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◆拾捌
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「へ?」
晨朝、美慶は極の忍から受けた豊稔の定期報告の内容に動揺し、間の抜けた声を漏らした。
「……宗近様が身罷られただと?」
「先般、豊稔に蔓延した疫病にかかられていたようでございます」
「そんな……まさか…………。なんの知らせも無く――」
「御遺体はすぐに火葬されたそうでございます。喪主は次期ご当主と成られる甥の宗宜様が務められたとのことでございます」
(宗宜が――もしや一服盛られたか!?)
瞬時、美慶は頽れた。
「早菜姫様!?」
美慶は心配して駆け寄ろうとする極の忍を手で遮った。
「大事ない。それで早菜……、豊稔の美慶殿は如何なされた」
「美慶様は宗近様の後を追われたそうでございます」
「…………そう……ですか」
早菜姫の性格から宗近の後を追うことなど考えられなかった。
宗近には甥が三人いる。
姉の子である宗宜。妹の子である宗政。弟の子である宗頼。
宗近には早菜姫しかいなかったため、婿養子か、政略結婚かと話があったが、今回の騒動でそうもいかなくなってしまった。何故ならば、言わずもがな美慶が早菜姫として極に輿入れすることになってしまったからである。宗近が養子縁組していたのは美慶のみ……。書類上、豊稔には美慶が残っていることになっているのだ。早菜姫が婿を取らなかった場合、宗近亡き後は美慶が後を継ぐことになっていた。しかし、実際残っているのは態度と浪費の激しい早菜姫、甥達からしたら邪魔でしか無いだろう。
――この地を治めるにあの女を娶らねばならぬとは身の毛がよだつ思いよのう。まあ、お前が付いてくるのであれば考えなくもないが……なぁ、美慶、叔父上から俺に乗り換えぬか?――
美慶は宗宜が言っていた戯言を思い出し、全身の血の気が引き心が冷たくなってゆくのを感じていた。
宗宜は以前そう言って美慶をいやらしい目付きで見ていたのだ。
(おそらく宗宜に消されたのだろうな……)
美慶は顔をしかめた。
「早菜姫様?」
「……報告、大儀であった。さがられよ」
美慶は溢れ出す感情を隠し、極の忍へ労いの言葉を掛けると、その場を下がらせた。
そして美慶は極の忍が姿を消すと、文机に突っ伏し静かに嗚咽を漏らした。
晨朝、美慶は極の忍から受けた豊稔の定期報告の内容に動揺し、間の抜けた声を漏らした。
「……宗近様が身罷られただと?」
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「そんな……まさか…………。なんの知らせも無く――」
「御遺体はすぐに火葬されたそうでございます。喪主は次期ご当主と成られる甥の宗宜様が務められたとのことでございます」
(宗宜が――もしや一服盛られたか!?)
瞬時、美慶は頽れた。
「早菜姫様!?」
美慶は心配して駆け寄ろうとする極の忍を手で遮った。
「大事ない。それで早菜……、豊稔の美慶殿は如何なされた」
「美慶様は宗近様の後を追われたそうでございます」
「…………そう……ですか」
早菜姫の性格から宗近の後を追うことなど考えられなかった。
宗近には甥が三人いる。
姉の子である宗宜。妹の子である宗政。弟の子である宗頼。
宗近には早菜姫しかいなかったため、婿養子か、政略結婚かと話があったが、今回の騒動でそうもいかなくなってしまった。何故ならば、言わずもがな美慶が早菜姫として極に輿入れすることになってしまったからである。宗近が養子縁組していたのは美慶のみ……。書類上、豊稔には美慶が残っていることになっているのだ。早菜姫が婿を取らなかった場合、宗近亡き後は美慶が後を継ぐことになっていた。しかし、実際残っているのは態度と浪費の激しい早菜姫、甥達からしたら邪魔でしか無いだろう。
――この地を治めるにあの女を娶らねばならぬとは身の毛がよだつ思いよのう。まあ、お前が付いてくるのであれば考えなくもないが……なぁ、美慶、叔父上から俺に乗り換えぬか?――
美慶は宗宜が言っていた戯言を思い出し、全身の血の気が引き心が冷たくなってゆくのを感じていた。
宗宜は以前そう言って美慶をいやらしい目付きで見ていたのだ。
(おそらく宗宜に消されたのだろうな……)
美慶は顔をしかめた。
「早菜姫様?」
「……報告、大儀であった。さがられよ」
美慶は溢れ出す感情を隠し、極の忍へ労いの言葉を掛けると、その場を下がらせた。
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