王様と籠の鳥

長澤直流

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第4章

歩み寄り4

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 明け方。王宮、寝室内でライアナは自責の念に駆られていた。
「許せ、シェルミーユ……」
 ライアナはぐったりと横たえるシェルミーユにそう呟いた。
(俺は耐えたのだ。お前がクリスを嬉しそうに見つめることも、お前がクリスの手に触れたことも……。だが――)
 昨日、ライアナはつい売り言葉に買い言葉でシェルミーユを追い詰めてしまった。
(あの顔はいけない、いくらクリスの目が不自由だろうと泣き顔は――)
 ライアナはクリスチーネの去り際にシェルミーユが見せた必死な姿を思い出す。
(いや、俺が悪かったのだ。大人気なかった。期待させて……かわいそうなことをした。……許せ、シェルミーユ)
 せっかく少しだけ歩み寄れたかと思った矢先、つまらぬことでまたシェルミーユに心を閉ざされかねない。
 ライアナはシェルミーユの頬を撫で、シェルミーユの手の甲に己の額をあてて祈るように頭を下げた。先日自分に向けられたシェルミーユの笑顔を何度も思い出し、またあの笑顔を自分に向けてほしいと願うと、女々しくも情けなく視界が滲む。
(今日はきっと耐えて見せる……。だから…………俺を許してくれ)


 シェルミーユは夢を見ていた。
 目前には白い空間が広がっていて1人の少年が蹲って声を圧し殺して泣いているようだ。
 声をかけても少年は微動だにしない。
 シェルミーユが少年の頭を撫でると少年はようやく顔をあげ、シェルミーユを不安そうに見つめた。
 涙に濡れ輝きを放つその瞳は燃えるような緋色の瞳だった。
 シェルミーユは不謹慎にもなんて綺麗な瞳だろうと思った。その瞳を見つめていると胸が締め付けられるように痛むのだ。
 しかしどこかで見覚えのある瞳だった。
 どこで――――?


 シェルミーユが夢から覚めた時、ライアナはシェルミーユの手の甲に額をあてて蹲っていた。シェルミーユは今しがた夢で見た少年とライアナが重なり、つい空いている方の手でライアナの頭を撫でた。頭に暖かさを感じて驚き、顔をあげたライアナと目が合う。そこには夢の少年と同じ緋色の瞳があった。シェルミーユは一瞬静止するも、ライアナの頬に1粒の涙が流れるのを見て思わず彼の頭を覆うように抱き締めた。シェルミーユは見てはいけないもの、誰にも見せてはいけないものを見た気がしたのだ。
「シェルミーユ……?」
「喋るなっ――」
 シェルミーユ自身どうしてこんなことをしてしまったのかわからない。ただただ胸が締め付けられるように痛み、心臓の音が早鐘のように耳元で鳴り響いている。
(この男はこの国の王だぞ。クリムゾン王国最強の王、ライアナ王なのだ。泣くことなどあり得ない、泣き顔などさらしてはならないっ)
 ここは王宮内、2人以外は誰もいない。わかってはいるが、シェルミーユはまるでライアナを、秘密を守るかのように抱くその腕を緩めることは出来なかった。
「……」
 なぜシェルミーユが自発的にライアナを抱き締めているのかライアナにはわからなかったが、彼にとって理由の有無など大した問題ではなかった。
 ライアナは、きつく抱き締めるシェルミーユの腕に酔いしれ、彼の腰に腕を回す。
(暖かい……)
 ライアナは目頭が熱くなるのを感じながらシェルミーユの胸に顔を擦り寄せた。
 シェルミーユはさらに腕の力を強める。心臓の音はだいぶ穏やかになったが胸を締め付けるような痛みはなかなか消えない。
(夢の少年がお前だったのかはわからない。だが、今お前を泣かしているのは間違いなく私なのだろうな――)
 シェルミーユはライアナの頬を伝った1粒の涙が頭から離れないでいた。
(なんなのだ、なんなのだこの気持ちは……?)

 ライアナの見せた1粒の涙がシェルミーユの心に、2人の関係に思わぬ波紋を生むこととなる。
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