乙女ゲーの愛され聖女に憑依したはずが、めちゃくちゃ嫌われている。

星名こころ

文字の大きさ
上 下
8 / 43

08 救いの手

しおりを挟む

「……大神官様」

 アルバートが苦い顔をする。
 ルシアンが近づいてきて、私と聖騎士たちの間に入った。私を背にかばうように。
 優しさからくる行動じゃないと知っている。それでも、うれしさと安堵で涙が出そうになる。

「副団長ヴィンセント。すべての話が聞こえたわけではありませんが、私にはあなたが聖女様を責め立てていたように見えました。私の勘違いですか」

「いいえ。仰る通りです」

 ヴィンセントがしれっと肯定する。

「居並ぶ男たちの前で聖女様に恥をかかせるような者は聖騎士とは言えません。相応の処罰を覚悟してください」

「大神官様! ヴィセントの無礼は団長たる私の責任です。どうか罰は私に……」

 その言葉にルシアンはゆっくりと振り返り、私の隣のアルバートを見据える。
 頭を下げるアルバートに向けるその瞳は、どこまでも冷たい。

「あなたにも責任があるのは言うまでもありません。あなたはここ中央神殿の聖騎士団長なのですから。そもそも、私が割って入る前に聖女様をかばうタイミングはいくらでもあったでしょう。ボーッと突っ立っているだけならそこの訓練用のわら人形と変わりません」

「……っ」

「団長は関係ありません、団長は俺を止めました! 俺の責任です! 罰は俺が……!」

「あーもうやめてよね」

 ヴィンセントの言葉を遮るようにそう言った私に、視線が集まる。
 その中でもひときわ怖い視線がルシアンだっていうんだからシャレにならない。

「くだらないかばい合いなんて見せないで。背筋が寒くなるわ。部屋に戻りましょ、ルシアン。送って」

 そう言って彼の腕に自分の腕を絡める。
 触れられるのが嫌いなのは知ってるけどごめんなさい、注目されすぎて色々ありすぎて腰が抜けそうなんです。

「処罰はどうなさるのですか」

「あとにしてちょうだい。私は疲れてるの」

「……承知いたしました」

 ルシアンに促され、歩き出す。
 私は誰とも視線を合わせないよう、ルシアンの腕にしがみつきながらただ前を見て歩いた。
 しばらく歩いて、ようやくひと気のない場所までくる。
 私は彼の腕から手を離した。

「急に腕を組んだりしてごめんなさい」

 視線を下げたまま言う。彼が怒った顔をしていたら、今は耐えられないから。

「その程度のこと、別に気にしません」

「それから……助けてくれてありがとうございます」

「サポートすると言ったでしょう。これが私の役割です」

 感情を感じさせない彼の声。でも、冷たくはない。私を責めることもない。
 そんな彼に気が緩んだのか、鼻の奥がつんとする。

 嫌われてた。
 聖騎士たちにめちゃくちゃ嫌われてた。男漁りしに来たいやらしい女だと思われてた。みんなの前で責められた……。

「ここで泣かないでくださいよ。ここから先は人通りがありますから」

 いつも通り同情とは無縁な彼の言い様が、今はいっそありがたい。
 優しくされたら、かえって泣いてしまいそうだから。

「泣きませんよ。私はオリヴィアですから」

「……」

「へ、部屋に行くまでは」

 ふ、と彼が笑う。
 顔を上げると、彼が微苦笑していた。
 苦笑交じりとはいえ、彼の作り笑いではない微笑を初めて見た気がする。

「いい心がけですね」

 彼が私の手を取って歩き出す。
 手袋越しに伝わる彼の体温が優しくて、また泣きそうになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

こな
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...