上 下
4 / 7

3話 魔法適正率

しおりを挟む
俺は隣に女の先生いる状況で歩いていた。 
 生徒とは違う服を着ており、短いスカートに魔術師らしくないコート。本は二冊持っていた。俺に投げてきた本は魔導書と言われる本で、片方は自分が担任を務めている教室の生徒ののプロフィールだそうだ。その言葉の本意に俺は気づかない。
 周りからは、「エル先生可愛いなぁ」とか、「何であいつとエル先生が!?」とか聞こえてくるが、俺は無視をした。てか喋るなら部屋から出て来いよ。
 先ほどからずっと歩いていた。凛々しくも儚げなその姿に、俺はスゥーッと心を惹かれた。でもその理由は理解できなかった。
 ずっと沈黙が続いていた。俺はそこまで気にしなかったが、エル先生は気にしているようだ。

「ね、ねえ。テスタ君さあ、悩みとかないの?」

 俺は、その言葉待ってましたと言わんばかりの勢いで喋りだす。
 人気の無い廊下を二人で歩いていることに、俺はともかく、先生までも気にしていないことを、部屋から覗いているどもはこう思った。
―――エル先生、可愛い―――と…………。その意図は本人たちしか分からないし、その思いは絶対に俺たちに届かなかった。
 俺と先生だけの声が響く廊下に、俺の声が轟く。

「ありますよ! 友達が―――」

 そう言って俺が悩んでいる、友達についてを話した。
 ちょっと自分で話していてウルっときたが、自分の今には必要ないと思いやめた―――が、それに追い打ちをかけてくるように、エル先生は真剣に聞いてくれた。
 やっぱり先生なんだなと思えた。優しく聞いてくれていたが、ちょっとうぶな所もあった。子供の悩みの対処は手馴れていたが、世間一般的な所は全く分からずってとこだ。俺の方が何にも知らないのだが。

「そっかぁ。でも、また今度その話は聞いてあげるね。」
「え………?」

 そう言われて立っていたのは、大きな扉の前だった。
 そうして先生のいた方向を見ると、手を振って「またね」と言って去って行っているところだった。
 一人取り残された俺は、目の前に在った扉を叩こうとしたら――

「学園長、あいつの魔法適正は…………!」

 そんな声が聞こえてきた。
 トーンが低くも、透き通った声だった。絶対に男だ。
 自分でも分かった。この場合部屋には入らない方がいいと。

(やっぱり俺は………)

 そう言って扉のすぐ隣に腰を下ろす。何人踏んだか分からない床に、俺はお尻を置いた。
 
「たったの2ですよ! そんな奴入れたら―――」

 俺はたったの2という言葉に耳を立てた。
 魔法適正とは、魔法の所持数限度、魔法の威力。魔力の量などから、魔法使いに向いているかを示す数値の事だ。
 一般人の平均値は5とされている。5という少なさでは、魔法使いを目指すのは無謀な事だった。

「私が見込んだ男なのだ――気にする出ない―――」

 その声は、静かで落ち着いた声だった。だが、扉越しで聞いていても、力強く体が痺れる声だった。
 一度だけ聞いたことがある声だ。この学園の学園長、ソーナ・エルヴェンド。一回だけ森に来た女だ。俺と武術でなら互角で戦える数少ない人間だ。武術だけで互角なら、魔法を使われたらボコボコにされるだろう。
 フィーナの昔馴染みだそうで、人間とエルフのハーフだそうだ。
 だそうだというのは、見たままじゃ人間にしか見えない。

「ですが………」
「この世界は魔法だけじゃないという証明になる男だからな―――それに………」

 学園長は口を噤んだ。
 そして、男の方も気付いたようだ。

「何者だ!」

 聞いていたのがばれたようだ。
 俺はその場で逃げようとは思わなかった。逃げたって捕まるし。
 ドアが大きな音を張り上げて開いた。
 出てきた男と目が合った。
 金髪に長髪の男だった。キリッとしている双眸。他の生徒とは違う制服。
 目がパチパチするほど輝かしい光が見える。

