魔王の勇者育成日記

あきひこ

文字の大きさ
上 下
7 / 25

魔王の勇者育成日記 7.パパママ呼びは辛抱強く待ちましょう

しおりを挟む
 むかしむかし、まかいに まだ くにが なかったころ。たくさんある しゅぞくは みんな ばらばらに くらしていました。ちからの つよい まものが よわい まものを いじめては たべものや きるものを うばって、よわい まものは とても こまっていました。
 そんな まかいの ちいさなむらに ひとりの まものが いました。まものは ちからが つよかったのですが よわいものを いじめたりは しませんでした。
「どうしてみんな なかよく できないのだろう?」
 まものは おもいました。
「ちからの つよいものが よわいものを いじめて いきのこるのが ただしいと みんな いうけれど それは ほんとうに ただしいのだろうか?」
 まものの むらの そばには おおきな はしが ありました。
「あの はしは みんなで きょうりょく して つくったものだ。あたまの よいものが かたちを かんがえて ちからの つよいものが きをきったり くみたてたりして、きような ものが しあげを したのだ。 そうして つくった はしが みんなの やくに たっている。まかいも そうならないだろうか」
 まものは むらの ちょうろうに いいました。
「おれは ちからは つよいが、けいさんは とくいじゃない。 みんなが ちからを あわせたら、もっと すみやすくなるのでは ないだろうか」
 ちょうろうは いいました。
「みんな それぞれの かんがえが ちがうから、ひとつに なるのは むずかしいのさ」
 まものは いいました。
「それなら おれは みんなのかんがえを きこう。みんなの かんがえを きいて、みんなで はなしあうんだ」
 まものは むらをでて、たびに でることに しました。たくさんの まものに あって、はなしを きくため です。

 これは まだ まかいが こうや だったころ。
 ひとりで たびだった まものの おはなしです。
(まおうのだいぼうけん 一巻より)



 懐かしいなあ、とカリフラワーは思った。コスモスが子供の頃、よく読んでいた本だ。いずれリヒトにも読み聞かせる日が来るのだろう。
 少し早い明け方だったが、そろそろコスモスも起きてくるだろうと、カリフラワーは書庫からリビングへと向かった。
「あれ?魔王様、早いですね」
「あっ、おはようカリフラワー。何か早く起きちゃった。昨日早く寝たからかな?」
「そうかもしれないですね。この頃イナホ君がめいっぱい遊んでくれるおかげか、リヒト様も早く眠ってくれるようになりましたもんね」
「うんうん。イナホ君は本当によくリヒトと遊んでくれるよねえ。昨日の『魔王と勇者ごっこ』なんて迫真の演技で、手に汗握ったよ」
 ちなみにイナホが類まれなる演技力で極悪非道な魔王を演じ、リヒトが勇者の役をやっていた。笑えない冗談である。そして魔王本人の前で極悪非道な魔王を演じるイナホは大した度胸であるか、もしくはただの馬鹿だ。
「それにしても、今日はコスモスちょっと遅いね」
「そうですねえ・・・いつも同じ時間にきっちり起きているのに・・・というか、大抵我々より早く起きてきているのに・・・」
 魔王とカリフラワーはきょろきょろと辺りを見回し、首を傾げた。
「珍しくお寝坊さんなのかな?」
「疲れているでしょうし、起きてくるまでは寝かせておいてあげましょう」
「そうしよう」
 日頃コスモスに世話を掛けっぱなしの魔王とカリフラワーは、代わりにリヒトと自分達の朝ごはんの準備をすることにした。そのうち起きてくるだろうとリヒトに若干泣かれつつもご飯を食べさせ、自分達のご飯を食べ終え、コスモスの分を一度冷蔵庫に入れ、食器を片づけた。魔界に冷蔵庫があるのかとかそういうツッコミは勘弁して頂きたい。魔界だからって原始的な生活を送っているとは限らない。きっとエジソン的な人がいたのだ。それはさておき。
 一通りの朝の日課を終えても、コスモスは起きて来なかった。
「ちょっと気になりますね」
「そうだねえ」
 もうそろそろイナホもやって来る時間である。コスモスが居ないことで不機嫌になりつつあるリヒトをお気に入りのぬいぐるみと絵本であやしつつ、魔王とカリフラワーは心配になって来た。
「私、ちょっと見て来ます」
「うん、お願い」
 一番お気に入りのぬいぐるみを見せてもぷいっとそっぽを向くリヒトに、魔王はそろそろコスモスが来てくれないとリヒトが大怪獣になると危惧していた。

