乙女ゲーの愛され聖女に憑依したはずが、めちゃくちゃ嫌われている。

星名こころ

文字の大きさ
上 下
27 / 43

27 贈り物

しおりを挟む

 私は今、とても緊張している。
 メイと一緒に作った組紐ブレスレットが完成したので、ルシアンに渡しに行くところだから。

 別にこのプレゼントに特別な意味があるわけじゃない。
 ただ感謝の気持ちを伝えるだけ。それだけなんだから。
 でも、心を込めて作ったつもり。
 なんだかんだ良くしてくれる彼が、幸せでありますように、元気でいてくれますようにと。

 青と水色と黒の紐で編んだ、アーガイル模様の組紐。
 私にしては頑張った。メイも出来を褒めてくれた。
 でも、手作りを渡すのってやっぱり緊張するなあ……。重いと思われないかな。
 なんてことを悩んでいるうちに、祈りの間に着いた。
 私が神力を取り戻してきているから、今日からは私も神官たちのように祈りを捧げることになっている。
 祈りが終わったら渡そうと、小さな布の袋に入れたブレスレットをそっとポケットにしまった。

 扉を開けると、飾り気のない広い空間が目の前に現れる。
 真正面には祭壇と女神像。そこへと続く、青い絨毯。あるのはそれだけだった。
 祭壇の前に佇むルシアンは、いつもよりも神官らしいというか……清浄な空気を身にまとっているように見える。
 彼が私に気づいて振り返った。

「ようこそ。では、さっそく始めましょう」

「はい」

 彼の隣まで歩いていき、「どうすればいいですか?」と尋ねた。

「あの女神像に向かって祈ればいいだけです。女神像は各地の神殿の女神像とつながっていて、それらが祈りによる聖なる気を循環させるようにできています」

「そうなんですね」

「祈ればいいと言われてもよくわからないでしょうから、まずは私がやってみせます」

 そう言うと、ルシアンはその場に両膝をつき、少し頭を下げて額につくように両手を組んだ。
 祈りの言葉のようなものを言うでもなく、ただ静かに目をつむっている。
 そのきれいな横顔もあいまって、まるで一つの芸術品のようだと思った。ずっと見ていたいと思うような。
 私のそんな邪念を感じ取ったわけじゃないんだろうけど、ルシアンがふっと目を開けた。
 慌てて視線をそらす。

「ではやってみてください。膝をつくのがつらかったら、座ってもいいですよ」

「わかりました」

 ひとまず絨毯に膝をついて、彼がやっていたように両手を組んで額につける。
 祈り……どう祈ればいいんだろう。
 祈りは魔獣を遠ざけるんだよね? それなら、そう願えばいいのかな。

 ――この国が、平和でありますように。
 魔獣の脅威から、人々が守られますように。
 ルシアンのように……魔獣で家族を失う人が、これ以上いなくなりますように。

「オリヴィア!」

 強めに名前を呼ばれてびくっとする。
 な、なに、何か失敗した? 怒らせた!?
 でも、隣の彼は怒っているのではなく、焦っているように見えた。

「神力を使いすぎです」

「えっ……」

「自覚がないのですか。危険ですね……。急速に神力が回復したせいか、コントロールができていないようです」

「そうなんですか……」

 手を解いて、立ち上がる。

「そもそも、神力って使ってる感覚があまりないんですよね。どうすれば神力を使うことができるんですか?」

「聖女の力は“願い”と言われています。だから、強く願えばいい」

「願う……」

 たしかに、メイの傷を治すとき、強く願った。死なないで、傷が治ってと。
 とにかく願えばいいのかな。
 でもコントロールできてないってことは、神力を使いすぎてしまうこともあるってことだよね。気をつけないと。

「では、今日はこれまでにします。コントロールは少しずつ覚えていきましょう。一人で部屋まで戻れますか?」

「大丈夫です。近いし」

「わかりました。では」

 ルシアンが私に背を向ける。
 っと、ブレスレット!

「あの、ルシアン」

「はい?」

 彼が振り返る。

「えっとー、なんというか、巷で流行っているという組紐を、メイと試しに作ってみたんです」

「? はい」

「それで、その……なんだかんだお世話になっているルシアンに、よければ渡したいと……。いや、身に着けてほしいというわけでなく、引き出しとかにしまっておいてくれて全然いいんですけど」

 しどろもどろな私に、ルシアンが不思議そうな顔をする。

「……今お持ちなのですか? 見せていただけますか」

「は、はい」

 ポケットからリボンで結んだ小さな布袋を取り出し、彼に渡す。
 布袋から組紐を取り出した彼は、手の中のそれをじっと見下ろした。
 ひぇぇぇ、恥ずかしい。

「これを作るとき、どういう気持ちで作ったのですか?」

「どういう気持ち?」

 もしや迷惑だった!?
 その思考が顔に出ていたのか、ルシアンが「悪い意味ではありません」と付け加えた。

「えっと、いつもいろいろよくしてくれるルシアンへの感謝の気持ちと、ルシアンが元気でいてくれますように、という感じで」

「……この組紐から、強い祝福の力を感じます」

「え……そうなんですか……?」

 祝福って聖女の力の一つだよね?

「物にまで祝福の力を与えられるとは……」

 ルシアンは少し考え込むと、自分の手首に組紐を巻き付け、器用に片手で留めた。

「……身に着けるんですか?」

「いけませんか?」

「いえ、もちろんうれしいんですけど、その……素人が作ったものですし」

「上手にできていますよ。それに……」

 ルシアンが組紐ブレスレットに触れ、私を見つめる。
 彼の口元に、笑みが浮かんだ。

「私のことを思いながら作ってくれたのでしょう? それこそ、祝福の力が宿るほどに」

「そ、それは……そうなんですけど……」

 どうしてだろう。
 背中に変な汗が流れる。なんで私、緊張してるの?

「感謝します、オリヴィア。ありがたく頂戴しますね」

「は、はい、喜んでいただけて何よりです」

「では私はこれで」

 彼がそう言って再び背中を向けたので、緊張が解けてほっとする。
 そのタイミングを見計らったかのように、彼が私を振り返った。

「ちなみに」

 ルシアンが笑みを浮かべている。ちょっと意地の悪い、含みのある笑み。

「なんですか?」

「この組紐のブレスレット、市井では女性が恋い慕う相手に贈るのだそうです」

「えっ!!」

「あなたからの贈り物、確かに受け取りました。では」

 笑いを含んだ声でそう言って、ルシアンが出ていく。
 あれ、感謝の印って。
 メイーーー!?

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

こな
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...