「お前は………テスタ・ディヴァインか?」
「あ、ああ。そうだけど。」

 とても鋭い目で睨んでくる。さすがにさっきの俺よりひどい。それに俺は気づいていない。
 そうして、何も言わずに中に入っていった。手招きも何もせず、ただ、ドアを開けっぱなしにして入っていった。
 俺は入っていいと思い入っていった。

 入ると、中には大きな椅子に偉そうに座っている学園長の姿があった。―――本当に偉いのだが。
 その隣に立っているのは……眼鏡をかけて、早くしろと言いたげなエル先生と同じ格好をしている女の人だった。
 そして男が立っていた。

「久しぶりだね、テスタ……」

 その抑制されている声は、なぜか恐怖を感じる声だった。
 見た目は若いが、たしか100歳前後だと思う。エルフは長寿の種族として有名だ。
 男に睨まれながら、学園長の前まで行った。

「久しぶり」
「それじゃあクラウドは下がってくれ。あとカルネも、二人で話したいんだ。」
「了解しました。」

 そう言って、カルネと言われていた女の人は、そそくさと部屋を出て行った。
 だがクラウドは納得できないらしく、部屋から退室しなかった。
 俺を凄い目で睨みつけて、そして学園長の方を向く。
 学園長は不敵な笑みを浮かべ、俺の方を見ていた。

「納得いきません!」
「私は同じことを二回言わないぞ?」
「ですが………」

 クラウドは口を詰まらせ、何故か俺を睨む。俺は知っている。このことをとばっちりということを。
 俺は話が終わるまで静かにしていた。
 睨んでくる目を見ようとすると、クラウドは目を逸らす。
 チョーうぜー。

「こんな輩を学園長と一緒に居させたら、何をされるか………」
「102の婆に手を出す奴がいちゃ世も末だね。」

 不敵な笑みを浮かべて言っている。
 102の婆さんだとしても、見た目はエル先生ぐらいの若さだ。
 てか何をされるんだ? 学園長は。

「ですが………」
「私にもう一回同じことを言わせるのか?」

 もうその言葉は脅迫の意が込められていた。でも俺は気づかず普通に流す。
 ぴくっとクラウドの肩が震えた。それほど怖いのだろう。

「では、私も―――」
「クラウド・ソーサール」

 抑制されている声だが、まともな人間が聞いたらその場にへたり込んでしまうだろう。
 とても力強い声に怖気づいたのか、俺を睨んで退室していった。何も言わず、最後まで納得いかなかったようだ。
 俺はもっと学園長に近づいた。

「学園長、俺は何でここにいるんだ?」
「何でって、君魔法使えないでしょ?」

 俺はその言葉の意味をすぐ理解した。
 魔法が使えない理由――それは

「魔法適正率が〈2〉だから?」
「ああそうだな。それに君に魔法は向いていない。」

 俺は拳に力を込めた。自分の弱さが悔しかった。10年近く前、親に捨てられてから教育を受けず、自然でどう生きるかだけを、フィーナに教えてもらった。
 魔法はどう頑張っても学歴というものが必要なようだ。物理的ではなく、結果的なものだ。勉学に励んでこその魔法だ。1年ろくな勉強をしてこなかった俺に魔法は無理だと言っているんだ。

「魔法が使えなくたっていいさ。勉強するから。」
「でも君は幸運だよ。人間離れした身体能力があるんだから。」
「どういうこと?」
「力があるものは生きていける。君はここで絶対に成長するはずだ。」

 今度は不敵な笑みではなく、普通に笑っていた。
 でもそれはいい意味と受け取れなかった。魔法が使えないことに変わりはないからだ。
 魔法と友達を求めてきたのに、失敗ばかりやっている俺を悔んだ。

「そう、じゃあ今から俺はどこに行けばいい?」
「じゃあ後ろにいる人に、プロブレムまで連れて行ってもらえ。」

 そう言って後ろを振り向くと、クラウドが立っていた。
 その言葉を聞いたクラウドは、今日一番のものすごい目を持って睨んできた。その目に俺はぴくっと少しだけ腰を引いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

