次元鍵

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ソラノ

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森の木々が揺れる中、異様な雰囲気を纏った一本の木は微動にしない。

そこに自分の視点から見た様子では9人の人が見えた。

それぞれの角度からその木を囲うように立ち、自分と同じように訝しんでいる。

『改めて私はソラノ。次元鍵のリーダー。能力は空時共振者よ』

『何を改ってんだリーダー』

『まぁいいだろ。リーダーの決意だ。俺らも名乗ろうぜ、次元鍵副リーダーの__』

順次自己紹介が行われるが、なぜか曖昧で聞き取りにくい。

『これで最後にできるなら最後にしたいからさ、初心に帰ったような緊張感で挑むよ』

『この世界もダメだったけど、活路はしっかり見えたんだろ?』

『うん。だけどごめんねみんな、特にイメリア』

『うんうん、次の世界でも私なら見つけれるしまた逢えるから!』

そんな夢を見た、気がした。

目を覚ましていつものように朝支度を整える。
炊かれた白米を器に盛り付け、卵をそこに落とす。
海苔を5枚取り出してパリパリと割ながら上に乗せていく。

「朝はこれ!うん美味しい」

食事を終えて、仏間へ向かい手を合わせた。

「いってきます」線香を消化して座布団から立ち上がる。

サラサラの青い髪をフードに仕舞い込む。

「今日も1日頑張ろう」

家の鍵を閉めてバス停へ歩いていく。

「えっと8時の48分着だから、もう少し急いだほうがいいかな」

たったったと足を速める。

「やば間に合わなそう。もっと早く走らないと!」

その言葉に耳鳴りを覚える。自分で発した言葉なのに。
耳鳴りのせいか辺りがゆっくり動いて見える。

「これはもしかして走馬燈?」

ドン!と何かぶつかり全てが現実に引き戻された。

先程とは変わり加速する周りに、音の数。

「君大丈夫?ほら、手を貸すから」

それから手を差し伸べる白髪の少年。

「すみません!こっちからぶつかったのに。ありがとうございます!」

ペコペコとお礼をしてバスに飛び乗った。

「8時47分発車のためしばらくお待ちください」

バスの運転手のアナウンスが疲れた耳にうっすらと入っていく。

「あらぁソラノちゃん、また息切らして」

「おはようございます。皆山さん」

いつもの定位置に腰を下ろし鞄を膝の上に乗せた。

「今日も学校は休むのかい?」

「うん。でも別に立ち直ってないわけじゃなくてね!私は夢を見つけたから、そのために頑張ることにしたんだ」

「あら立派ね。ファン1号はわたしだよ」

「皆山さんには優待券あげますよ!やったぁ」

ゆっくりとバスが発進する。世間話をして終着駅へと辿り着いた。

「じゃーね皆山さん」

元気よく降りて駆け出す。

私はソラノ、夢は画家。
現在は専門学校で就活をしながらバイトをしている。
両親は一年前に他界して、祖父母の支援を受けながら通学している。
といえば聞こえはいいが、両親の死後から気力が起きずにいる。
インターンと嘘をつき公欠を取りながら一日中山へ籠り、絵を描いて帰る。

「今日はあの木にしよっと。どことなく夢で見た木にそっくり……あれなんだろう」

鍵だった。装飾のない質素なカギ。
物質はよくわからないが、固いのは確かにわかる。

木に突き刺さっているから。

「可哀想に十本も刺さってる」

そこで記憶が過ぎった。

『ソラノには記憶を固定した鍵を託す。これだけは絶対に守り抜くからな』

みんなで刺した鍵。なんで?

一本引き抜いてみると突然それは形を変えた。

「ふぅ、ようやく俺の記憶を呼び起こしてくれたな」

タレ目にダボダボのシャツ、首や手には飾りだらけの少年。

「リーダーだけだと頼りないってね。形態適応を使ってここに居たわけ、知らないって顔してるね」

あまりの出来事に固まって動けない、脳が処理しきれない。

「あ!あんまり興奮すると能力が暴発するよ。ほら深呼吸」

背中を軽く、さする手は覚えがあった。

「えっと、夢に居たよねあなた」

「夢かぁ…確かにそっちの方が固定楽だもんね。なら改めて次元鍵のメンバーが1人モーフィアさ。能力は形態適応者、って俺達知らなかった?名前が能力名なんだよ」

「次元鍵…私はリーダーって言ってたよね、能力はソラノ名前もソラノ」

「まぁ書くとこんなところかな」

空中に空時共振者、形態適応者とかくモーフィア。

「リーダーの力は時間や次元を共鳴させて急速な変化をもたらしたりするってわけ」

「どうやって、わたしにそんな力があるとは思えないけど」

「たしか。ちょっとこのリンゴを持って」

モーフィアの投げたリンゴを受け取り見つめる、変哲のない普通なリンゴ。

「それに対してこれは腐っているというイメージを覚えて」

「う、うんやってみる。腐ってる腐ってる腐ってる」

手のひらに熱のようななにかを感じた。
ぐちゃぐちゃと手に付く不快な液体。

「ひぇっあ?!」

驚いて投げ落としたのは腐ったリンゴだった。

「これが私の能力……」

実感はない。だが、確実に熱を帯びた手と、あの腐ったリンゴはこの力の存在を示している。

「他の名前も教えとくかぁ。微細制御者(ミクロス)と意識投影者(イメリア)と心象変換者(エモーシア)と物質生成者(ジェネシス)と共時移動者(クロノス)と感覚拡張者(センサリア)と意志共鳴者(ユニティ)と風景造形者(シーンスケーパー)だ。それぞれ漢字と名前は覚えておけよな!」

