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第04章 王族近衛騎士団

No.85ㅤ英雄譚

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ㅤ会食によってアルバートが得たものは大きかった。それは上位貴族であり政府の頭脳である大臣らとの関係という実体のないものもそうだが、もっと物理的なものもある。

ㅤユーク王やその家族らと対話した際の事だ。
「前回の勲章は確か土竜退治だったか。その話も是非息子らに聞かせてやってくれ。二人はその手の話が好きでな。特にアーチャは滅多に城から出ないこともあって冒険話には目がないのだ」
「ご要望とあれば」
 ユークは後ろに控えるアーチャ王女、エッジ王子に手招いてアルバートらの前に寄越した。そして自らはオーシア王妃と共に後ろからそれを眺めることにする。

 エッジはアルバートよりも十歳ほど年上だが、それでもまだ二十七。若さが残る。アルバートも彼の噂は人並みに知っていた。
 曰く、自由奔放。
 曰く、神出鬼没。
 曰く、迅雷風烈。
 逸話には「隣国で新魔法が発明されたと聞いた次の日には発明した隣国魔導士の家に向かっていた」とか。他にもいくつかあるが、そのどれもが彼の自由気ままな、他人に縛られない生き方を物語るモノであった。
 アーチャの方は少々病弱気味であると聞いている。だが、噂に聞くほど繊細そうな印象はなく、どちらかと言えば兄に似て(いやもしくは父か母に似てなのかもしれないが)お転婆な言動をしていた。
「──それで!その土竜はどうやって倒したのですか!?」
 土竜と戦ったのも随分と前の事だ。アルバートとイレーナは記憶からひねり出しながら当時の事を語った。エッジも興味津々で話に食い入っていたが、アーチャはそれよりも更に目を輝かせ、一挙手一投足の説明をするごとに興奮した様子であった。エッジは、彼女を落ち着かせようとする。
「アーチャ、まだ話の途中だ。結果だけ聞いても面白くないだろう」
「それもそうですね!それで!次はどうなさったのです?」
「ええ。その後は僕とイレーナしか動けないので、二人で左右に別れて同時に突撃をしました。それで──」
ㅤエッジもアーチャも、二人の話に非常に満足してくれた。
ㅤ後ろでその様子を微笑ましく見ていたユークが、頃合いを見てアルバートらに言った。
「二人とも楽しい話をありがとう。昨日の事件の報酬として金貨十枚を渡すが、それとは別に何か要望を聞こう。欲しい物でもなんでも良いぞ」
ㅤそうは言われても、なかなか咄嗟に思い当たらないものだ。アルバートは「特には無い」と言いたかったが、王を前にその様な謙遜は逆に失礼に当たる。どうしようか迷った。するとイレーナが言った。
「では、夫と二人で過ごせる部屋を用意していただけませんか?今は騎士宿舎で二人別々の部屋になっているのです」
ㅤユークは「おお、そうか。それはいけない事だ」と快く部屋の斡旋を約束してくれたのだった。


「おぉっ!これはこれは!英雄夫婦サマじゃないかィ!」
 宿舎に帰る途中、イリヤ・マリア一上士と遭遇した。どうやら事務仕事を終えて今度は城内の巡回任務中らしく、鎧を身に着けている。兜はしていないので琥珀色の髪と、獣耳は遠くからでもよく目立った。
「任務ご苦労様です。イリヤ一上士」
「応──。それで?会食は楽しかったかい?お偉いさんのご機嫌取りは」
「ええ、楽しませて頂きました。今から訓練に戻ります」
「そォかい。羨ましいねぇ、アタシもずっと鍛錬で鍛えていたいさね」
「強くなって先輩方に追いつくのも新入りの仕事ですから」
「ははッ。言うじゃないか、今すぐにでもアタシの代わりに巡回任務に就かせてやろうか」
 イリヤは、常に力を求めているような人だった。強い者を好み、強くなろうとする者を好む。そして向上心の無い者は嫌った。自身も強くなるために技術を磨き、知識を蓄えた。得意ではない魔法についても詳しいのは、戦いにおいて「知っている」ことの強さを理解しているからだ。彼女は強さに忠実だった。
 イリヤの「強いやつリスト」にアルバートとイレーナの二人は当然入っている。「新人だから」だの「ガキだから」だの余計で些細な事を気にしないのも彼女の特徴だ。そして、「強い人材」をおろそかにしないのも彼女の方針だった。
 巡回任務は、選りすぐりの近衛騎士でも新人が直ぐに任されるものではない。一定期間他の任務をこなして認められ、そうしてやっと就くことのできる任務である。イリヤは冗談めかして言ったが、本心で言っていた。その程度には認めていると公言したのだ。 実際、アルバートらにあることをさせようと裏で考えているのも事実であった。
「ま、近いうちにヒィヒィ言わせてやるから今のうちに覚悟しておくんだね」
「?……分かりました。では、失礼します」
 アルバートにはイリヤの本意は分からなかったが、彼もまた彼女を信頼しているので悪意からの命令は行わないだろうと確信している。よってこの言葉は冗談程度に受け取った。
 少し歩いてから、アルバートは問うた。
「レーナ、一上士はどんな事をしてくると思う?」
 レーナは前を向いて歩きつつも、頬に手を当て、少し思考する。イリヤのような女が考えそうな事。彼女はああ見えて意外と聡明な人間だ。どんな思い付きをするか予測するのは難しい。よって大雑把な答えを出した。
「まあ、意味のない事はしないでしょう。私達、あるいは国にとって益のある事をするのがあの人です」
「──そうだな。今考えても仕方ないか」
 二人は、そうして自らの鍛錬に戻っていった。
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