桐壺の更衣になるはずだった私は受領の妻を目指します

白雪の雫
恋愛
美容オタクというか休みの日は料理を作ったり、アロマオイルマッサージをしたり、アロマオイルを垂らしてバスタイムを楽しんでいるアラフィフ女な私こと桐谷 瑞穂はどうやら【平安艶話~光源氏の恋~】という源氏物語がベースになっている乙女ゲームに似た世界に、それも入内したら桐壺の更衣と呼ばれる女性に転生した・・・らしい。 だって、私の父親が按察使の大納言で母親が皇族だったのだもの! 桐壺の更衣ってあれよね? 父親が生きていれば女御として入内出来ていたかも知れないのに、父親が居ない為に更衣として入内するしかなかった、帝に愛されちゃったが故に妃達だけではなく公達からも非難されていた大納言家の姫にして主人公である光源氏の母親。 そして主人公が母親の面影を求めて数多の姫達に手を出すと同時に、彼女達を苦しめ不幸となる切っ掛けともなった女性──・・・。 ゲームでは父親の遺言から幼い光源氏を残して逝くところまでが語られるけど、実は後見人が居ない状態で入内する前に私を心配して保護しようとしてくれている年上男性の存在が語られているし立ち姿もちゃんとあるのよね~。 その男性は智寿といって受領で超金持ち!長身のゴリマッチョ!しかもセクシーな低音ボイス! 実は女性受けしそうな外見をしている帝や光源氏、頭中将達といったキャラよりも筋骨隆々な智寿様が推しだったのよね~♡ 今の私は大納言の姫とはいえ根は二十一世紀の日本で生きていた庶民。 そんな私が帝の妃として・・・否!何もかも占いで行動が決められるという窮屈な場所で生きて行けるはずがない! よしっ!決めた! 二十一世紀・・・とは言わないけれど、せめて健康的で清潔な生活を送る為に私は智寿様の妻になる!!! 私が入内しなければ藤壺も葵の上も六条の御息所も・・・皆不幸にならないもの!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義です。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

奴隷身分ゆえ騎士団に殺された俺は、自分だけが発見した【炎氷魔法】で無双する 〜自分が受けた痛みは倍返しする〜

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 リクは『不死鳥騎士団』の雑用係だった。仕事ができて、真面目で、愛想もよく、町娘にも人気の好青年だ。しかし、その過去は奴隷あがりの身分であり、彼の人気が増すことを騎士団の多くはよく思わなかった。リクへのイジメは加速していき、ついには理不尽極まりない仕打ちのすえに、彼は唯一の相棒もろとも団員に惨殺されてしまう。  次に目が覚めた時、リクは別人に生まれ変わっていた。どうやら彼の相棒──虹色のフクロウは不死鳥のチカラをもった女神だったらしく、リクを同じ時代の別の器に魂を転生させたのだという。 「今度こそ幸せになってくださいね」  それでも復讐せずにいられない。リクは新しい人間──ヘンドリック浮雲として、自分をおとしいれ虐げてきた者たちに同じ痛みを味合わせるために辺境の土地で牙を研ぎはじめた。同時に、その過程で彼は復讐以外の多くの幸せをみつけていく。  これは新しい人生で幸せを見つけ、一方で騎士団を追い詰めていいく男の、報復と正義と成り上がりの物語──

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

【完結】婚約している相手に振られました。え? これって婚約破棄って言うんですか??

藍生蕗
恋愛
伯爵令嬢のマリュアンゼは、剣術大会で婚約者を負かした事で婚約破棄をされてしまう。 嘆く母を尻目に、婚約者であるジェラシルへの未練は一切無いマリュアンゼは、今日も熱心に母の言付け通りに淑女教育を受けていた。 そんな中、友人から頼まれた人体実験を引き受けてくれないかと、気軽に妹を売る兄の依頼を受ける事になり──── ※ この話の最後は読み手のご想像にお任せする作りになっております。苦手な方はご注意下さい。 ※ 他のサイトでも投稿しています

虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

みおな
恋愛
 何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。  死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。  死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。  三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。  四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。  さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。  こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。  こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。  私の怒りに、神様は言いました。 次こそは誰にも虐げられない未来を、とー

処理中です...