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第01章 誕生と再会

No.07 順応

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 僕の住む屋敷の庭、その一角で、僕たちは魔法の授業を受けている。教師はイレーナの母親であるアイナさん。生徒は僕とイレーナの二人だ。
 魔法の授業は今日が初めてで、ようやっとの実践だ。

「じゃあ、二人とも。これから魔法を使っていく訳だけど。先ず魔法を使うには体内の魔力を体外へと放出する必要があるわ。その過程で力に変換するのが魔法って事ね。

 まずはその魔力の放出から始めましょうか。眼を閉じて、身体の中にある力を体外へと出すイメージをしてみて頂戴。最初はよく分からないかも知れないけれど、苑感覚を覚えてしまえば息を吐くように出来るまでになるわ」

 言われて、僕とイレーナもやってみる。

 だが、そんな漠然とした事を直ぐ様やれと言われても、そうそう出来るものではない。何度か試しても出来ない。そうやっていると、ふっと隣からを感じた。
 イレーナだ。

「あら、レーナは出来るようになったみたいね」
 成る程、今のが魔力なのか、僕も先ほどレーナから感じた何かを意識してみる。
 ふっと、何かが身体から放出するのを感じた。
「あら、アルバート君も出来たわね。二人とも良いわ。
 次に進むわよ。二人とも、今度はその魔力を見ようとしてみて」

 見る、か。今、魔力を出したときは見えなかったし、暗視装置サーマルヴィジョンのように普段眼に見えないものを可視化するというコトだろうか。
 僕は眼を閉じて、暗視装置をイメージしながらやってみる。

 ふっと、今まで暗かったまぶたの裏に、小さな光の粒子が灯る。それも無数にだ。その無数の光の粒子は様々なものをかたどっていく。木、地面、家の壁、アイナさん、レーナ。特に、アイナさんとレーナには多くの粒子が集まって他よりも一層輝いている。
「凄い...」
 素直にそう思った。
「ですね...」
 イレーナも出来たみたいだ。
「あら、二人とももう出来ちゃったのね。
 呑み込みが早くて良いわ。

 実は、魔素や魔力と言うのは通常見えないものなの。気や気配として漠然と捉える事は出来るけれど、物理的には可視出来ない。空気みたいなものよ。でも、エルフという種族は見えてしまう。それがこの種族の特徴なのよ。私達は、これを【魔眼】と読んでいるわ。いささか、物々しすぎると私は思うのだけどね」
 【魔眼】か、エルフ特有の能力みたいなモノなのだろう。僕はそう結論付けて勝手に納得する。

「次は簡単に魔法を使ってみましょうか。二人とも、それぞれ十分に離れて頂戴」
 そう言われて僕らは5mメルカ程度の間隔で離れた。
「良いわ。じゃあ次に魔力を放出しながら手の先から火を出すイメージをしなさい。そして【フレア】と唱えるのよ。
 こんな風にね」
 アイナさんは「フレア」と言って指先から蝋燭の灯のような小さな火を灯した。
「じゃあ、アルバート君からやってみましょうか。大切なのはイメージよ」

 イメージか。さっき視えた魔素や魔力は、とても細かな粒子の塊だった。それがアイナさんの出したような炎になるのだから、ガスみたいなものにでも変換されたのだろうか?
 僕は更にそれを熱するような、ガスコンロのようなイメージをしながら魔力を放出してみる。そして呪文を唱えた。

 「フレア...ッ⁉」

 ごう!と突然高さ3mメルカを優に越える焔が立ち上る。

 その熱に反応して僕の身体は危険信号を発し、咄嗟に僕は伏せた。前世の習慣というか、訓練の賜物だ。
 炎は一瞬にして消える。僕は周囲を確認した。
 イレーナは、僕と同じように伏せていた。アイナさんは伏せるまではいかないが、顔を守るように腕で顔を被っている。

 と言うか、フレアはアイナさんの出したような蝋燭の灯程度のモノではないのか?僕は一瞬困惑する。

「...っ、二人とも大丈夫...って。
 二人とも驚き過ぎよ。地面に伏せるなんて。」

 言われて僕らは急いで立ち上がる。

「アルバート君のフレアが強かったのは、放出した魔力が強すぎたか、イメージが強すぎた為ね。これから調整ができるようにしていきましょう。次は、レーナよ。そうね、アルバート君と同じことをしないように出来るかしら。」

 今度はレーナが挑戦する。彼女は静かに眼を閉じ、集中し始めた。そして、眼を開け、手を掲げながら唱えた。
「フレア」
 ぼう...と彼女の掌の上で卵程の大きさの炎が踊る。
 イレーナは成功したようだ。
「良いわ。アルバート君は少し強すぎたけど。それは練習すれば簡単に調整できるようになるわ。二人とも順調よ」

 「もう一度やってみましょうか」とアイナさんが言ったので今度は魔力の放出を蛇口を閉めるようなイメージで絞って、フレアを唱えてみる。
 ぼう!っと。さっきよりも小さいが、それでも60cmセンチはある炎になってしまった。
 今度は、魔力を絞りながら、フレアのイメージをコンロからランタンにしてみる。ガラスの筒に収まる。小さな灯りだ。成功だった。レーナと同じような、卵程度の炎が掌で揺れる。
 なんと言うか、感動に近いものを感じた。

 その日はしばらくフレアの練習をして終わったが、最後に授業以外で魔法を使わないようにと注意された。勿論、そんな子供のようなことはしない。見てれは子供でも中身は大人なのだから。

 次の日からは魔法の授業が座学と実践の交互になった。


     ◇◆◇◆◇


 シュティーア家の屋敷の一室。
 アルバートとイレーナを除いたシュティーア家、ルセイド家の一家と使用人が一同に会する。その数11人。
 彼らは机を囲んで話し合いに没頭していた。
 内容は一貫してアルバートとイレーナについてである。

「...それでアイナ、二人の魔法はどうだった?」
 二人の魔法の授業講師であるアイナに夫のハンクが問う。
「信じられないわ。アルバート君、あの子、只のフレアで3m(1mメルカは前世の1mメートルとほぼ同じ距離である)以上の炎を出して見せた。相当の魔力保有量があるとみるわ。
 それにレーナも、魔力放出を魔眼で視たら、アルバート君と同等の量の魔力を出していたわ。
 それに、あっと言う間に魔法を使いこなしたセンス、才能!
 レーナはそれだけの魔力があるにも関わらず、一度で完全に威力を押さえて制御していた。
 アルバート君も、たった三回で使いこなせるようになっていたわ」

 彼女らしからぬ、興奮した様子で説明するアイナ。
 その説明を聴き、ざわめく一同。
 それも当然だ。無詠唱むえいしょうで唱えたフレアなど、どれだけ魔力を強く、イメージを強くしたとて精々焚き火程度の灯が限界。それを3m越えの大火にするなど、前代未聞の、大事であった。

「それに、アルバート君が3mのフレアを出したとき、二人とも咄嗟に地面に伏せていたわ」
 その報告に、アルバートの父親であるオンスは頷く。
「成る程、突発的な危機に対する対処も出来ている、か」
「つくづく、規格外のお二方ですね。勉学といい」
 オンスの秘書兼、執事であるワルドの一言に皆が同意する。

 そんな調子で、彼らの談義は熱を増してゆく。
 話題の人であるアルバートとイレーナに聞かれているとも知らずに。

「何か騒がしいと思ってみれば、みんなおだて過ぎだ」「ですね」
 話を途中からを聞いていた二人は恥ずかしくなって、続きは聞かずに寝床に戻るのであった。
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