「ながっ、それに多すぎるって」

「それじゃあ俺はここまで。あとはそれぞれの記憶から得る物を得て来る日に備え__」

「消えてしまった。次の鍵を抜けってこと?」

次の鍵を引き抜いてみたが何も起こらない。

「どういうこと?ちょっとえ、隣は?その隣は?モーフィア以外全部機能していないじゃん!」

森の中に叫びが木霊した。居た堪れない気持ちを堪えて山を降りた。

「この力でなにをどうしろっていうのよ」

家に着いて考えてみたけどぱっと浮かぶことは無い。

「とりあえず何か試してみる?えっとトマトとかかな」

冷蔵庫の野菜室を開けてミニトマトを一つ手のひらに置いた。

「イメージ、今回は良い感じに熟れろ熟れろ」

また手のひらに熱がこもった。力の流れは大凡理解可能な範疇だった。

「うん、美味しい!わたしすごい力に目覚めたってこと?」

柿、林檎、それから大根の葉っぱに人参も、色々試した。

「成長促進能力ってところかな?これがもっと早く開花してれば私、宇宙に行けたのかな」

少し儚い気持ちになりつつ熟れさせた果物を食べた。

「それにしても来る日ってなんだろ。夢の感じだと失敗してやり直したみたいな流れだったし……仮にあそこの9人が全員能力者だとして不可能なことがあるのかな」

食事も終わったので風呂に浸かりまったりと考えてみるが結論に至らない。

「そもそもこんな力で何と戦うんだろ。能力、異能力?えっと……ラフィー検索して、超能力」

ラフィーと呼ばれた小型端末がプロジェクターのように風呂場の壁へ映像を映した。

「ふむふむ。よく見るやつだと磁石人間に鉄を食べれる人?それに人体発火、ラフィー追加で空時共振者について検索」

ラフィーの検索でもヒットしない。

「難しい論文ばっか出るけど、どれも関係なさそうだしな。ソラノも有名な穢沼宇宙さんの記事しかなし」

目でスクロールしていくがやはり目ぼしいものはない。

「いっそこの力でParallel Line Story始めたら売れるかも?」

段々現実逃避の思考に偏り、風呂を上がった。
若干の上せ気味でフラフラとする頭。

「ラフィーアバター作って。PLSのアカウントはターコンだったはず、そーそれ」

そんな思考が回らない中で始めてしまった。

机の上に沢山のものを並べて。

「みなさん初めましてー、はつのLiveでーす」

『絵は?』『ターコンさん実家感すごい』

コメントがいくつか流れて行く。

そこで段々と現実に戻されて行く気がした。

「(やっば、ノリでスタートしたけど私何してんの?!!)」

『何すんの?』『人気ないプラッサーってみんなすぐライブやるよな』『人気ないって2万人もフォローいる人に何言ってんだ』

「喧嘩はやめようか。いやー実はノリで始めちゃったんだけど……何しようか特に決めてなくて、とりあえずこの鉄球壊します!」

ノリと勢いで鉄球を握り、力を込める。
手のひらに熱を感じ、中で何かが崩れる感覚を覚え手を開けるとボロボロに錆びて砕けた鉄球があった。

「ど、どうでしょう」

『すごい。いいね!』『マジック?』『ふーん、まぁまぁじゃない?』

「次はコレ!野菜の切った上のやつを、こうしてほら」

手のひらで育って行く人参の葉。

『最近流行りのリアル合成かな?』『精度高くね』『最近見た"モーフィア"ってプラッサーもリアル合成でなんかやってたよな』

「え!モーフィアっていった?」

『知り合いなん?』『あれじゃね?頼んでる合成師が同じとか』『増えてるもんな最近』『コイツ合わせて四人くらい見かけた』

 「そ、そう!合成師が同じなの(あの名前ってことは……能力者は能力と名前が同じって言ってたよね)」

それから他のものも成長させたりして一時間。
配信を切って整理を始めた。
ネット上にある情報とコメントにある情報を照らし合わせてみると驚いた。

モーフィア、クロノス、エモーシア、ジェネシスの4人が同じプラッサーとして活躍していること。

だが全員始めたのは今日だった。
名前の由来は夢で見た。
合成のコンセプトも夢で見た通りにやってみた。

モーフィアは変わらぬチャラい見た目で肉体を自在に貶下させていた。

クロノスは過去に戻れると言ってその場から消えたり戻ったりしては歴史について語っていた。厨二臭いファッションセンス。

エモーシアはカラフルな髪色に能天気そうな喋り方で人気を得ていた。突然街中で人に声をかけてハッピーにして行く。常にオーラが出ていて、相手に触れるたびに色が変化していった。

ジェネシスは見たことのない流動する金属の服を着て、変な造形品をたくさん作っていた。

「みんなの共通点は夢、みんな次元鍵とやらに関係しているのかな。それに他のメンバーがあと五人いるはず」

だがネットでどれだけ検索をかけてもヒットしない。

「あー……仕方ない、明日学校行って聞いてみるか」

学校の連絡用に使っている連絡アプリ、スペシルノを開いた。

宇宙留学中の同期から心配のメッセージが何件かきていた。

「まぁ出席ギリギリ足りるレベルで過ごしてるからね。とりあえず大丈夫だよ、明日学校行くからっと」

通知をオフにして布団に潜ると暖かさを感じた。

「明日は学校、明日は学校」
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