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第04章 王族近衛騎士団

No.68 夕食

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No.65 

 アルバートがガルム・アスベルと共に風呂からあがり着替えるとそろそろ夕食時となり、イレーナ達女性陣が揃ってから食堂に入った。
「じゃあ俺は失礼するよ」
 そこでアスベルはひらひらと手を振って行ってしまう。
「一緒に食べないのか?」
 アルバートは素朴な疑問を投げかけるが、「そういう訳にもいかないだろ」と一蹴される。しかし付け足して「また食後な」とも言われた。
「よォ、新人諸君」
 アルバートが彼の言葉の真意を理解する前に彼らの後ろから力強い声がした。
 振り向くと、そこにはつい先程までアルバート達を痛め付けていた...否、訓練していた教官のイリヤが立っていた。
「イリヤ教官、お疲れ様です」
 アンリが簡易敬礼をして挨拶したのでアルバート達もそれに合わせて敬礼した。
「あー...いらんいらん、そういうのは。アタシはそういう敬われるのが嫌いなんだ──
 それよりほら、早く座ろうじゃないか」
 彼女は手を振り煩わしそうな様子でやめさせ、そして席の空いたテーブルを指差して誘導する。
 一同はそれに従って座ったが、席が人数分丁度で余りがなかったうえ、周囲のテーブルも訓練生と教官の組み合わせである事に気が付いたアルバートが聞いた。
「イリヤ教官、新人騎士と教官が一緒に食事をとるのも規則なのでしょうか?」
「ああ、そうだが...言ってなかったか?」
「ええ」
 イリヤはアルバートの返事を聞いてから他の4人を見渡し、彼らも無言ながらアルバートに肯定しているのを理解して一言「アハ、それは悪かった」と謝る。
「──まぁ、アタシら教官は極端に関係が浅い。アタシらと知り合ってまだ数日も経ってないんだからそれも当然なんだが、なるべく早めに関係を深めて信頼やら絆を強めようってのがこの班給食だ。だからここでは訓練の反省やアタシへの質問やら色々聞いてほしいのさ」
「納得ですわ」
「じゃ、そういう事だから。先ずはメシ、それから今日の反省だ!並んできな」
 イリヤは厨房と食堂がカウンターのようにして繋がっている配給所を指さした。そこには多くの騎士達が並んでおり大行列を作っている。イリヤだけはもう既に料理を受け取っていた。
 アルバート達が料理──量は流石騎士というべきか大量に盛られていた──を受け取って帰ってくると、イリヤはもう料理を食べ終えて水を飲んでいた。ものの数分の出来事だ。
「もう、食べ終わったんですか!?」
 リーフェが大仰に驚き、イリヤと空になった皿を交互に見る。確かにそんな2分や3分で食べられるような量ではない。
「ん?アタシは大食いの早食いなんだ。それより、お前らもそれを残さず毎日食べなきゃあアタシの訓練で死んじまうよ...お明日からは訓練はさらに厳しくするからね」
「...はい!」
 今日より厳しく、と言うと今日の時点で限界が見えていたリーフェと、特にアンリはゴクリと生唾を飲むのがわかるほど戦慄した。
 アンリは最後にやったランニングを終えて倒れた。つまりアンリの限界はそこなのである。それを見極めて他の者より走る距離を少なくしていたイリヤには確実に指導する者としての訓練生への配慮があるが、それより厳しくするといった以上明日アンリがどうなるかアルバートには想像がつかなかった。
 ひょっとするとアンリは心が折れてしまうかもしれない。そう思った。
「イリヤ教官、明日の訓練でアンリは──」
「まぁまぁ、質問は後々。とりあえず飯、だろう?」
「─はい。頂きます...」
 アルバートは明日アンリをどのように扱うのか訊ねようとしたが、それをさらっと流される。渋々、食事をとり始めた。
 今日の料理は鹿肉の燻製とサラダと魚のスープだ。燻製肉はパンに乗せて一緒に頬張り、合間にスープを啜る。どちらも給食とは思えないほど味にこだわっているのが分かる。
