上 下
34 / 99
第02章 王立魔法科学園

No.33 自炊

しおりを挟む
 模擬戦闘以降、僕達は一躍有名人となってしまった。あの後教室に戻ってからはほかのクラスメイトに質問攻めにあったし、寮に帰ってからはアンリ、リーフェ、ガルムの3人から更に質問された。
 今日の授業はそれで終わりだったが明日からは本格的に授業があるらしい。

 だが、それよりも今のこの状況を脱せねばならない。
「あの至近距離の魔術の応酬は王族近衛騎士の練習でも見たことがありませんわ!どこでお習いになりましたの!?」
「ね、ねえ!僕もあんな風に強くなれるかな?」
「私も色々無詠唱で使えるようになりたいな!ねえ、火魔法とかどんなイメージで発動してるの!?」
わたくしも興味がありますわ!無詠唱魔法の使い方が知りとうございます!何時までもリーフェに遅れをとるのは我慢なりませんわ!」
「アンリは上級魔法使えるんだから良いじゃん!」
「アル、この後菓子屋リーザに行きませんか?」

 こうも言い寄られると、どれに答えたら良いのかも分からないし、困る。それと最後の方は何かおかしかったような気がする。お菓子だけに......何でもない。

「まあ、皆落ち着いて、一人ずつで頼む」
 そう言ってなだめて、皆を静かにさせた。

「じゃあ、ガルムから」僕はガルムを指名する。
「え、えっと。どうやったらそんなに強くなれるの?」
 これの答えは単純だった。
「慣れと経験と練習だ。勉強して、訓練して、見直してからまた訓練すればいい」

「次、アンリ」
「あの格闘術はどこでお習いになりましたの!?」
 これは、どう答えたものか 。少し迷っていると、イレーナが返答した。
「アルが発案した新しい戦闘術『魔法の型マギ=カタ』です」
「待て、それで通すのか...」
「なんと!アルバートが考えましたの!?今度是非お教え下さいません?そのマギ=カタを!」
「構いませんよ」
「私も習いたい!」
 イレーナが得意げになって言う。僕を置き去りにしてどんどんと話が進んで行った。

「じゃ、じゃあ次。リーフェ」
 僕は話を戻そうとしてリーフェを指名した。
「はい!ねぇ、光以外の無詠唱魔法ってどうやるの?」
 これも答えるのが難しい質問だった。僕達は基本的に発生する事象の原理を意識して行っているが。科学の発展していないこの世界で無詠唱魔法がある以上、それが必要な条件だとは言い難い。一応、はぐらかして言った。
「そうだな、その魔法が起こす事の原理を想像してるな」
「なるほど、つまり勉強だね!...じゃあ火ってどうやって出来るの?」
「空気を...食べて、力をつける。だから風魔法には強いんだろう」
 急に酸素が~や化合で~等と言っても分からないだろうから簡単に言った。
「へえ、知らなかった!」
「良かったらまた今度説明するよ」
「ホントに!?」「私も知りとうございますわ!」「ぼ、僕もいいかな?」
 リーフェだけでなく、アンリやガルムまで詰め寄ってきた。
 取り敢えず、また今度と言いなだめておいた。


     ◇◆◇◆◇


 僕の朝は早い。毎朝日が登る頃には目が覚めて、朝食を作る。イレーナも一緒だ。
 今日はサンドウィッチと紅茶で済ませた。
 食べ終わると、外に出て学園内を軽く走る。身体が温まってくれば、そのままイレーナとの組手になる。芝生の上で、交互に技を決めたりする。今日はマギ=カタの練習もしてみた。
 次に剣術。ここには長剣の扱いを教えてくれる先生ハンクさんがいないので長剣は習ったことを思い出して繰り返し、短刀ナイフは自分たちが前世でやっていた事を取り入れた独自のモノを練習する。

