次元鍵

文字の大きさ
上 下
4 / 4

知らぬ間の邂逅

しおりを挟む
今日は夢を見なかった。あの鍵を抜いたから?
それはさておき、早く支度をしなければ。

学校は9時30分から授業、起きた時刻は8時だ。

「お米炊き忘れてた。んもーラフィーったら」

小型端末に文句を言うけど反応がない。

「電池切れしてる!えー、これ半永久電池謳ってた最新モデルだったのに」

パンを口に咥えながらバタバタ支度をし始めた。
このまま外に出れば誰かにぶつかって恋でも始まるかな?

「ディメンドがあるからいっか……こいつ次元通信とか言うくせに学校内のスターコネクトでしか通信できないけど」

カバンの中に宇宙パソコンとディメンドをしまい仏間に行って手を合わせた。

「昨日はいっぱい楽しいことがあって、ようやく振り切れそうです」

線香を消して、ドタバタと出る準備を始めた。

「カバン、あとえっと……昼は学食でいいや」

慌てて外に出て昨日と違うバス停に向かった。

「8時30分発、サクラドオリ経由夢乃市役所行き」

ギリギリ駆け込み席に着く。隣の席には夢で見たような、はたまたテレビで見た気のする幻想的な少女が座っていた。

透明感のある透けた髪に、別の空間にいるような空気感。

こちらに気付く事なく、ラフィーでPLSを開いていた。

「なるほど、突然挨拶しても驚かれない」

メモを延々に取る少女。だが見れば見るほど何か違和感を覚える。

「(この子の周り何か違う空間みたいなのが見える。それに夢で見たイメリアって子に似てる気がする)」

あんまりまじまじとみるのは良くない。外の景色でも見てよう。

「次はサクラドオリ、サクラドオリ。28番さん、29番さん、2番さん降車場です」

バスは支払い時に番号をもらう。この番号で降りるタイミングを教えてくれるシステムだ。囚人の気分だけど。

「んー、伸びすると快適だ」

涼しげな道を通り抜けて学校の前に来た。
久方ぶりの学校は特に変わる様子もない。

『学籍番号3B-0278ソラノ・カザミ、入校許可』

荷物をコンベアに乗せてゲートを潜る。一昔前の空港でやってたシステムを取り入れたと言っていたが、本当に古典的すぎる。

『イジョウナシ、どうぞ8階7号室へ』

テレポート板で一気に8階まで飛ばされて、少し酔った気分になった。

「これ乗り慣れないとキッツイよなぁ」

7号室の扉に手を触れる。赤いレーザーか何かが顔や体を通る。感覚としては無。

『3B-0278-0855施錠。学籍番号3B-0278さん、先生からお話があるので授業終了後残るようにとの指示があります』

入ってすぐのモニターに了承印を求める表示が出てきた。
連絡の行き違いをなくすためのシステムだけど、正直邪魔くさい。

「はいはい、ソラノっと」

きっと出席日数の話だろう。公欠で休もうが課題はやるものだ。

「重力六倍の星を想定した建築デザイン案2枚と、誰かしら人間の模写8枚と画材4種類以上で2作品、元地球総統アルボラ・ミラーノの粘土造形、多過ぎて吐きそう」

宇宙アートデザイン専攻は課題のオンパレード。
新参企業が多い星像美形の仕事、しかし入りたい人も多いのでしっかりと他との差別化を図る為にたくさん作らなければいけない。

