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第10話

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次の日の朝、俺はいつものように肥溜で排便した。今日も快便だった。空は晴れていてとても綺麗な青空が広がっていた。空気も澄んでいるように感じて、とても心地が良い。

やはり、うんこを出すのは気持ちの良いものだ。うんこをする時はどうしても下を向いてしまうが、こうやって青い空を見上げればより一層気分も爽やかになっていくような気がするのだ。

「よし、スッキリしたところで、今日も一日頑張るか!」

俺は気合いを入れて、今日の仕事を始めることにした。今日は畑仕事をしてから魔物の町を見に行く予定なのだ。俺はまず、畑に行ってジャガイモの世話をすることにした。ジャガイモは順調に育っており、もうすぐ収穫できそうだ。

「おーい、みんな!元気にしてたか!?」

俺は大声で呼びかけた。しかし、ジャガイモは野菜なので返事はしなかった。

「まあ、そりゃそうか……。まあ、いいか。お前たちも頑張ってるみたいだしな。これからも頼むぞ」

俺は優しく語りかけた。すると、まるで俺の言葉を理解したかのように一斉に茎が伸び始めた。

「おおっ、すごいな……。やっぱり俺の声に反応してくれているのか?」

俺は驚いてしまった。【農作業効率化】スキルのおかげなのか?それとも、愛情が伝わったということなのだろうか……。そんなことを考えていたが、スキルの詳細は分からないのでとりあえず今は仕事に集中することにした。

「よし、俺も負けていられないな……」

俺は気合を入れ直して、くわで土を掘り起こしていった。畑は拡大しておくに越したことはないだろう。魔物の数が増えれば食料問題が発生する可能性が高くなるからだ。俺には【農作業効率化】スキルがあるから、一人でもかなりの量の野菜を作れるはずだ。野菜がたくさん取れたら漬物とか作ってみるのも良いかもしれない。とりあえず天日干しして塩漬けにしておけば、常温で何年も保存できるらしいからな……。それから、『すんき』という長野県木曽きそ地方に古くから伝わる保存食にも興味がある。これは塩を使わずに赤カブの葉を乳酸菌発酵させたもので、近年、その健康効果が注目されて人気が高まっている食べ物だ。すんきを食べるとアレルギー症状が軽減されたり、胃潰瘍の予防になったり、感染症の予防になったり、快便になったり、悪玉菌が排除されたりと、うれしい効果がいっぱいあるらしいのだ。塩漬けと違って何年も保存することはできないが、寒くなったころに作ってみようと思う。

俺はそんなことを考えながら、黙々と鍬で畑を耕していた。

ザクッ、ザクッ、ズボッ……、ザシュッ、ザクッ……、 こうして無心になって作業をしていると、なんだか自分の中の邪念のようなものが消えていくように感じる。そういえば、俺は昔から何かに没頭している時が一番幸せな時間だった。一日中単純作業やティッシュ配りをしていても苦痛に思わなかったし、むしろ楽しんでさえいたのだ。

しかし、元の世界ではこれから機械化やAI化が進むことで単純労働の多くが奪われてしまい、人間はより高度な職業に就くことが求められるようになるだろう。それは人類の進化と呼べるのかもわからないが、俺のような人間にとっては少し生き辛い世界になってしまうような気がする。だから、もしいつか元の世界に戻ったとしたら、俺はなるべく資本主義社会とは関わらないようにして自給自足の生活を送っていくつもりだ。畑仕事や物々交換をして生活する方がしょうに合っているというか、そういう生き方のほうが好きなのだ。批判したりバカにしてくる奴もいるだろうけど、これは仕方のないことなのである。俺が無理して組織に所属してもセクハラの犯人として糾弾きゅうだんされるのがオチだしな……

俺はそんなことを思いながら鍬を振るっていた。すると、

ガキィンッ!! 突然、金属同士がぶつかったかのような音が聞こえてきた。

「うわぁっ!?」

俺はびっくりして鍬の先を見ると、土の中に黒い物体が埋まっているのが見えた。
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