44 / 49
誰かの石碑
しおりを挟む
階段の先から風が吹いてきた。出口はもうすぐだ。
突然、無音になった。耳がジーンとなるほど、静寂が訪れる。不思議だった。
無音の状態で立っていると、元々死に来たわけでもないのに死への恐怖がどんどん無くなっていく妙な感覚に襲われた。
下を見ると、断崖絶壁の真下。落ちたら間違いなく僕は死ぬ。
怖くなって空を見上げると、灰色の不規則な模様が見えた。この灰色は空だ。雲が黒く見える。
たしかに、あの時僕は何もかもに絶望していた。明るい未来が見えなくて、生きる意味がわからなかった。
今、考えると『呼ばれた』かもしれない。
時々、ゲームにいるような感覚に陥る。僕の行動が『歩く』『走る』『拾う』など選択肢があるような感じだ。気づいた時にはその不自然は消えているんだけど。
「こっちに何かあるぞ」
京井に呼ばれて僕は意識を取り戻す。今いる自分と違う世界にいる自分にラグみたいなものが生じた。なんだろう、これは……。
「そっち行く」
僕は何も考えないようにして、京井の傍に行く。
京井が呼んだ先には小さなお堂があった。京井が先陣を切って、中に足を踏み入れる。
目の前が真っ暗になった。薄暗い一角にぼんやりとろうそくの火が灯っている。火は消えることなく燃え続けていた。近づくと地蔵に囲まれた石碑だった。
石碑には何て書いてあるのか読めなかった。ドワーフにも聞いてみたけど、この世界の文字ではないらしい。京井にも聞いてみたけど、そもそも文字が読めないみたいだ。
ろうそくの火が灯り続けているのを見ていれば、寂しい気持ちを通りすぎて別世界に見えてくる。
「この火には魔法がかかっていますね、誰かが消えないように灯し続けている」
ドワーフは火に手を置く。熱くなさそうだ。僕も試しに火を触ってみる。不思議と熱くなかった。
「ほんとだ、触っても熱くないし消えない」
この場所は誰かが作った。僕はクイーンバチの襲来で魔力を手に入れたけど、あいつも同じ感じだったのかもしれない。僕よりも悲惨な目に遭って、莫大な魔力を手にしてしまった。
――もう少し、早く……
「ワダツミ」
京井は僕の手を握った。触っていた火から離される。
「ごめん、ぼーっとしていた」
石碑もあるし、ここは現代で言う『心霊スポット』だなと気づく。さっきから視界の角で何かが横切っていた。ドワーフと京井は何も言わなかったから、僕も何も言わなかったけど幽霊らしきものは僕にしか見えないのかもしれない。
きっと、この火を消せば光の柱は消滅する。だけど、僕には消せそうになかった。
夜が明け、空が明るくなっても、ロウソクは寂しい光を放ち続けていた。
「この火は消せないよ」
僕は二人を見る。二人も同じような気持ちなのか頷いた。
突然、無音になった。耳がジーンとなるほど、静寂が訪れる。不思議だった。
無音の状態で立っていると、元々死に来たわけでもないのに死への恐怖がどんどん無くなっていく妙な感覚に襲われた。
下を見ると、断崖絶壁の真下。落ちたら間違いなく僕は死ぬ。
怖くなって空を見上げると、灰色の不規則な模様が見えた。この灰色は空だ。雲が黒く見える。
たしかに、あの時僕は何もかもに絶望していた。明るい未来が見えなくて、生きる意味がわからなかった。
今、考えると『呼ばれた』かもしれない。
時々、ゲームにいるような感覚に陥る。僕の行動が『歩く』『走る』『拾う』など選択肢があるような感じだ。気づいた時にはその不自然は消えているんだけど。
「こっちに何かあるぞ」
京井に呼ばれて僕は意識を取り戻す。今いる自分と違う世界にいる自分にラグみたいなものが生じた。なんだろう、これは……。
「そっち行く」
僕は何も考えないようにして、京井の傍に行く。
京井が呼んだ先には小さなお堂があった。京井が先陣を切って、中に足を踏み入れる。
目の前が真っ暗になった。薄暗い一角にぼんやりとろうそくの火が灯っている。火は消えることなく燃え続けていた。近づくと地蔵に囲まれた石碑だった。
石碑には何て書いてあるのか読めなかった。ドワーフにも聞いてみたけど、この世界の文字ではないらしい。京井にも聞いてみたけど、そもそも文字が読めないみたいだ。
ろうそくの火が灯り続けているのを見ていれば、寂しい気持ちを通りすぎて別世界に見えてくる。
「この火には魔法がかかっていますね、誰かが消えないように灯し続けている」
ドワーフは火に手を置く。熱くなさそうだ。僕も試しに火を触ってみる。不思議と熱くなかった。
「ほんとだ、触っても熱くないし消えない」
この場所は誰かが作った。僕はクイーンバチの襲来で魔力を手に入れたけど、あいつも同じ感じだったのかもしれない。僕よりも悲惨な目に遭って、莫大な魔力を手にしてしまった。
――もう少し、早く……
「ワダツミ」
京井は僕の手を握った。触っていた火から離される。
「ごめん、ぼーっとしていた」
石碑もあるし、ここは現代で言う『心霊スポット』だなと気づく。さっきから視界の角で何かが横切っていた。ドワーフと京井は何も言わなかったから、僕も何も言わなかったけど幽霊らしきものは僕にしか見えないのかもしれない。
きっと、この火を消せば光の柱は消滅する。だけど、僕には消せそうになかった。
夜が明け、空が明るくなっても、ロウソクは寂しい光を放ち続けていた。
「この火は消せないよ」