「資格取ってるし勘弁してよねー。人間模写は…ラフィー検索、自動生成人間」

ホログラムにより架空の人物が写し出される。

「ポーズはジャンプしてる感じで、それから手首はこう捻って」

誰もいない教室で黙々とやるのは好きだ、両親が亡くなる前は泊まり込みでやった事もあるくらい。

「とりあえず1人目完成、次2人目はコーヒーを飲んでるおっさん」

デジタルスケッチパッドに描いた絵を保存して次の紙を開いた。

「宇宙筆の書き心地は相変わらず最悪、けど鉛筆は高いからなぁ」

それにまだ売店もやってない。

「提出さえすればいいからこれくらいにして次、クランクラン星人の遠吠え」

そんなこんなでちらほらと登校してくる人が見えてきた。

「ソラノさんおはようございます、必要課題の方一応送っておきましたが」

もう大人とはいえ社会に出たことのない人間の集い、統率者が居る。
ミヤリ・タノダがそうだ。

「みやりんありがとねー、おかげで人間模写終わったよー」

「圧倒的作業速度ね。ようやく吹っ切れたかな?」

「そうだね決意が固まったというかなんというか」

「ソラノとみやりんじゃないか。私抜きで内緒の会議かい?」

「トナエおはよー。元気してた?」

トナエ・ナブガワ。Qncに内定の決まったエリート。

「トナエさんおはようございます、さして内密なことは話していないですよ」

「でもよかったぁ!ソラノずっと来ないから一年の時にいた誰か忘れたけど、2番みたいにひっそり退学かと思ってた」

「そんな事ないよ。退学する時は学校のゲートをブラックホールと接続するって言ったでしょ」

「どんな高度技術持っているんだ」

「はーい、みなさん授業始めますよ。席着いてね」

先生が入ってきて自然と騒がしい教室が静かになった。

「欠席は0、ゼロ?!久しぶりに全員出席か」

プロジェクターに他星企業就職のM&DMと映し出された。

この時間は就活の時間、先輩達のデータをもとにそれぞれの人間像に当てはめて適性度を導き出すのが一年。

二年目では行きたい会社は、どんな会社で何をしているのか。またどこにあり、どのような資格がいるのかを調べるのがメイン。

三年目は一番いらない就活に向けたアドバイスの授業。

「この中で将来他星希望の人は何人いたかな、ひぃふぅみぃ…13人か。まぁ転職や転勤で他星に行く人も居るだろうという事でね、この授業を進めていきたいと思いますが」

「ガデネ先生、共有ファイルまだ上がってないです」

「あーすっかり忘れてた。今上げたからね」

"でね"と"が"のイントネーションが強いことからガデネ先生と呼ばれている。

「大前提として、地球以外の星で住むように体はできていません。なのでね、大抵は活動着を着て生活することになります。デメリットを箇条書きしたのでみなさん把握してください」

1.酸素がない星も存在する
2.SUが使えない星も存在する
3.地球との往復で初任給二回分の星も存在する
4.実態不明の星も存在する
5.ホームシックで帰ってくる人もいる
6.事件発生率が高い星も存在する
7.食事が合わない星も存在する
8.次元衛星電波が届かない星も存在する
9.過疎星に会社がある場合、偽会社の可能性が高い
10.物価が高い星も存在する

「とうのとこはこの10個な?悪いところなんて探せば地球にも腐るほどある。次はメリット」

1.価値観が違うからこその特別感
2.物価の安い星も存在する
3.気候によれるが地球より過ごしやすい
4.地球人と友好的な星も存在する
5.地球間との無料船が出でいる星も存在する
6.四季が固定されている星も存在する
7.重力が軽い星も存在する
8.旧式設備に出会える
9.とても綺麗な風景が待ち受けてる
10.刺激的で毎日が新鮮

「大手の旅行会社や、引越し業者の取ったアンケート結果から抜粋したがこの限りではない」

他星のデメリットは事故率もあるのになぁ。

「それじゃグループを作って、他星移住に置ける私的考えをまとめてくださいね」

グループ分けは適当である、1人班もあれば9人班もいる。

「ソラノとみやりんやろー!」

元気よくやってきたみやりんとトナエ、私は基本この2人と組んでいる。

「他星移住の私的考えをグループで考えるって謎だよねー」

「わかる、適当になんかまとめよ」

「ラフィー検索して。他星移住」

トナエがラフィーを使って検索をかける。

「地球人専門家のランドラ星オルバスニア帝学名誉教皇によると、地球人は適応能力が高くて多くの星に渡っている。他星人の侵略的行動とは違い、伝統的文化を尊重し積極的な理解を深める光景がみられる」

