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◆玖
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明け方、いつもと違う天井で目が覚めた美慶は、これが夢ではないことを改めて感じ、小さく溜め息を吐いた。
お目通りにはまだ時間があったが、することも無いのでそれ用の着物に着替えていると障子の向こうにこの城の者とは違う人の気配を僅かに感じ、美慶は控えめに声を掛けた。
「誰ぞ」
「伊織でございます。美慶様、お迎えに参りました」
「い……おり、あの伊織か――!」
伊織は宗近の草、忍である。
美慶が着替えも途中に障子を開けると、そこには大きな袋を肩に抱えた伊織が立っていた。
伊織は足音もなく美慶のいる部屋へと入ると、大きな袋の中から驚くべきものを取り出した。
「――っ!」
それは煌びやかな着物を身に纏った早菜姫だった。その顔は青白く、寝ているというよりは気を失っているという具合だった。
(どういうことだ? 何故ここに早菜姫が――)
「美慶様、門前にて宗近様がお待ちです。時間がございませぬ故、すぐに御出立を――」
「宗近様が――」
美慶の顔に血の気が宿る。
(ああ、私は見捨てられた訳ではなかったのだ!)
美慶と伊織は早菜姫を褥に寝かせると、足早にその部屋を出た。
美慶もとい早菜姫の世話役である宇木恭之介は一睡も出来ずに頭を抱えていた。
(美慶殿の事が御前様に露呈すれば私も無事では済まない。何とやっかいな…………いやだがあの容姿、何とか誤魔化せるやもしれぬ……か?)
宇木は女中を連れていない美慶の準備を手伝うため、予定よりも早めに美慶のいる部屋へと向かうことにした。すると、早菜姫に仕分けられた部屋の前で、朝餉を用意した小姓がいくら声を掛けても返事がないと困っていた。
「早菜姫様、お目覚めの時間でございます。畏れながらそろそろ御起床頂き、お支度の方を――」
宇木がそう声を掛けると部屋の中からくぐもったうめき声が聞こえてきた。
「失礼致します!」
異変を感じた宇木が異常事態と、無礼を覚悟で障子を開けると、そこには着物にくるまれ丸まった何かが転がっていた。
「美よっ――」
思わず美慶の名を言いそうになり宇木は口を塞ぐ。恐る恐る近づくと、そこには醜く太った醜女が綺麗な着物を纏い、気を失っていた。
(もしや……、もしやもしやもしやもしや――――)
最悪を予想して喉の奥がひりつく。
(これが本物の――――)
「…………早菜姫……様?」
宇木の心の中を読んだかのような小姓の呟きに、嫌な汗が全身を伝い、一気に血の気が引いてゆく。
(こんな者を出したら、私がその場で斬り捨てられるではないか!!)
宇木は急ぎ踵を返した。
お目通りにはまだ時間があったが、することも無いのでそれ用の着物に着替えていると障子の向こうにこの城の者とは違う人の気配を僅かに感じ、美慶は控えめに声を掛けた。
「誰ぞ」
「伊織でございます。美慶様、お迎えに参りました」
「い……おり、あの伊織か――!」
伊織は宗近の草、忍である。
美慶が着替えも途中に障子を開けると、そこには大きな袋を肩に抱えた伊織が立っていた。
伊織は足音もなく美慶のいる部屋へと入ると、大きな袋の中から驚くべきものを取り出した。
「――っ!」
それは煌びやかな着物を身に纏った早菜姫だった。その顔は青白く、寝ているというよりは気を失っているという具合だった。
(どういうことだ? 何故ここに早菜姫が――)
「美慶様、門前にて宗近様がお待ちです。時間がございませぬ故、すぐに御出立を――」
「宗近様が――」
美慶の顔に血の気が宿る。
(ああ、私は見捨てられた訳ではなかったのだ!)
美慶と伊織は早菜姫を褥に寝かせると、足早にその部屋を出た。
美慶もとい早菜姫の世話役である宇木恭之介は一睡も出来ずに頭を抱えていた。
(美慶殿の事が御前様に露呈すれば私も無事では済まない。何とやっかいな…………いやだがあの容姿、何とか誤魔化せるやもしれぬ……か?)
宇木は女中を連れていない美慶の準備を手伝うため、予定よりも早めに美慶のいる部屋へと向かうことにした。すると、早菜姫に仕分けられた部屋の前で、朝餉を用意した小姓がいくら声を掛けても返事がないと困っていた。
「早菜姫様、お目覚めの時間でございます。畏れながらそろそろ御起床頂き、お支度の方を――」
宇木がそう声を掛けると部屋の中からくぐもったうめき声が聞こえてきた。
「失礼致します!」
異変を感じた宇木が異常事態と、無礼を覚悟で障子を開けると、そこには着物にくるまれ丸まった何かが転がっていた。
「美よっ――」
思わず美慶の名を言いそうになり宇木は口を塞ぐ。恐る恐る近づくと、そこには醜く太った醜女が綺麗な着物を纏い、気を失っていた。
(もしや……、もしやもしやもしやもしや――――)
最悪を予想して喉の奥がひりつく。
(これが本物の――――)
「…………早菜姫……様?」
宇木の心の中を読んだかのような小姓の呟きに、嫌な汗が全身を伝い、一気に血の気が引いてゆく。
(こんな者を出したら、私がその場で斬り捨てられるではないか!!)
宇木は急ぎ踵を返した。
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