいが。わしみたいに鼻がいいやつにはすぐバレると思うぞ」
ライオン獣人は大きく鼻を鳴らす。大きな呼吸に十月の心臓はドクリとまた大きく跳ねた。
「も、もし俺がオメガとして、あ、あんたは俺をどうするつもりなんだ。奴隷みたいに殴ったりするんだろ」
十月はライオン獣人から離れ距離を取る。ライオン獣人が一歩でも動けば、このまま闇に紛れて逃げてしまおうと考えていた。
「お前が住む国では、そういう扱いを受けてきたのか?」
ライオン獣人にとっては単なる疑問だったことに過ぎないのだろう。だが、今の十月にとっては人生を否定されたように感じた。
「そんなわけないだろ!!」
大声を出してしまえば、嘘をついているとバレてしまう。それでも十月は叫ばずにはいられなかった。誰かが迎えに来なければ日本にも帰れない。今の自分を迎えに来てくれる人なんて誰も思いつかなかった。
結局、自分は無価値な人間で、寂しい人生なんだ。
自覚してしまえば、虚しくなってきた。
「あいにく、わしにそんな趣味はない。ただ、迫害される気持ちはわかる。この見た目だからな」
ライオン獣人は手を広げた。だが、動いたのは片腕だけだ。
十月はまじまじとライオン獣人の姿を見る。ライオン特有の茶色の毛並みではなく、白い。自然に紛れることもなく異質な存在。一方で十月は見た目だけは普通に紛れる存在。予測でしかないが、ライオン獣人の方が生きにくい人生を送ったに違いない。
「……俺はオメガだ」
自分から告白したのは初めてだった。異国の空気に飲まれてしまった。それだけだ。
「ああ、どうりでこの辺じゃ見ない顔だと思った」
ライオン獣人は納得するように深く頷く。十月は襲われないことに対して違和感を持っていた。獣だから本能で襲うと思っていた。そんな自分を恥じる。
十月は否定した。幸い、今は発情期ではない。ごまかし通せると必死に頭を働かせる。心臓の音はうるさく、ドクドクと胸を強く打ちつけていた。激しい心音がライオン獣人に聴こえているのか不安になる。
十月が鳴らす胸の鼓動に呼応するかのように、ライオン獣人の耳がピクピクと反応していた。それを見て、十月は落ち着かせようとバレないように深く呼吸をするが落ち着く気配が一向に見えない。せわしなく鼓動を繰り返していた。
「別に取って食ったりなどしない」
ライオン獣人はそう言うが、十月は獣人とは初対面だったため信頼できなかった。そもそも住んでいる環境と価値観が違う。自分のものさしだけで、相手を信頼するかどうか決めてはいけない。そうして何度裏切られたか。
「いいや、俺はオメガじゃない。見た目が華奢に見えるかもしれないが、ベータだ」
十月なりに威勢を放ったつもりだった。さすがにアルファと嘘をつけばバレてしまうかもしれないが、大多数のベータならバレないと思った。
「そう言い張るのならばいいが。わしみたいに鼻がいいやつにはすぐバレると思うぞ」
ライオン獣人は大きく鼻を鳴らす。大きな呼吸に十月の心臓はドクリとまた大きく跳ねた。
「も、もし俺がオメガとして、あ、あんたは俺をどうするつもりなんだ。奴隷みたいに殴ったりするんだろ」
十月はライオン獣人から離れ距離を取る。ライオン獣人が一歩でも動けば、このまま闇に紛れて逃げてしまおうと考えていた。
「お前が住む国では、そういう扱いを受けてきたのか?」
ライオン獣人にとっては単なる疑問だったことに過ぎないのだろう。だが、今の十月にとっては人生を否定されたように感じた。
「そんなわけないだろ!!」
大声を出してしまえば、嘘をついているとバレてしまう。それでも十月は叫ばずにはいられなかった。誰かが迎えに来なければ日本にも帰れない。今の自分を迎えに来てくれる人なんて誰も思いつかなかった。
結局、自分は無価値な人間で、寂しい人生なんだ。
自覚してしまえば、虚しくなってきた。
「あいにく、わしにそんな趣味はない。ただ、迫害される気持ちはわかる。この見た目だからな」
ライオン獣人は手を広げた。だが、動いたのは片腕だけだ。
十月はまじまじとライオン獣人の姿を見る。ライオン特有の茶色の毛並みではなく、白い。自然に紛れることもなく異質な存在。一方で十月は見た目だけは普通に紛れる存在。予測でしかないが、ライオン獣人の方が生きにくい人生を送ったに違いない。
「……俺はオメガだ」
自分から告白したのは初めてだった。異国の空気に飲まれてしまった。それだけだ。
「ああ、どうりでこの辺じゃ見ない顔だと思った」
ライオン獣人は納得するように深く頷く。十月は襲われないことに対して違和感を持っていた。獣だから本能で襲うと思っていた。そんな自分を恥じる。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
「俺の子を孕め。」とアルファ令息に強制的に妊娠させられ、番にならされました。
天災
BL
「俺の子を孕め」
そう言われて、ご主人様のダニエル・ラーン(α)は執事の僕、アンドレ・ブール(Ω)を強制的に妊娠させ、二人は番となる。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる