王様と籠の鳥

長澤直流

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第5章

亡国の王女~王の溜め息~

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 夕日に染まる会議室で跪くクリスチーネを前に、ライアナは眉間にシワを寄せセゲイラの死刑を即決した後、溜め息をついた。

「告知すれば傷つくのだろうな……。しかし黙っていたことがばれればまた溝を作ることになる」
「……」
「だが許せん……。俺は狭量か?」
「いいえ、ただ王妃様があまりにも不憫でございます。今のままでは事情を知らぬ者の中には公に出てこられない王妃様を無能と蔑む輩が現れるやもしれません」
 ライアナは怪訝な顔をして目頭を押さえた。
「……あいつを公に出すことはできん。民衆の目にさらすなど……俺が我慢ならん」
「……ベールをお掛けになっていただき、物見台からの御公務への御出席はいかがでしょうか?」
「ベールを……」
「民衆との間に距離がございますれば、お姿を暴かれることもございませんでしょう。ご審議くださいませ」
 ライアナはややあって小さく頷いた。
「セゲイラ様の執行方法はいかがいたしましょう?」
「シェルミーユの目もある。せめてもの情け、苦しまぬように一思いに首を跳ねてやれ。もちろん非公開に処せ……首は晒すなよ、あいつの耳に入ったら大事だ」
「承知いたしました」
 クリスチーネは深々と頭を下げ、その場を立ち去る。
 その無駄のない所作は、とても初老の老婆には見えず、彼女が前線を引退したとはいえ、戦士として現役であることを暗示していた。
 会議室に1人残されたライアナは、テーブルを激しく打ち付けた。
 テーブルがけたたましい轟音と共に粉々に砕け散る。
 会議室の扉の向こうに控えていた兵士が慌てて中の様子を窺うが、苛立つ王を一目見てしまった兵士は言葉を失い、恐怖で身動きがとれなくなってしまった。
 呼吸もままならない兵士が窒息しかけたところで、その兵士と同じく扉の向こうに控えていたジョルジュが兵士の肩を叩き声を掛ける。
「控えていろ」
 ジョルジュがそう言うと兵士は弾かれたように扉の向こうに姿を消した。

 ライアナは全身に黒い殺気を纏っていた。

(圧縮された密度の濃い殺気……触れたら斬れてしまいそうだな)
 ジョルジュはあえて淡々と声を掛けた。
「陛下、刑が執行されるのも時間の問題と思われます。……すぐにでも王妃様にお伝えした方がよろしいのでは……?」
 ライアナの殺気が一瞬の内に萎み、霧散して虚無へと変わる。
「……そうだな」
 ライアナは虚ろな顔をして言った。
 不安なのだ、先が読めない。シェルミーユにどう伝えるべきか……。ライアナにはどう伝えても希望は見えないように思えた。
「王妃のもとへ……」
 ライアナは重い足取りで王宮へ向かい、ジョルジュは黙ってその後に付いていった。
 王宮の扉の前まで来ると、ライアナはジョルジュに対し手をかざす。
 ジョルジュはライアナに軽く頭を下げ、その場に待機する。

「……」

 ライアナは軽く握り拳を作り、意を決し王宮内へと足を踏み入れた。

(男は皆、愛する者の涙には弱い。最強と謳われるライアナ様もシェルミーユ様の前ではただの男になってしまう、それだけ王妃かれの存在は大きい)

 ライアナの姿を見てジョルジュはそう強く感じた。
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