僕は二人を見る。二人も同じような気持ちなのか頷いた。
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
恋のキューピットは歪な愛に招かれる
春於
BL
〈あらすじ〉
ベータの美坂秀斗は、アルファである両親と親友が運命の番に出会った瞬間を目の当たりにしたことで心に深い傷を負った。
それも親友の相手は自分を慕ってくれていた後輩だったこともあり、それからは二人から逃げ、自分の心の傷から目を逸らすように生きてきた。
そして三十路になった今、このまま誰とも恋をせずに死ぬのだろうと思っていたところにかつての親友と遭遇してしまう。
〈キャラクター設定〉
美坂(松雪) 秀斗
・ベータ
・30歳
・会社員(総合商社勤務)
・物静かで穏やか
・仲良くなるまで時間がかかるが、心を許すと依存気味になる
・自分に自信がなく、消極的
・アルファ×アルファの政略結婚をした両親の元に生まれた一人っ子
・両親が目の前で運命の番を見つけ、自分を捨てたことがトラウマになっている
養父と正式に養子縁組を結ぶまでは松雪姓だった
・行方をくらますために一時期留学していたのもあり、語学が堪能
二見 蒼
・アルファ
・30歳
・御曹司(二見不動産)
・明るくて面倒見が良い
・一途
・独占欲が強い
・中学3年生のときに不登校気味で1人でいる秀斗を気遣って接しているうちに好きになっていく
・元々家業を継ぐために学んでいたために優秀だったが、秀斗を迎え入れるために誰からも文句を言われぬように会社を繁栄させようと邁進してる
・日向のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している
・運命の番(日向)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づくと同時に日向に向けていた熱はすぐさま消え去った
二見(筒井) 日向
・オメガ
・28歳
・フリーランスのSE(今は育児休業中)
・人懐っこくて甘え上手
・猪突猛進なところがある
・感情豊かで少し気分の浮き沈みが激しい
・高校一年生のときに困っている自分に声をかけてくれた秀斗に一目惚れし、絶対に秀斗と結婚すると決めていた
・秀斗を迎え入れるために早めに子どもをつくろうと蒼と相談していたため、会社には勤めずにフリーランスとして仕事をしている
・蒼のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している
・運命の番(蒼)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づいた瞬間に絶望をして一時期病んでた
※他サイトにも掲載しています
ビーボーイ創作BL大賞3に応募していた作品です
愛して、許して、一緒に堕ちて・オメガバース【完結】
華周夏
BL
Ωの身体を持ち、αの力も持っている『奏』生まれた時から研究所が彼の世界。ある『特殊な』能力を持つ。
そんな彼は何より賢く、美しかった。
財閥の御曹司とは名ばかりで、その特異な身体のため『ドクター』の庇護のもと、実験体のように扱われていた。
ある『仕事』のために寮つきの高校に編入する奏を待ち受けるものは?
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
運命の幼馴染み、αの双子とΩの俺
おはぎのあんこ
BL
オメガバース作品でよく見る(?)Ωが運命のαに無理矢理犯される展開。
その後、なんだかんだで2人は両思いになり、番になる…
そういう展開大好きですが、自分だったら無理矢理は嫌だなあ、と思います。
もし、Ωが運命のαに無理矢理犯されたことをずーっと根に持つタイプで恨み続けていたらどうなるだろう?
どんなきっかけがあったら、そのΩは運命のαと番になっても良いと思えるのだろう?
…そういうことを考えて書いた、ひねくれ作者による、ひねくれΩのお話です。
以下あらすじです↓
南輝美(みなみ てるみ)は、双子の兄弟、土本累(つちもと るい)と蓮(れん)の幼なじみだった。
年上の輝美によくイタズラをする、生意気な双子に手を焼きながらも、輝美は2人と過ごすことに幸せを感じていた。
しかし、成長した輝美は、残酷な運命に直面する。
自分が被差別階級の性であるΩであることが分かったのだ。
自分の父親と同じΩであることを受け入れられない輝美。
αやβのクラスメイトに学校でいじめられた鬱憤を、父親をいじめることで発散しようとする。
さらに、累と蓮はともにαであることが判明する。
発情期を迎えた輝美に双子は近づき、関係を持ってしまう。
自分の意思と関係なく双子に犯された輝美は、深く傷つく。
その後、双子は輝美の「運命の番」であったことが判明する。
「運命」に抗って、1人で生きようとする輝美。
最後に輝美は「運命」の幼なじみを選び、結ばれることができるのか?
以下注意点です↓
◯前半で主人公が闇堕ちします
◯性的な描写があります。また、主人公が父親に性的なことをするシーンがあります。
◯主人公がいじめられるシーンがあります。
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる