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第04章 王族近衛騎士団
No.87 任務通達
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通常、派遣任務は技術及び情報の伝達が目的となる。だが、アルバートに伝えられた任務内容はそれだけではなかった。
「魔法学会、ですか」
昨日の通告通り、アルバートはその妻イレーナと共に上官であるイリヤ・マリアの下へ呼び出された。
性分こそ典型的な現場主義のイリヤだが、その実彼女は事務に向いていた。全体の状況を鋭敏に察して対応できるのは一種の才能とも言える。それ故、なかなか鍛錬の時間が取れない時もあってフラストレーションが溜まっていることもしばしばあった。「好き」と「向き」が必ずしも同じとは言えないという事を証明するような人物である。
また自身の賦力に基づいて行われる彼女の鍛錬は、国の最高峰たる近衛騎士団にあってなお周囲を圧倒するほどのストイックなものであった。そのため彼女に対する畏敬の念はあれどそれについて行けるほどの者はおらず、周囲の騎士らが部下を持っていく中で彼女だけは孤立していた。イリヤはそれでもよかったが、ピトムニクとしては何とか彼女の能力を活かしたいと思っていた。
そんなところに「ある希望」がやってきた。
それがアルバートら五人。「黄金の豊作」世代だ。学園生時代の彼らと接してピトムニクは彼らの素質に気が付いた。そして同時に、彼らに相応しい上官はこれまで一匹狼的に過ごしていた イリヤ・マリヤ以外に居ないと確信した。常識の範疇にとらわれないかの五人を上手く「使いこなせる」のは彼女しかいないと考えたのだ。
実際、ピトムニクの行動は正解だったといえる。彼らは入団以降、ただでさえ驚異的だった実力を更に向上させた。その中で回復魔法に対する新たな見解も得られた。訓練方法にも新たな手段が生まれた。もはや革命的とさえ言えるこの一年間は騎士団内に少なくない変化をもたらした。そもそも、五人は全員魔法科学校の出身で、「魔術士」という扱いだ。本来なら後方からの援護・支援が役割となる。だが彼らはその常識の中には留まっていない。剣も使う。槍も扱う。武術もこなす。万能的に戦闘が可能なオールラウンダーだ。
昔からそういう騎士がいなかった訳ではない。何年か一人は「万能の人」が生まれた。だが、ここまで計画的に育て上げられた「部隊」は存在しない。
他の騎士がイリヤ部隊と呼ぶ彼らは、幹部連中からも一目置かれている。
その評価をさらに上げたのが先月にあった王立銀行強盗事件だ。これを受けて、幹部連中はシュティーア夫婦および同部隊の三名を「既に熟練の域にある」と判断。派遣任務への参加を命じたのだった。
だが、この派遣任務にも更に裏があった。それがイリヤの言う魔法学会だ。
「ああ。我らが王国がフーリア連邦と数年おきにやってる技術交換の発表会さ。巨大国家どうし仲良くしようって事さね」
「それと今回の任務に何の関係が?」
「ああ。その魔法学会はフーリアの首都とこの王都の両方で開かれることになっていてね。まずは向こう。次にこっちでやる」
イリヤはフーリア連邦とマーリア王国の両方が描かれた小さな地図を取り出して、そこに既に引かれていた線をなぞった。「つ」の字型で辿られるそれは経路のようだ。
「これにはエッジ王子殿下が出向くことになっているんだが、帰りの際にここを通るのさ」
彼女はその線の途中にある点で指を止めた。その場所には見覚えがある。連邦と王国のちょうど中間。北西から延びる山脈の先端付近。アルバートの故郷であるモアルドの近くだ。
「『アラモ砦』。二人の派遣先がここさ」
イリヤは二人の瞳を見つめて言った。彼女がこういう仕草をするのは決まって真剣な話をする時だ。アルバートは思わず唾を飲んだ。
「アラモ砦はマーリア王国の国境の意味も持つ。ここで王子殿下と、ともに来訪する連邦側の王女を出迎えてもらう。いいね?」
「は」
国境際での重要人物の出迎え。それが大役であることはアルバートにも分かった。
「これは騎士団長閣下および国王陛下からの直接指名でもある。心しな」
「陛下自らですか?」
これにはイレーナも驚いた。いくら重要な任務とはいえ、ユーク国王自らがその出迎え人を指名する事などまず無い。それは団内で采配をこなすピトムニクの仕事だ。国王からの直接指名とは違和感があった。
「そうさ。まだこの話には続きがあんのさ」
イリヤは椅子に背もたれた。そして胸の下で腕を組んで息を少し長く吐く。
「エッジ王子殿下の護衛の一人にガルム三上士──。いや、ガルム第五王子殿下が選ばれた。出迎えるなら親友のアンタ達の方がいいだろうとの判断でもある」
イリヤは、自らが担当し、しごいている部下の一人が王族の一員であることを知っていた。だがそれを表に出すことは当然せず、普段はひとりの「ガルム」という人間として扱っている。だが、今回は話が違う。国外へ赴くという事。すなわち国王の膝元を離れるという事。当然ユーク国王は不安がるだろう。しかし、それにも疑問が残る。
「なぜガルムなんです?他にも優秀な護衛は居るでしょう。なんならもっと強い騎士なんて近衛の中にいくらでも」