「コスモス~?起きてるー?」
 一階にあるコスモスの部屋の扉をノックしてみたが返事がない。カリフラワーはそっと中の様子を伺ってみることにした。
「コスモス~、入るよ~?」
 かちゃ、と静かにドアノブを回して中に入ると、コスモスがベッドに凭れるようにして倒れていた。
「!!!コスモスっ!!!!!」
 カリフラワーが慌てて抱き起すと、コスモスの体が熱かった。
「!すごい熱・・・!」
 カリフラワーはコスモスをベッドに寝かせ、魔王の下へと走った。




「コスモスが倒れた・・・!?」
 第一秘書室で勤務中、連絡を受けたサクラは立ち上がった。キキョウとアネモネが「!?」という顔で見てくるのを視界に映しつつ、続きを促す。
「それで、容態は・・・はい、はい・・・解りました」
 ちなみに魔界にも電話のような連絡手段が存在し、カリフラワーがサクラに連絡を入れたところであった。きっとグラハム・ベル的な人が(ry
「・・・・・・・」
 通信を切り、サクラは解りやすいぐらいに項垂れた。
「サクラ室長、コスモス様大丈夫なの?」
「熱が出たそうだ・・・どうやら風邪らしい。今は落ち着いて眠っていると」
「そっかあ、よかったー・・・」
 アネモネは胸を撫で下ろした。隣でキキョウがガタガタと青い顔で震えている。
「ほら、キキョウちゃん。コスモス様は大丈夫だってば。お仕事終わらせてお見舞いに行こうよ☆」
「こ、コスモス様の大事に、悠長に仕事など・・・っ!」
 アネモネはキキョウの脇腹に肘鉄を喰らわせた。
「頑張ってお仕事しよーね☆」
「・・・・・」
 キキョウは脇腹を押さえながらよろよろと自分のデスクに戻った。
「室長、この書類ハンコくださーい」
「ああ・・・」
 アネモネが差し出した書類に力なく判子を押すサクラを見て、アネモネは瞬いた。
「室長、コスモス様は大丈夫なんでしょ・・・?」
「ああ・・・」
 心ここにあらずといった返事である。
「室長、午後一で会議入ってたよね?」
「ああ・・・」
「何の会議?」
「ああ・・・」
 聞いていない。ただの相槌のようだ。
「もー、室長ー、しっかりしてよー!室長がそんなんじゃ、お仕事終わらないよおー」
「ああ・・・」
「室長ってばー!」
 アネモネはゆさゆさとサクラを揺すってみるが、サクラは青い顔で項垂れているばかりである。アネモネもキキョウもコスモス馬鹿ではあるが、サクラはそんな可愛いものではなかった。
「どーしよ・・・」
 今のサクラに正常な判断が出来るとは思えない。明日から税金100%アップしますとか書いた書類を渡しても判子を押しそうである。
「やれやれ、思った通りのようですね」
「!」
 聞こえてきた声に、アネモネは背筋を正して振り返った。
「カミツレ長官!」
 入口のところに立っていたカミツレは、ツカツカとサクラのデスクまで歩いてきた。
「ツバキから連絡がありましたよ。貴方が使い物にならないだろうと。全く、第一秘書室の室長ともあろうものが、私的な理由で公務を疎かにするとは情けない」
 サクラは青い顔のまま顔を上げた。
「酷い顔ですね。とても部下には見せられません。さっさと帰りなさい」
 カミツレは追い払うように手を振った。
「で、でもカミツレ長官、お仕事は・・・」
 アネモネが食い下がると、カミツレは指で眼鏡を押し上げた。
「どのみち居たところで仕事にはなりません。本日限り、私が執務を代行します」
「!」
 サクラがよろよろと立ち上がると、カミツレは短く息を吐いた。
「いいですか。さっさと帰って、その辛気臭い顔をどうにかしてきなさい。くれぐれも明日の業務には支障を来さぬよう」
 ビシッと人差し指を突き付けられ、サクラはカミツレを見た。
「長官・・・」
 厳しい物言いをしているが、つまりはコスモスの看病に行ってやれということなのだ。自分が仕事を肩代わりするから、と。
「ありがとうございます・・・!」
「さっさと帰りなさい。邪魔です」
 深々と頭を下げるサクラに、カミツレは冷たく言い放った。
「はいっ、失礼します」
 サクラはカミツレに場所を譲ると、そのまま踵を反して早足で歩き出した。
「私も行きたいですカミツレ様!!!」
「駄目です」
 キキョウの半泣きの願いをにべもなく却下し、カミツレは室長の判子を持った。
「さあ、さっさと片付けますよ。貴方達も早く帰りたいでしょう」
「「はいっ!」」
 威勢よく返事をして敬礼する二人に、カミツレは少しだけ口の端を上げた。