 それが終わると、エルゲイ荘に帰ってシャワーを浴びる。
 シャワーから出ると、アンリが起きてきていた。
「あら、お早いのね」
 そう言って彼女は中央室のソファに座る。そう言えば、昨日は入学式で朝の訓練をしなかったから彼女は知らないのか、と本を読みながら自分で納得する。
「...アルバートは自炊って、出来ますのよね?」
 アンリが訊ねてきた。僕は本を読みながら応える。
「ああ、趣味として嗜んでるな。昨日の夕飯も僕が作っただろ?」
「そうですわよね。...では、料理の仕方を教えて頂けません?」
 アンリが恥ずかしそうに言った。僕は本に栞を挟んで閉じ、机に置く。

「...朝ご飯、作ろうか?」
「いえ、そういう意味では御座いませんの。ただ、少し前から『寮は自炊だから』と練習していたのですが中々上手く出来ませんでしたので...ご教授願えないかと思ったのです。朝食位なら作れますわ」
 なるほど、そういう事か。ならこれからは夕飯くらいは手伝ってもらおうか。
「ああ、じゃあ今日から夕食作り手伝ってもらおうかな」
「本当ですの!?良かったですわ」
 そんな話をしていると、上から声が聞こえた。
「おはよー!二人共!面白そうな話してるじゃない?」
 見れば、二階廊下の柵に身体を預けたリーフェが覗き込んでいた。
「ああ、おはよう」「おはよう...ですわ」
 急に、アンリの声がしおらしくなった。表情も暗くなっている。
「ふんふーん?そっかー、アンリは料理苦手なんだね!」
 リーフェがニヤニヤとしながら階段を降りてくる。ああ、何となく理解した。これはあれだ、ライバルとも言えるリーフェに自分の恥ずかしいと言うか駄目な点を知られてこうなっているのだ。納得がいった。
「う、うるさいですわ!リーフェは料理出来ますの!?」
「うん、出来るよ。嗜む程度にね」
 隣で「ぐっ...」という声が聞こえた。
「そうなのか、じゃあ料理当番も順番でやっていくか?」
「もっちろん!任せて!」
 得意げになるリーフェとは対象に、アンリがぐぬぬと言った声を上げる。
「ふ、ぁあ...おはよう」
 2人の会話が五月蝿かったのか、ガルムが起きて来た。アンリがバッと振り返って訊ねる。
「ガルム。そう、貴方は料理出来ますの!?」
「ふぇっ!?...ま、まあ出来るけど......」
「そ、そうですの...」
 アンリが余計落ち込んだ。すると、イレーナが風呂から出てくる。アンリがなにか言おうとしたが、僕が先に言っておいた。
「レーナの料理は絶品だぞ」
「ぐ、ぬ...そうですの...わたくしだけですの......」
 更に落ち込むアンリ。彼女はこの日から夕飯の手伝い係となるのだが、それはまた後で話そう。
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。 ※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。 ※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。 俺の名はグレイズ。 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。 ジョブは商人だ。 そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。 だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。 そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。 理由は『巷で流行している』かららしい。 そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。 まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。 まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。 表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。 そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。 一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。 俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。 その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。 本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。 【あらすじ】 イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。 しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。 ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。 そんな一家はむしろ互いに愛情過多。 あてられた周りだけ食傷気味。 「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」 なんて養女は言う。 今の所、魔法を使った事ないんですけどね。 ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。 僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。 一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。 生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。 でもスローなライフは無理っぽい。 __そんなお話。 ※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。 ※他サイトでも掲載中。 ※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。 ※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。 ※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜

ree
ファンタジー
古代宗教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教…人々の信仰により生まれる神々達に見守られる世界《地球》。そんな《地球》で信仰心を欠片も持っていなかなった主人公ー桜田凛。  沢山の深い傷を負い、表情と感情が乏しくならながらも懸命に生きていたが、ある日体調を壊し呆気なく亡くなってしまった。そんな彼女に神は新たな生を与え、異世界《エルムダルム》に転生した。  異世界《エルムダルム》は地球と違い、神の存在が当たり前の世界だった。一抹の不安を抱えながらもリーンとして生きていく中でその世界の個性豊かな人々との出会いや大きな事件を解決していく中で失いかけていた心を取り戻していくまでのお話。  新たな人生は、人生ではなく神生!?  チートな能力で愛が満ち溢れた生活!  新たな神生は素敵な物語の始まり。 小説家になろう。にも掲載しております。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...