「ああ、確かにそうだ。だが。国王陛下は、エッジ王子とガルム王子の二人に、少しばかり家族としてのひと時を過ごして欲しいとさ。それには国内で居るより異国の方が良い事も有るだろう、と」
「そうですか。陛下がそう判断なさったのであれば僕からは何一つ言う事はありません。全身全霊で任務にあたらせていただきます」
「ああ。任せたよ」
アルバートは胸を張って敬礼した。そしてその胸元に飾られた紋章に誓った。必ず笑顔で迎えよう、と。
「魔法学会、ですか」
昨日の通告通り、アルバートはその妻イレーナと共に上官であるイリヤ・マリアの下へ呼び出された。
性分こそ典型的な現場主義のイリヤだが、その実彼女は事務に向いていた。全体の状況を鋭敏に察して対応できるのは一種の才能とも言える。それ故、なかなか鍛錬の時間が取れない時もあってフラストレーションが溜まっていることもしばしばあった。「好き」と「向き」が必ずしも同じとは言えないという事を証明するような人物である。
また自身の賦力に基づいて行われる彼女の鍛錬は、国の最高峰たる近衛騎士団にあってなお周囲を圧倒するほどのストイックなものであった。そのため彼女に対する畏敬の念はあれどそれについて行けるほどの者はおらず、周囲の騎士らが部下を持っていく中で彼女だけは孤立していた。イリヤはそれでもよかったが、ピトムニクとしては何とか彼女の能力を活かしたいと思っていた。
そんなところに「ある希望」がやってきた。
それがアルバートら五人。「黄金の豊作」世代だ。学園生時代の彼らと接してピトムニクは彼らの素質に気が付いた。そして同時に、彼らに相応しい上官はこれまで一匹狼的に過ごしていた イリヤ・マリヤ以外に居ないと確信した。常識の範疇にとらわれないかの五人を上手く「使いこなせる」のは彼女しかいないと考えたのだ。
実際、ピトムニクの行動は正解だったといえる。彼らは入団以降、ただでさえ驚異的だった実力を更に向上させた。その中で回復魔法に対する新たな見解も得られた。訓練方法にも新たな手段が生まれた。もはや革命的とさえ言えるこの一年間は騎士団内に少なくない変化をもたらした。そもそも、五人は全員魔法科学校の出身で、「魔術士」という扱いだ。本来なら後方からの援護・支援が役割となる。だが彼らはその常識の中には留まっていない。剣も使う。槍も扱う。武術もこなす。万能的に戦闘が可能なオールラウンダーだ。
昔からそういう騎士がいなかった訳ではない。何年か一人は「万能の人」が生まれた。だが、ここまで計画的に育て上げられた「部隊」は存在しない。
他の騎士がイリヤ部隊と呼ぶ彼らは、幹部連中からも一目置かれている。
その評価をさらに上げたのが先月にあった王立銀行強盗事件だ。これを受けて、幹部連中はシュティーア夫婦および同部隊の三名を「既に熟練の域にある」と判断。派遣任務への参加を命じたのだった。
だが、この派遣任務にも更に裏があった。それがイリヤの言う魔法学会だ。
「ああ。我らが王国がフーリア連邦と数年おきにやってる技術交換の発表会さ。巨大国家どうし仲良くしようって事さね」
「それと今回の任務に何の関係が?」
「ああ。その魔法学会はフーリアの首都とこの王都の両方で開かれることになっていてね。まずは向こう。次にこっちでやる」
イリヤはフーリア連邦とマーリア王国の両方が描かれた小さな地図を取り出して、そこに既に引かれていた線をなぞった。「つ」の字型で辿られるそれは経路のようだ。
「これにはエッジ王子殿下が出向くことになっているんだが、帰りの際にここを通るのさ」
彼女はその線の途中にある点で指を止めた。その場所には見覚えがある。連邦と王国のちょうど中間。北西から延びる山脈の先端付近。アルバートの故郷であるモアルドの近くだ。
「『アラモ砦』。二人の派遣先がここさ」
イリヤは二人の瞳を見つめて言った。彼女がこういう仕草をするのは決まって真剣な話をする時だ。アルバートは思わず唾を飲んだ。
「アラモ砦はマーリア王国の国境の意味も持つ。ここで王子殿下と、ともに来訪する連邦側の王女を出迎えてもらう。いいね?」
「は」
国境際での重要人物の出迎え。それが大役であることはアルバートにも分かった。
「これは騎士団長閣下および国王陛下からの直接指名でもある。心しな」
「陛下自らですか?」
これにはイレーナも驚いた。いくら重要な任務とはいえ、ユーク国王自らがその出迎え人を指名する事などまず無い。それは団内で采配をこなすピトムニクの仕事だ。国王からの直接指名とは違和感があった。
「そうさ。まだこの話には続きがあんのさ」
イリヤは椅子に背もたれた。そして胸の下で腕を組んで息を少し長く吐く。
「エッジ王子殿下の護衛の一人にガルム三上士──。いや、ガルム第五王子殿下が選ばれた。出迎えるなら親友のアンタ達の方がいいだろうとの判断でもある」
イリヤは、自らが担当し、しごいている部下の一人が王族の一員であることを知っていた。だがそれを表に出すことは当然せず、普段はひとりの「ガルム」という人間として扱っている。だが、今回は話が違う。国外へ赴くという事。すなわち国王の膝元を離れるという事。当然ユーク国王は不安がるだろう。しかし、それにも疑問が残る。
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