「えっ、コスモスが風邪?」
 入口までツバキに連れられてやって来たイナホは、部屋に入ってくるなりへの字に眉を下げた。がっかりが解りやすい子供である。
「あー、だからリヒトがあんなにぶーたれてんのか」
 納得したように頷くイナホに、魔王はゲッソリと窶れた(覆面で見えない)顔で答えた。
「さっきまで泣いてて大変だったんだよー・・・お気に入りのおもちゃもブン投げるし・・・」
 物を投げられるようになったんだなあと感動した直後に顔面にぬいぐるみのグーパンを喰らった魔王はへろへろだった。
「コスモスは大丈夫なのかよ?」
「うん。熱も下がってきたし、今はカリフラワーが看てる。サクラ君にも連絡したから、もうすぐ来ると思う」
「室長が?えっ、あの人仕事はいいのかよ?超偉い人なんだって母ちゃんが言ってたぜ??」
「ああ・・・でも、来るって連絡来たし・・・」
 そういえば第一秘書室の室長ってめっちゃ忙しいんじゃなかったっけと魔王は思い出した。しかし本人が来ると言っていたのだから、何とかしたのだろう。流石である。実際に何とかしたのはカミツレであるが、魔王は一人で納得した。
「まーじゃあ、大丈夫なんだろうな。俺はリヒトと遊んでやるかー」
 イナホがリヒトに近づくと、リヒトは半目で口を三角にしていた。大層ご立腹な御様子であらせられる。
「なーにぶーたれてんだよ。コスモスは具合悪いんだからしょーがねーだろ」
「こしゅ」
「この偉大なるイナホ大先生様が遊んでやっから我慢しろ」
 師匠どこいった。
「こしゅ」
 リヒトはぷう、と頬を膨らませた。
「だからコスモスは」
「こしゅ!」
 リヒトが涙目になったので、魔王はヤバいと悟った。マジで泣きだす五秒前である。
「こしゅーーーっ!!」
 ぎゃーっとリヒトが爆発したので、魔王は慌てて抱き上げた。
「ほーらリヒトー、たかいたかいー」
「やーや!!やーや!!!」
 リヒトは腕と足をジタバタと動かし、魔王の顔面覆面をフルボッコに攻撃した。
「あたたたたたたいたたたたたた」
「やーめろってリヒト!魔王痛がってんだろ!」
「やーやーああああ!!!!」
 リヒトは手にしていたぬいぐるみを放り投げ、運悪くそれがイナホの顔面に直撃した。
「なんだ、反抗期か!?」
 幸いタオル生地のフワッフワなぬいぐるみだったため、イナホは一瞬息が詰まるだけで済んだ。ありがとう、魔王とア●エール。
「リヒトお~、泣きやんでよお~・・・」
 朝から5、6回怪獣の相手をしている魔王はへろへろだった。コスモスが居る時はこんなに大怪獣になることは無いのに、何故自分では駄目なのだろうと魔王の心は落ち込んだ。もしかして:覆面
「すげーな、これが人間の赤ん坊のフルパワーか・・・なかなかやるじゃねーか・・・!」
 バトルゲームをしている中二のような発言をし、イナホはごくりと唾を飲み込んだ。
「リヒトお~、よしよーし、よしよーし・・・」
「やーや!!やーあ!!!」
 生命力を燃やしているんではないかと不安になるレベルで泣き喚くリヒトに、魔王は何をしても無駄なような気がしてきた。ただひたすら泣きやんでくれと思いつつ、抱っこしてぽんぽんと背中を叩く。
(世の中のお母さんはこういう気持ちになりながらも子育てをしているんだろうか・・・すごいなあ・・・)
 魔王なんかたった半日でもうぐったりである。リヒトは元々夜泣きもあまりしない子供だったし、泣いてもコスモスがあやすとすぐに泣きやんだ。ニコニコと笑っている時間が長いだけに、こんな風に泣き止まないとどうしていいのか解らなくなる。
 魔王は徐々に、赤ん坊の甲高い泣き声に精神が苛まれていくような気がした。泣いている、どうしたんだろう、あやしてあげよう。そんな気持ちから、泣き止まない、どうして泣き止んでくれないんだろう、早く泣き止んでほしいという気持ちに変わり、泣いている理由なんてどうでもよくなってくる。ただただ、この泣き声から解放されたいという気持ちになる。
「うう、リヒトお・・・」
 魔王は段々悲しくなってきた。笑っていると天使みたいに可愛いのに、怪獣になるとげんなりしてしまうのも何だか嫌だった。腕も疲れてくるし、もうこっちのほうが泣きそうである。
「おい、リヒト。これを見ろ」
 へろへろになった魔王がつられてイナホの持っている紙を見ると、そこにはコスモスの絵が描いてあった。デフォルメされているが、やたら上手かった。リヒトは意識が逸れたのか、ピタリと泣き止んだ。
「こしゅ」
「そうだ。コスモスだぞ。これはいつものコスモスな。元気いっぱいなコスモスだ」
 イナホは紙の後ろから、もう一枚紙をとりだした。そこには目を回して倒れているコスモスが描かれている。
「コスモスはな、今病気なんだ」
「びょ・・・」
「お前に解りやすいように赤ちゃん語で言ってやると、いたいたいだ」
「いちゃいちゃい」
「そうだぞ。だから今、休んでるんだ」
 イナホはまた新しい紙を取り出した。そこにはコスモスがベッドで眠っている絵と、その横に矢印で元気になったコスモスが描かれている。
「今ここだ。Here。解るか?」
 イナホはベッドで眠っているコスモスの絵を指差した。
「あー」
「コスモスは元気になる為に、今休んでるんだ。お前に解りやすいように赤ちゃん語で言ってやると、おねんね中だ」
「ねんね」
「そうだ。だから今、コスモスはここには来られないんだ」
「うー」
「今無理すると、いたいたいになっちゃうんだ」
「ちゃーちゃい」
「だからコスモスに会えなくても我慢しろ。この絵やるから」
 イナホが紙を渡すと、リヒトは受け取ってじいっと眺めた。
「こしゅ・・・」
 リヒトの目にじわりと涙が溜り、魔王はMN5(マジで泣き出す5秒前)かと身構えた。
「こしゅ」
 リヒトはぎゅっと目を瞑った。泣くのを我慢しているようだった。
「リヒト・・・」
「よしっ、偉いぞリヒト!それでこそ男の中の男だ!」
「あい」
「そんな男の中の男なお前に、この偉大なるイナホ大先生様が、いたいたいがよくなるおまじないを教えてやろう」
「まーない」
「そうだぞ。コスモスが起きれるようになったらやってやるんだぞ」
「あい!」
「いい返事だ!それまでは偉大なるイナホ大先生様と魔王とカリフラワーのオッサンの言うことをよく聞いて、いい子にしてるんだぞ!」
「うー」
「何だ、今の何処に不満があったんだ」
 もしかして:偉大なるイナホ大先生様
「コスモス!!」
 バターンと入口が開いたので、三人は同時に振り向いた。息を切らせたサクラが立っていた。
「魔王様、コスモスは」
「あ、そこの廊下の奥の部屋で寝」
「ありがとうございます!」
 魔王が言い終わるのを待たずに、サクラは駆け出した。
「マジで来たよ室長・・・」
 イナホは呆れ半分、感心半分で言った。
「いいかリヒト、ああいう大人になるんじゃないぜ。ああいうのを『しりにしかれてる』っていうんだ」
「うー」
 それはちょっと違うと魔王は思ったが、最早訂正する元気は残っていなかった。




