異世界転生したらΩでした!

弓葉

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誰かの石碑

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 階段の先から風が吹いてきた。出口はもうすぐだ。

 突然、無音になった。耳がジーンとなるほど、静寂が訪れる。不思議だった。

 無音の状態で立っていると、元々死に来たわけでもないのに死への恐怖がどんどん無くなっていく妙な感覚に襲われた。

 下を見ると、断崖絶壁の真下。落ちたら間違いなく僕は死ぬ。

 怖くなって空を見上げると、灰色の不規則な模様が見えた。この灰色は空だ。雲が黒く見える。

 たしかに、あの時僕は何もかもに絶望していた。明るい未来が見えなくて、生きる意味がわからなかった。

 今、考えると『呼ばれた』かもしれない。

 時々、ゲームにいるような感覚に陥る。僕の行動が『歩く』『走る』『拾う』など選択肢があるような感じだ。気づいた時にはその不自然は消えているんだけど。

「こっちに何かあるぞ」

 京井に呼ばれて僕は意識を取り戻す。今いる自分と違う世界にいる自分にラグみたいなものが生じた。なんだろう、これは……。

「そっち行く」

 僕は何も考えないようにして、京井の傍に行く。

 京井が呼んだ先には小さなお堂があった。京井が先陣を切って、中に足を踏み入れる。

 目の前が真っ暗になった。薄暗い一角にぼんやりとろうそくの火が灯っている。火は消えることなく燃え続けていた。近づくと地蔵に囲まれた石碑だった。

 石碑には何て書いてあるのか読めなかった。ドワーフにも聞いてみたけど、この世界の文字ではないらしい。京井にも聞いてみたけど、そもそも文字が読めないみたいだ。

 ろうそくの火が灯り続けているのを見ていれば、寂しい気持ちを通りすぎて別世界に見えてくる。

「この火には魔法がかかっていますね、誰かが消えないように灯し続けている」

 ドワーフは火に手を置く。熱くなさそうだ。僕も試しに火を触ってみる。不思議と熱くなかった。

「ほんとだ、触っても熱くないし消えない」

 この場所は誰かが作った。僕はクイーンバチの襲来で魔力を手に入れたけど、あいつも同じ感じだったのかもしれない。僕よりも悲惨な目に遭って、莫大な魔力を手にしてしまった。

――もう少し、早く……

「ワダツミ」

 京井は僕の手を握った。触っていた火から離される。

「ごめん、ぼーっとしていた」

 石碑もあるし、ここは現代で言う『心霊スポット』だなと気づく。さっきから視界の角で何かが横切っていた。ドワーフと京井は何も言わなかったから、僕も何も言わなかったけど幽霊らしきものは僕にしか見えないのかもしれない。

 きっと、この火を消せば光の柱は消滅する。だけど、僕には消せそうになかった。

 夜が明け、空が明るくなっても、ロウソクは寂しい光を放ち続けていた。

「この火は消せないよ」

 僕は二人を見る。二人も同じような気持ちなのか頷いた。

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