縁は縁でも腐ってる

長澤直流

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小話

【家宝の槍と畳の穴】壱

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 美慶が野神家に正式に輿入れした後、総満がお上に呼ばれて上京したことがあった。総満は美慶を共に連れて行くつもりだったが、日頃美慶を抱き潰していたことがあだとなる。出立日に美慶の体調が整わず、連れて行くことが出来なくなってしまったのだ。仕方なく美慶を城に残し、一月ほど総満は城を空けていたのだが……その間、無理矢理にでも美慶を連れて行くべきだったと、総満は生まれて初めて後悔することとなる。野神家を継承し、新たに奥を設えるまで閨事には一切関わらなかった総満は、淡泊と思いきやその実、父親譲りの絶倫であったのだ。遅咲きに開花してしまった当人が、自覚することなく今まで何の不満も無く閨事に事足りていたのは、そこにもともと受け身の性格であった美慶が、輿入れしてから総満のどんな要望にもなし崩しに応えてきてしまったためといえた。
 ……つまりは総満のやりたい放題だったのだ。
 それ故に、総満にとってそれが基準となってしまい、その美慶にどっぷりとはまっていた総満は既にそんじょそこらの艶事では満足出来なくなってしまっていた。
 さらに悪いことに、美慶は総満が城を長らく空けていた間に心身共に回復し、かつての俊敏さを取り戻していたため、帰城して久し振りに美慶を抱こうにもその美慶がなかなか捕まらない。
 美慶はなし崩しに快楽の渦に引きずり込まれるのをおそれ、回らぬ頭で考えを巡らせた結果、総満から逃げ続けるという愚策を実行し続けていたのだ。苛立つ総満に家臣達は戦々恐々とするも、明け方足腰立たぬ美慶の姿を度々目にしていた小姓達は美慶を一方的の咎めることが出来ずにいた。
 そうしているうちに帰還前から欲求不満だった総満の鬱憤は着々と溜まってゆき………………ある日突然静かに爆ぜた。


 それは朝餉の支度が調い、美慶付きの小姓が美慶のところに配膳しようとした時だった。総満付きの小姓が台所に血相を変えて走り込んで来たのだ。
「御前様が居られませぬ。部屋に飾られていた家宝の槍も消えていて――――――っ、美慶様は御無事ですか!?」
 そう言うのと同時に、遠くで何かが倒れる音と言い争う声が聞こえてきた。
 小姓達は顔を真っ青にして互いの顔を見合わせると、動揺して覚束無い足取りで慌てて美慶の部屋へと駆け出した。
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