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第4章
歩み寄り5
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クリスチーネが再び王宮に招かれたのは昼を過ぎた頃だった。意を決して赴いたクリスチーネだったが、初っぱなから意表を突かれる。彼女が見た昨日の2人のやり取りからではとても想像がつかない。
なぜかライアナとシェルミーユは手を繋いでいたのだ。
クリスチーネが呆気にとられていると、ライアナは上機嫌で微笑んで言った。
「クリス、昨日はすまなかったな。改めてシェルミーユのこと、よろしく頼む」
そう言うとライアナは名残惜しそうにシェルミーユの手に口付けを落とし、公務のため王宮を後にした。
クリスチーネはライアナが謝罪したことに驚きつつも深々と頭を下げ、ライアナを見送った。
クリスチーネがシェルミーユの方に振りかえると彼は先程まで繋いでいた手を見つめていた。
「どうかされましたか?」
「……いえ」
シェルミーユは手を引っ込め、改めて彼女に挨拶をした。
「今日からよろしくお願いいたします」
クリスチーネは目を伏せ、頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
(互いに手を握られていたということは、お二方の間柄は存外険悪ではないのだろうか……)
クリスチーネはそうであってほしいと願った。
「何からお話しましょうか?」
「そうですね、それでは――」
意気揚々と話し出そうとしてシェルミーユは言葉を失った。何を話せばいいのか……、話したいことはいっぱいあったはずなのに何を話していいのか彼にはわからなかった。シェルミーユは他者と世間話をするには長く王宮に1人で居すぎたのだ。己の空っぽさにシェルミーユは俯いた。
「王宮の外の……様子を聞かせて欲しい。国の様子は如何か?」
シェルミーユは当たり障りのない話をふった。
「クリムゾン王国はさらに領土を広げております。されど治安はさほど悪くはないと思われますのでご安心下さいませ」
クリスチーネは笑顔で応えた。
1度気落ちしたシェルミーユだったが、自分の問いかけに応えてくれる人の存在を得たことを実感して気分が高揚する。
「クリスチーネは私の両親についてなにか聞いておられるか?」
「ご両親ならばご健在であられます。妹君も健やかに成長なされておられます。先日、10歳のお誕生日を迎えられたとか……」
シェルミーユの思考が止まる。
(妹……?)
選択の儀まで一人っ子だったシェルミーユは過ぎ去ってしまった時の流れを感じずにはいられなかった。
「なにか言伝てでもございましょうか?」
「……お誕生日おめでとうございますと、お伝えください」
「かしこまりました」
クリスチーネは目を細めて微笑んで言った。シェルミーユはそれに微笑んで返したが、その微笑みには哀愁が漂っていた。
(生涯、会うことは叶うまい……、どうか彼女に幸あらんことを――)
シェルミーユは会ったこともない妹に思いを馳せた。
クリスチーネは王宮の中庭に咲く色鮮やかな花に目が引き寄せられた。
「王宮の植物はたくさん花をつけていらっしゃるのですね」
「ライ……いえ、王様より戦のお土産などで、よく頂くのです。植物を愛でることは許可頂けたので……」
「王妃様は普段、王様のことをお名前のみでお呼びになられるのですか?」
「……基本的には……。以前色々とありまして……」
「?」
シェルミーユはライアナが即位して間もない頃のことを思い出した。
彼は以前、ライアナに皮肉を込めて国王と呼び続けた時期があり、それによってライアナの不興を買い寝室に連れ込まれ1週間程ほぼ不眠不休で抱かれ続けたことがあった。
シェルミーユが折れる感じで何とかことは収まったが、シェルミーユを解放したライアナは何食わぬ顔で公務に出てゆき、解放されたシェルミーユはその日1日中死んだように眠り続けることとなってしまったという経緯がある。
(あの絶倫体力馬鹿に張り合って付き合っていたら体がもたん……)
当時のことを思い出すとシェルミーユは今でも顔がひきつり、全身の血が沸き上がってしまう。あれ以来、シェルミーユは公私共にライアナの前で彼を呼ぶ時は名で呼ぶようにしている。
「本当にとても綺麗ですね、私の目では1つ1つの形こそわかりませんが、色鮮やかな素晴らしいお庭であることはわかります」
