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第04章 王族近衛騎士団

No.73 休暇

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 騎士達の勉学は戦いの事だけでなく、例えば「自国を含めた各国の法律」や「各国間で結ばれた条約」、「各国の使用する言語」など大陸内の国家に関する政治的な事にまで知識を広げることになる。そうすることで外交的な戦略を行えるようにするためだ。
 その学習の過程で必然的に発生する問題が個人の得手不得手である。法律や言語などが苦手な者も当然いるし、得意な者もいる。それも考慮し、苦手な者には必要最低限の事柄だけ覚えて貰い、逆に得意な者には苦手な者をカバーしうるだけの知識を蓄えて貰う。いざ現場に出た時には基本的に互いの得手不得手をカバーし合える者同士でチームを組む事になる。
 具体的な例を挙げるならば、ガルムはそういった言語や(特に)法律に強くみるみるうちに覚えていったがリーフェやアスベルは苦手なようで必要最低限だけ覚えてあとは通常の訓練などに割り当てられた。


     ◇◆◇◆◇


「お疲れ様です」
「お疲れ様です。マキナ二中士にちゅうし
 ある日アルバートが宿舎に帰ると、いつもの通り宿舎管理人の女性──名をマキナ・メイカーという。二等中級騎士である──が迎え入れてくれた。彼女は真面目な女性であるが近衛騎士を目指しているそうで、よくアルバート達に事務の面倒さを愚痴っている。彼女はアルバートよりも年上であるが、階級上ではアルバートの方が上官であるという絶妙な立場であるからして、通常堅苦しい上下関係で形成される騎士の中でも敬語ながら気軽に話せる、イリヤとはまた違った職場関係となっていた。マキナの愚痴を聞かされるのも、アルバートが良い人間関係を築けている証拠である。
「なんだか上機嫌ですね?」
 部屋に帰ろうとするアルバートにマキナが声をかけた。
「はい、よく分かりましたね」
 アルバートは内心浮き足立っていたのを指摘され少し驚いたが、マキナは「分かりますよ」と言うだけですぐに「何があったんですか?」とアルバートの話題に戻した。
「実は明日久々の休暇なんですよ。それもレーナも同時に」
 アルバートとイレーナの関係、二人が夫婦である事は宿舎内では既に周知の事実であった。マキナは納得したように手を叩いてからニヤニヤとした表情でアルバートをからかう。
「へぇ、じゃあデートですね!私がプランでも組んで差し上げましょうか?」
「はは...遠慮しておきます」
 アルバートは丁寧に断りつつも、脳内でデートのプランを練り始めていたので自分の思考が見透かされているのではないかと疑い始める始末であった。

 翌日、アルバートの部屋を訪ねる者があった。当然イレーナだ。ボブショートの白髪にワンポイントの髪飾りをし、服は丈が長い蒼のワンピースを身につけていた。
「似合いますか?」
 アルバートは、そう言って耳にかかった髪をかきあげる彼女はとても神秘的で気品のあるものだと改めて認識する。
 現在イレーナの身長が170センチメルカと少しで、アルバートは180センチメルカに届こうとしているからアルバートの鼻あたりがイレーナの目の高さになる。イレーナは他の女性と比べても背の高いほうだ。この二人が並ぶと両者とも身体がすらっとしてるのも相まって高身長カップルとして非常に映える。
「ああ、最高だ。女神かと思ったよ」
「貴方の伴侶として相応でなければいけませんから──でも、女神は過大評価です」
 アルバートは少し頬を赤らめて照れるイレーナも乙女らしくて良いものだと感じた。
「僕も、変じゃないかな?ファッションには自信が無いんだ」
「とても素敵ですよ」
「そうか、安心した──じゃあ行こうか」

 城下町に出るとそこは娯楽の宝庫だ。謁見通りは石を投げれば店に当たると言われるほど活気に溢れている。フラフラと通りをさまよい行き当たりばったりのデートでも良いのだが、二人の行きつけである菓子屋『リーザ』はデートに外せない。
「おはようございます」
「いらっしゃいませ...あら、お久しぶりですね」
 店主がショーウィンドウの向こうから顔を覗かせながら出迎えてくれた。
「ええ、しばらくぶりで」
 店主がガラスを磨いているショーウィンドウの中に目をやると綺麗に陳列された菓子達が棚を色鮮やかに装飾していた。シンプルなものから趣向を凝らしたものまで多種多様であるが、この店の人気商品といえばやはりリーザルノ──マーリアの郷土料理であるパイの事──である。店主はリーザルノから名前をとって店名にしてしまうほどの熱意を持っており、旬の果物を使ったリーザルノによって飽きさせないようにしてくれる。
「今日は苺のリーザルノを作ったの。今なら出来たてよ」
「良いですね、では私はそれを」
 イレーナがリーザルノを注文したのでアルバートは別のモノを選ぶ事にする。ショーウィンドウには他にも黒糖パン(砂糖は高価であるのでこちらは他より高い)や苺タルト、スポンジケーキなど商品は目白押しだ。しばらく逡巡した後、アルバートはパウンドケーキを選んだ。
「こちらで食べて行かれますか?」
「もちろん」
「では、奥へどうぞ」
 会計をしてから入口に対して横向きに設置されたカウンターを通り過ぎ、その奥にあるテーブルに座った。テーブルは合わせて四つあるが今日は朝早いこともあって貸切状態である。
「苺か、もうそんな季節なんだな」
「ええ、最後に食べたのが騎士団に入る直前でしたからもう一年ですね」
「一年か...長いようであっという間だったな...」
 実際にはまだ一年経っていないが、それに近い時間が過ぎていた。しかし騎士としては一年目はまだまだ未熟な新人である。実戦経験も未だなく、まだ訓練と座学で勤務時間が埋められていた。
「...こうしていると地球にいた頃を思い出すよ、毎日が訓練で大変だった。その休暇に君とレストランに行って、行き場の無い給料を浪費したな」
 普段こそ前世の事など話さないアルバートだが、記憶の中の情景と今が重なりどうしても思い出してしまう。イレーナも同感なようで懐かしむように微笑んだ。
「...私達は、以前と何一つ変わっていないのかも知れませんね。それこそ身体以外、なにひとつ」
「ん...それは違うぞ。前は同僚、今は同僚で夫婦だ。前より強い愛がある」
 アルバートは力説し、イレーナの手を握った。二人は見つめ合い、無言の内に絆を確かめ合おうとする。

「はいはいお二人さん。惚気はそこまで、今からはリーザの絶品料理をご堪能あれ」

 しかしながら注文したスイーツとサービスの紅茶を入れて持ってきた店主に雰囲気を壊されて、口付けとまではいかなかった。
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