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懐かしい音

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 トントントン、と包丁の音が聞こえて来る。僕は大きすぎるソファーに体育座りで縮こまりながら、その音を聞いていた。

「退屈じゃないのか? テレビでも見ればいい」

 ネオ様は優しく気遣ってくれる。僕は首を横に振った。

「大丈夫です」

 もう包丁を使っている音は聞くことがないと思っていた。両親はとっくの昔に他界しているし、他人に料理を作ってもらえるなんて、しかも憧れの人に作ってもらえるなんて夢のようだ。

 包丁で野菜を切る音は僕の心に優しく染みてくる。居もしない母の顔を思い出しては、寂しくてなって自分自身を抱きしめた。

 ただ、母が使う包丁の音と違うのは、ネオ様の包丁の音にはリズムが乗っていた。やっぱりそこはプロのミュージシャンだと思う。無駄がない音を聞きながら、僕はネオ様を盗み見た。

 ネオ様は黙々と料理を作っている。食材なんていつの間に用意していたのだろう? 元々、外食しない人なのか。その理由は他人が作った料理を食べないからとか、ゴシップ記事みたいな妄想を繰り返してしまう。

 美しいネオ様は浮ついたゴシップ記事とは縁がない。だから、ネオ様が手料理を作る……しかも、その様子を間近で見て、さらにその料理は僕のために作られている。

「フフ……」

 ずっと、一緒にいてくれたらいいのに。そう願ってやまない。夢のような世界で夢を見るなんておかしな話だ。

「はい、できた」

 しばらくすれば、ネオ様は机に白いお皿を置いた。半熟ゆで卵や野菜がふんだんにのっている冷やし中華だ。
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