クリスチーネの感嘆の言葉に、思い耽っていたシェルミーユは我に返り、彼は彼女に優しく微笑んで言った。
「庭を案内いたします」
2人は中庭へとおりていった。
なぜかライアナとシェルミーユは手を繋いでいたのだ。
クリスチーネが呆気にとられていると、ライアナは上機嫌で微笑んで言った。
「クリス、昨日はすまなかったな。改めてシェルミーユのこと、よろしく頼む」
そう言うとライアナは名残惜しそうにシェルミーユの手に口付けを落とし、公務のため王宮を後にした。
クリスチーネはライアナが謝罪したことに驚きつつも深々と頭を下げ、ライアナを見送った。
クリスチーネがシェルミーユの方に振りかえると彼は先程まで繋いでいた手を見つめていた。
「どうかされましたか?」
「……いえ」
シェルミーユは手を引っ込め、改めて彼女に挨拶をした。
「今日からよろしくお願いいたします」
クリスチーネは目を伏せ、頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
(互いに手を握られていたということは、お二方の間柄は存外険悪ではないのだろうか……)
クリスチーネはそうであってほしいと願った。
「何からお話しましょうか?」
「そうですね、それでは――」
意気揚々と話し出そうとしてシェルミーユは言葉を失った。何を話せばいいのか……、話したいことはいっぱいあったはずなのに何を話していいのか彼にはわからなかった。シェルミーユは他者と世間話をするには長く王宮に1人で居すぎたのだ。己の空っぽさにシェルミーユは俯いた。
「王宮の外の……様子を聞かせて欲しい。国の様子は如何か?」
シェルミーユは当たり障りのない話をふった。
「クリムゾン王国はさらに領土を広げております。されど治安はさほど悪くはないと思われますのでご安心下さいませ」
クリスチーネは笑顔で応えた。
1度気落ちしたシェルミーユだったが、自分の問いかけに応えてくれる人の存在を得たことを実感して気分が高揚する。
「クリスチーネは私の両親についてなにか聞いておられるか?」
「ご両親ならばご健在であられます。妹君も健やかに成長なされておられます。先日、10歳のお誕生日を迎えられたとか……」
シェルミーユの思考が止まる。
(妹……?)
選択の儀まで一人っ子だったシェルミーユは過ぎ去ってしまった時の流れを感じずにはいられなかった。
「なにか言伝てでもございましょうか?」
「……お誕生日おめでとうございますと、お伝えください」
「かしこまりました」
クリスチーネは目を細めて微笑んで言った。シェルミーユはそれに微笑んで返したが、その微笑みには哀愁が漂っていた。
(生涯、会うことは叶うまい……、どうか彼女に幸あらんことを――)
シェルミーユは会ったこともない妹に思いを馳せた。
クリスチーネは王宮の中庭に咲く色鮮やかな花に目が引き寄せられた。
「王宮の植物はたくさん花をつけていらっしゃるのですね」
「ライ……いえ、王様より戦のお土産などで、よく頂くのです。植物を愛でることは許可頂けたので……」
「王妃様は普段、王様のことをお名前のみでお呼びになられるのですか?」
「……基本的には……。以前色々とありまして……」
「?」
シェルミーユはライアナが即位して間もない頃のことを思い出した。
彼は以前、ライアナに皮肉を込めて国王と呼び続けた時期があり、それによってライアナの不興を買い寝室に連れ込まれ1週間程ほぼ不眠不休で抱かれ続けたことがあった。
シェルミーユが折れる感じで何とかことは収まったが、シェルミーユを解放したライアナは何食わぬ顔で公務に出てゆき、解放されたシェルミーユはその日1日中死んだように眠り続けることとなってしまったという経緯がある。
(あの絶倫体力馬鹿に張り合って付き合っていたら体がもたん……)
当時のことを思い出すとシェルミーユは今でも顔がひきつり、全身の血が沸き上がってしまう。あれ以来、シェルミーユは公私共にライアナの前で彼を呼ぶ時は名で呼ぶようにしている。
「本当にとても綺麗ですね、私の目では1つ1つの形こそわかりませんが、色鮮やかな素晴らしいお庭であることはわかります」
クリスチーネの感嘆の言葉に、思い耽っていたシェルミーユは我に返り、彼は彼女に優しく微笑んで言った。
「庭を案内いたします」
2人は中庭へとおりていった。
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