「帝学ってなんだっけ」

「帝学はランドラ星とかのオルバスニア群に所属する星達の独自教育機関だよ。向こうでは賢い程偉いから、賢い人は教皇とか言われてる」

「続けるね、地球人は文明の発達が豊かであるがゆえに整っている場所と整っていない場所の差が顕著に目立つ。他星進出した企業で撤退をしている所は大抵そうである」

「あれだよね?マンタ自動式浮遊車社とかだよね、他星に売り込みいったらもっとすごいの見せられたって社長が会見してたやつ」

「懐かしいね。五年前だっけ」

「そうだね。要約すれば、他星でも需要を満たせる所しかメリットがないかな?生産性においてだけど」

「少し趣旨から逸れてそうだけど、まぁどこの班も似た結論だと思う」

「あ、ってかトナエはQncに就職じゃん。まさに他星移住だよね」

「正確には宇宙居住区生活だから、船と同じかな。星には降り立つけど旅行感覚らしいし」

「量子探査だもんね。宇宙居住区生活かぁ、家賃タダで食事付きなんでしょ?最高じゃん」

「ソラノさん、そんなことありませんよ。地球には帰れないし、他の星に住んでいるわけでもないので住所が定まっていない、放浪者のような目で見られる事もあるのですよ」

「そんな古臭い考えの人まだいるの??」

「みやりんはほら、お父さんがCdの役員だから」

「やっぱ地球の外怖い」

「まー地球内企業もありだけど、あと何年持つか」

「去年なんて二百年以上続く財閥系企業が二件も倒産していますしね。慎重に選ばないと非労働者用に作られた施設に飛ばされますよ」

「それもありかも。月の住人って古い作品にもあるし」

「今年の精査で2000人が殺処分されたのによく行こうって人いるよなー」

「ほら就活とか疲れるじゃん。みやりんはお父さんの会社だっけ?」

「デザイン部門で宇宙最先端のデザインを造る事になってます。就活よりこっちの方がプレッシャー高いですけど」

「確かにやばそう。宇宙最先端ってどんなデザインなんだ」

「色んな星の人が昔考えた宇宙人くらいのアイデアいるよね」

「あーあれね。グレイをみた他星人が"こんな斬新的なデザイン見たことがない!ぜひこれで作品を作らせてくれ"ってあったね。しかも見た目めっちゃグレイだったよね」

「爆ウケしてたね。他星語理解が深まるごとにネタ話にされてく可哀想な他星人達って」

「ドキュメンタリー作られてたよね」

「そこの3人はまとまったかね?他所話するのはいいが、意見を述べるときに詰まっていては意味がないよ」

「大体まとまりました。みやりんのお父さんが宇宙居住区生活なのでそこでの体験とネット等の情報を合わせてみました」

「ならよし。まぁあんまり他の班に迷惑がかからんようにな」

「はーい」

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

槙島源太郎の『まあ週刊ユーモア短編集』

槙島源太郎
SF
コメディタッチの短編小説です。 SFや恋愛、日常にある笑いをお届けします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

Condense Nation

SF
西暦XXXX年、突如としてこの国は天から舞い降りた勢力によって制圧され、 正体不明の蓋世に自衛隊の抵抗も及ばずに封鎖されてしまう。 海外逃亡すら叶わぬ中で資源、優秀な人材を巡り、内戦へ勃発。 軍事行動を中心とした攻防戦が繰り広げられていった。 生存のためならルールも手段も決していとわず。 凌ぎを削って各地方の者達は独自の術をもって命を繋いでゆくが、 決して平坦な道もなくそれぞれの明日を願いゆく。 五感の界隈すら全て内側の央へ。 サイバーとスチームの間を目指して 登場する人物・団体・名称等は架空であり、 実在のものとは関係ありません。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...