上 下
18 / 18
第5話

5-1

しおりを挟む
帰りの馬車の中でミーシャと話をする。

「はぁ……。一体どうすれば……」

「ロアナさんのことですが、彼女は約束を守るのでしょうか……?仮にセリス様が彼女に抱かれたとして、本当に殿下を元に戻すことができるのでしょうか?」

「わからない……。けど、何もしないよりはマシだと思うの……」

「わかりました。では、今夜に備えてゆっくり休んでください。それと……、くれぐれもお気をつけて……」

「うん……」


***


私たちは城へと戻った。すると王子が玄関の前で待っていた。ミーシャは王子の姿を目にした瞬間、怯えた表情を浮かべた。そして、小声で私に話しかけてくる。

「ど、どうして殿下がここに……?」

「分からないわ……。とにかく、何をするか分からないから気をつけないと……」

私は警戒しながら彼に近づいた。

「やあ、おかえり。セリスティア、ミーシャ……」

「ただいま戻りました……。それで……、どうかなさいましたか?」

「いや、特に用事があるわけではないのだけれど。その……、最近あまり顔を見せてくれなかったので寂しくなってしまって……」

「そうでしたか……。それはごめんなさい……」

「ところで、今日はどこに行っていたのかな?」

「いえ……。特にどこということは……」

「本当かい?本当は男と会っていたんじゃないだろうね?」

「違います!この国に来たばかりなので街を見て回っていただけです!」

「ふーん……。まあいいさ……。それより、久しぶりに一緒に食事でもしようじゃないか」

正直なところ嫌だが、ここで断るのも良くないか……

「はい……。喜んで……」

「では、行こうか」

私とミーシャは王子の後に続いて食堂へと向かった。席に着くと、給仕係によって料理が次々と運ばれてきた。どれもとても美味しい。ミーシャも幸せそうな顔をしている。

「どうだい?ここのシェフの腕前は?」

「ええ、すごく美味しいわ!」

「それは良かったよ……。ところで……、僕たちはもう結婚しているのだから、そろそろ僕のことを名前で呼んでくれないか?」

「それもそうですね……。分かりました。これからはエルクと呼びますね!」

「ああ、よろしく頼むよ。セリスティア」

私たちは談笑しながら食事を楽しんでいた。

(今日は何も仕掛けてこないの……?)

私は少し拍子抜けしていた。しかし、油断はできない。彼がいつ豹変してもおかしくないのだ……

その後、会話をしながら食事を続けていると、王子はミーシャに話しかけてきた。

「ねぇ、ミーシャは誰かと結婚するつもりはあるの?」

王子に問いかけられて、ミーシャは少し怯えた様子だ。

「いえ……、私は……。今のところそういう予定は無いです……」

「そうか……。もし一夫多妻が許されているのなら、君にも側室の一人になってもらいたかったのだけど……」

「ご冗談を……」

「ハハッ……。残念だよ……」

王子は笑っているが、目は全然笑ってはいなかった。私はゾッとした。ミーシャは平静を保っているように見えるが、内心は恐怖を感じているだろう。

「ねぇ、セリスティア……。君と僕はまだ一度も肌を重ねていないよね?」

「ええ……。それが何か?」

「今晩は二人きりで過ごして欲しいんだ。いいだろう?」

「えっ!?」

私は動揺してしまった。まさか食事中にこんなことを言われるなんて……

「ダメなのかい?」

「ダメというか……。私たちは仮面夫婦ですから、そういった行為は必要無いと思いますが……」

「僕はそうは思わないんだ……。君は美しいからね……。一度くらいは抱いてみたいんだよ……」

「そんな……。困ります……」

「大丈夫。優しくするから」

「いや……、ダメです!私たちには愛が無いのですから、そういったことはできません!!」

「へぇ~……。あくまで拒むつもりなんだね……」

「ええ、もちろんです!」

「そう……。なら仕方ないね……」

「……?」

意外にも王子はあっさり引き下がった。私はホッとしたが、ミーシャは怯えたような目をしていた。

「じゃあ、また後でね……」

彼は笑顔でそう言うと去っていった。その後、食後のお茶を飲みながら一息つく。すると、ミーシャが話しかけてきた。

「セリス様……、殿下は一体何を考えているのでしょうか?何やら様子がおかしい気がしますが……」

「わからないわ……。でも、何か企んでいるのかもしれないから注意しないと……」

「はい……。わかり……ました……」

そのとき、急に眠気に襲われた。

「あれ……?なんか眠くなってきたんだけど……」

瞼が重い……。ミーシャの方を見ると彼女は目を閉じていた。

「ミー……シャ……?」

きっと睡眠薬を盛られたのだろう。必死に抵抗しようとするが、身体の自由がきかない。やがて意識が遠のき、眠りに落ちてしまった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。

紅月
恋愛
「なに此処、18禁乙女ゲームじゃない」 と前世を思い出したけど、モブだから気楽に好きな事しようって思ってたのに……。 攻略対象から逆ハーフラグを折ってくれと頼まれたので頑張りますが、なんか忙しいんですけど。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

お姉様(♂)最強の姫になる~最高のスペックでの転生を望んだら美少女になりました~

深水えいな
ファンタジー
高貴な家柄、圧倒的なパワー、女の子にモテモテの美しい容姿、俺の転生は完璧だ!女の子であるという、一点を除けば。お姫様に転生してしまった最強お姉様が、溺愛する妹と共に無双する!爽快コメディーファンタジーです!! ※なろう、カクヨムで公開したものを加筆修正しています

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

処理中です...