「コスモス!」
 サクラが扉を開けると、コスモスはカリフラワーに支えられながら上半身を起こして、水を飲んでいるところだった。
「サクラ?何でここに」
「私が連絡しておいたんだよ。でもよく来られたねえ」
「カミツレ様が、帰らせて下さいました」
 サクラがベッドの傍まで寄ると、カリフラワーは場所を空けた。
「私は魔王様のところに行くから、サクラ君替わって貰えるかな」
「はい、ありがとうございます」
「一応薬も飲んで、熱は下がったから。あとよろしくね」
「はい」
 サクラがベッド横の椅子に座るのを見届けると、カリフラワーはそっと扉を閉めた。
「ただの風邪なのに、サクラは心配性だなあ」
「倒れたって聞いたら心配するに決まってるだろう。体調管理が甘い」
 サクラはコスモスの頬に手を添えた。じんわりと汗をかいていて、まだ少し熱い。
「無理するな。自覚が無くても、疲労が溜まっているんだ」
「そうかもしれないね・・・このところ色々あって、ゆっくり出来なかったから」
 子育てを始めて、生活が一変して、更には監査があったりイナホが来たりと目まぐるしい日々が続いていた。リヒトも日々成長して、それに合わせてどう育てていくか対応するのも、中々に神経を使う。
「それでなくても、お前は『カルーア』なんだ。気を付けろよ」
 サクラは頬に添えている手でそっと撫でた。
「サクラ・・・うん、ありがとう」
 頬に添えられている一回り大きな手に自分の手を重ね、コスモスは微笑んだ。
 扉一枚隔てて会話を聞いていたカリフラワーは、そっとその場を立ち去った。覆面を被っている為その表情は読めない。