「どうだい?美味いだろう?」
「ええ、とても...」
「ここの料理は王都指折りの料理人達が作ってるのさ。それをタダで食える、騎士の特権さね」
 成程、と舌鼓をうちながら食べ進めていると、イリヤがフッと少し笑って言った。
「アルバート三上士、お前さっきアンリ三上士のことを質問しようとしただろう?」
 アルバートはパンを皿に置き、口の中のものを飲み込んでからゆっくりと答えた
「......ええ」
 彼はちらりとアンリのほうを見、そして彼女が深刻そうな顔で自分を見つめているのを確認して申し訳ない気持ちになる。
 なぜならアルバートは彼女が今日以上の訓練に耐えられないと感じ、訓練をもう少し易しいものにしてもらえないか頼むつもりであったからだ。それは彼女のプライドを傷つけてしまうことになる。
「──まあその辺の事も含めて、そろそろ反省会といこうか」
 イリヤはコップに注いだ水をグビッと一気に飲んで言った。
「まず、今日の訓練で分かったのはお前たちの素晴らしさだ。魔力良し、筋力良し、気力良し...」
 以外にも、イリヤの口から出たのは5人の事を称賛するモノだった。
「アタシは最初にお前たちの『実力』が分かると言っただろう。それは潜在的な素質が見れるんだが、皆が皆それをすべて出し切れるとは限らない。お前たちはそれを見事に極限まで出し切っていた...とても新人とは思えない程にね」
 彼女の言葉に集中し、聞き入る5人はもはや食事をする事も忘れていた。
「アルバート、イレーナ三上士の二人はまさに規格外、アタシなんかがどうこうする必要もない」
「ガルム三上士は他の4人より魔力量は少ないが一つ一つの魔法における効率が一級品だ。それに体力もあって動きも効率的、今日もまだ余裕がありそうだったのは意外だった。ないものを技術で補ってるっていう良い証拠さね」
 ガルムはべた褒めされて顔を赤く染めてしまった。
「リーフェ三上士は少々ムラがあるがそれでも十分戦える地力がある。体力のほうも流石は獣人族、申し分ないね」
「それで...」
 イリヤは、最後にアンリの方を鋭く睨む。アンリはまた、ゴクリと生唾を飲んだ。
「それで、アンリ三上士だが魔術のセンスは抜群だ、元々ある感覚的センスと数多の経験が折り合わさっているのがよく分かった」
 イリヤはそこで一息つき、「ただ...」と繋げた。
「これがアルバート三上士の言いたかったことだろうが、体力が少々少ない。ほかの4人と比べてね」
「......自分でも認識しておりますわ」
「ん、結構。だが勘違いしてもらっちゃ困るがお前は弱いわけでもダメなわけでもない、アタシも訓練中は厳しい口調で罵ったりはするがそれはお前の自尊心をくすぐって奮い立たせるためだ。決して体力がないわけでもないし、むしろ平均以上と言っていい。学生時代にいくらか走ってたんだろう?」
 イリヤの予想は的中で、学生時代アルバートやイレーナ・ガルムは勿論、アンリ・リーフェの二人もいつからか一緒に早朝の走り込みをするようになっていた。
「少しずつ鍛えていけばいい。いつかはほかの4人い追いつけるだろうよ」
 イリヤの言う通りでアンリは決して弱い訳ではない。イリヤの訓練が規格外なだけだった。しかし───
「──けど悔しいって顔だな」
「......はい...」
 しかし、彼女のプライドが、周囲より易しい内容で訓練することを許さなかった。その状況を甘んじて受け入れることができなかった。
 アルバートはそれがどれだけ悔しいことか理解していた。そして彼女の誇り高さも。だからこそ無茶をしすぎて体を壊さないかが心配であった。

 しかし、そんなアルバートの心配も杞憂で終わる。
 何故ならイリヤには得策があるからだ。とんでもない奇策があるからだ。
「ならば良し、アンリ三上士には特別な訓練をしてやろう。そのかわり、もっと地獄を見ることになるが、いいかね?」
「───どんな過酷な訓練も乗り切って見せますわ、それで追いつけるなら...!」
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