王様と籠の鳥

長澤直流

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第5章

亡国の王女~体温~

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 王宮内に入ったライアナがシェルミーユを探すと、彼は中庭に佇んでいた。
「シェルミーユ……」
 ライアナが声を掛けると、シェルミーユは音もなく振り返る。
 ライアナはその綺麗な瞳から目をそらさず、ただ一言呟いた。
「すまん」
 たった一言だったが、シェルミーユにはそれが何を意味しているのかがわかった。
「お前が殺したのか?」
「手を下してはいないが、判決を下したのは俺だ。……殺したも同然だろう。あの女の命が風前の灯火であることには変わらない」
「――決定事項なのか……もう助からないのか?」
「……覆すつもりはない。まだ報告は来ていないが、すでに執行済やもしれん」
 シェルミーユはライアナから目をそらし、口を噤んだ。
(あの女の命にもう未来はないのだろう……、私のしたことは無駄だったのだろうか?)
 シェルミーユはかたく目を閉じた。

「俺が……、俺が直接手を下さなかったことがせめてもの情けだ」

 瞬時、シェルミーユがライアナを見つめると、彼は目をそらさずまっすぐにシェルミーユを見つめ返した。
「……そうか、そうだな」
 シェルミーユはライアナが直接手を下さなかったということの意味に気付いた。
 ライアナが当人に直接会えば、怒りを抑えることは恐らく出来ないだろう。
 ライアナの気分次第では、彼女はぼろ雑巾のようにぼろぼろになるまで暴行を受け、生きたまま犬の餌にされたかもしれない。
 その事を考えれば処罰を他人に任せたというのは、ライアナにとってシェルミーユに対する最大限の譲歩だった。

「…………すまん、ありがとう」

 シェルミーユは消え入りそうな声でそう言うと、小さく微笑んで涙を流した。
 ライアナはその涙を優しく拭い、シェルミーユを優しく抱き締めた。
「――許せ……」
 ライアナはそう呟き、静かに涙を流すシェルミーユの心が落ち着くまで抱き締め続けた。
 
 その夜、2人はただただ抱き合い、言葉もないまま互いの体温だけを感じながら眠りについた。
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