「あ、カリフラワー。コスモスの様子どう?」
「熱も下がりましたし、薬も飲みましたから、ゆっくり休めば大丈夫でしょう」
「よかったあ・・・」
 心底ホッとした様子の魔王に、カリフラワーは首を傾げた。
「魔王様、何かお疲れですね」
「リヒトが全然泣き止んでくれなくってさあ・・・今はイナホ君が遊んでくれてるけどさ・・・」
 魔王は窶れていた(覆面で見えない)。
「・・・リヒトさあ、笑ってる時は天使みたいだし、いつもすごく可愛いなあって思うのに、全然泣き止んでくれなかっただけで、何で泣き止んでくれないんだろうってすごくげんなりしちゃって、何かすごく嫌だなあって思ったよ。赤ちゃんなんだから泣くのが当たり前なのに、何で嫌になっちゃうんだろうって。可愛いって思ってるのに、何で泣いてるとげんなりしちゃうんだろうって」
 魔王は落ち込んでいるようだった。
「何をされても笑っていられるような親になる必要はありませんよ、魔王様」
 カリフラワーは静かに答えた。
「親だって生き物です。機嫌がいい時や悪い時だってあれば、思うようにいかなくて苛々することだってあります。自分の子供だからって、何をしても許せる、泣き喚いていても可愛いなんて思う必要はないんです。勿論、そういう親御さんもいらっしゃるかもしれませんが」
「カリフラワー・・・」
「生き物を育てるというのは大変なことなんです魔王様。簡単に上手く出来るなんて思うのが初めから間違っているんです。上手くいかなくて悩んだり、自己嫌悪したり、子供に当たってしまったり・・・そういうことを繰り返す内に、子供と一緒に親も成長していくのです。だから魔王様もあまり落ち込まずに、頼れるところはコスモスに頼ればいいんです。逆に、コスモスの負担を減らせる部分は、我々で分担すればいいんです。そうやって皆で協力して育てれば、大変な子育てだって、いい思い出になりますよ。リヒト様が大きくなった時には、そんなこともあったねって笑い話に出来るはずです」
「か、カリフラワー・・・」
 魔王はちょっと感動した。カリフラワーがめっちゃいいことを言っている。まるでコスモスみたいな説得力である。
「うん、そうだよね・・・我が輩が一人で育ててるんじゃないんだもんね・・・カリフラワーも、コスモスもいるし、ツバキさんもイナホ君も、キキョウもアネモネも、サクラ君も協力してくれてるんだもんね・・・」
 魔王はじんわりと目頭が熱くなるのを感じた。リヒト一人の為に、これだけ多くの人が集まって協力してくれている。一人で悩まなくたっていいのだ。それがどんなに有難いことであるのか、魔王は深く感謝した。
「うん、我が輩ももっと頑張ろう。リヒトの為に出来ること、無理しないで、頑張ろう」
「そうですね。まずはコスモスの負担を減らしたいですね。ちょっと頼り過ぎですしね」
「そうだよね・・・よし、ご飯は我が輩が作る!」
「では私は、絵本の読み聞かせをしましょう。最初はめっちゃ嫌がられるでしょうが、そこは私のこのストーリーテリング力で」
 カリフラワーは謎のガッツポーズをした。カリフラワーがストーリーテリングしてるところなんて見たことないと魔王は思った。

「ところでサクラ君、室長の仕事はいいの?」
「カミツレ長官が帰してくれたそうです」
「あっ、優しいんだ長官・・・(監査の時めっちゃ怖かったのに)」
「効率重視の職場ですから、腑抜けになったサクラ君より自分でやった方が速いと判断したんでしょうね」
「・・・・」
 魔王の中のカミツレの印象は、「こわい→やさしい→こわい」で上書きされた。

 お見舞いにやって来たアネモネとキキョウにより、カミツレから生姜湯が差し入れられるのはこの数時間後の話である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...