21 / 52
第4章
歩み寄り4
しおりを挟む
明け方。王宮、寝室内でライアナは自責の念に駆られていた。
「許せ、シェルミーユ……」
ライアナはぐったりと横たえるシェルミーユにそう呟いた。
(俺は耐えたのだ。お前がクリスを嬉しそうに見つめることも、お前がクリスの手に触れたことも……。だが――)
昨日、ライアナはつい売り言葉に買い言葉でシェルミーユを追い詰めてしまった。
(あの顔はいけない、いくらクリスの目が不自由だろうと泣き顔は――)
ライアナはクリスチーネの去り際にシェルミーユが見せた必死な姿を思い出す。
(いや、俺が悪かったのだ。大人気なかった。期待させて……かわいそうなことをした。……許せ、シェルミーユ)
せっかく少しだけ歩み寄れたかと思った矢先、つまらぬことでまたシェルミーユに心を閉ざされかねない。
ライアナはシェルミーユの頬を撫で、シェルミーユの手の甲に己の額をあてて祈るように頭を下げた。先日自分に向けられたシェルミーユの笑顔を何度も思い出し、またあの笑顔を自分に向けてほしいと願うと、女々しくも情けなく視界が滲む。
(今日はきっと耐えて見せる……。だから…………俺を許してくれ)
シェルミーユは夢を見ていた。
目前には白い空間が広がっていて1人の少年が蹲って声を圧し殺して泣いているようだ。
声をかけても少年は微動だにしない。
シェルミーユが少年の頭を撫でると少年はようやく顔をあげ、シェルミーユを不安そうに見つめた。
涙に濡れ輝きを放つその瞳は燃えるような緋色の瞳だった。
シェルミーユは不謹慎にもなんて綺麗な瞳だろうと思った。その瞳を見つめていると胸が締め付けられるように痛むのだ。
しかしどこかで見覚えのある瞳だった。
どこで――――?
シェルミーユが夢から覚めた時、ライアナはシェルミーユの手の甲に額をあてて蹲っていた。シェルミーユは今しがた夢で見た少年とライアナが重なり、つい空いている方の手でライアナの頭を撫でた。頭に暖かさを感じて驚き、顔をあげたライアナと目が合う。そこには夢の少年と同じ緋色の瞳があった。シェルミーユは一瞬静止するも、ライアナの頬に1粒の涙が流れるのを見て思わず彼の頭を覆うように抱き締めた。シェルミーユは見てはいけないもの、誰にも見せてはいけないものを見た気がしたのだ。
「シェルミーユ……?」
「喋るなっ――」
シェルミーユ自身どうしてこんなことをしてしまったのかわからない。ただただ胸が締め付けられるように痛み、心臓の音が早鐘のように耳元で鳴り響いている。
(この男はこの国の王だぞ。クリムゾン王国最強の王、ライアナ王なのだ。泣くことなどあり得ない、泣き顔などさらしてはならないっ)
ここは王宮内、2人以外は誰もいない。わかってはいるが、シェルミーユはまるでライアナを、秘密を守るかのように抱くその腕を緩めることは出来なかった。
「……」
なぜシェルミーユが自発的にライアナを抱き締めているのかライアナにはわからなかったが、彼にとって理由の有無など大した問題ではなかった。
ライアナは、きつく抱き締めるシェルミーユの腕に酔いしれ、彼の腰に腕を回す。
(暖かい……)
ライアナは目頭が熱くなるのを感じながらシェルミーユの胸に顔を擦り寄せた。
シェルミーユはさらに腕の力を強める。心臓の音はだいぶ穏やかになったが胸を締め付けるような痛みはなかなか消えない。
(夢の少年がお前だったのかはわからない。だが、今お前を泣かしているのは間違いなく私なのだろうな――)
シェルミーユはライアナの頬を伝った1粒の涙が頭から離れないでいた。
(なんなのだ、なんなのだこの気持ちは……?)
ライアナの見せた1粒の涙がシェルミーユの心に、2人の関係に思わぬ波紋を生むこととなる。
「許せ、シェルミーユ……」
ライアナはぐったりと横たえるシェルミーユにそう呟いた。
(俺は耐えたのだ。お前がクリスを嬉しそうに見つめることも、お前がクリスの手に触れたことも……。だが――)
昨日、ライアナはつい売り言葉に買い言葉でシェルミーユを追い詰めてしまった。
(あの顔はいけない、いくらクリスの目が不自由だろうと泣き顔は――)
ライアナはクリスチーネの去り際にシェルミーユが見せた必死な姿を思い出す。
(いや、俺が悪かったのだ。大人気なかった。期待させて……かわいそうなことをした。……許せ、シェルミーユ)
せっかく少しだけ歩み寄れたかと思った矢先、つまらぬことでまたシェルミーユに心を閉ざされかねない。
ライアナはシェルミーユの頬を撫で、シェルミーユの手の甲に己の額をあてて祈るように頭を下げた。先日自分に向けられたシェルミーユの笑顔を何度も思い出し、またあの笑顔を自分に向けてほしいと願うと、女々しくも情けなく視界が滲む。
(今日はきっと耐えて見せる……。だから…………俺を許してくれ)
シェルミーユは夢を見ていた。
目前には白い空間が広がっていて1人の少年が蹲って声を圧し殺して泣いているようだ。
声をかけても少年は微動だにしない。
シェルミーユが少年の頭を撫でると少年はようやく顔をあげ、シェルミーユを不安そうに見つめた。
涙に濡れ輝きを放つその瞳は燃えるような緋色の瞳だった。
シェルミーユは不謹慎にもなんて綺麗な瞳だろうと思った。その瞳を見つめていると胸が締め付けられるように痛むのだ。
しかしどこかで見覚えのある瞳だった。
どこで――――?
シェルミーユが夢から覚めた時、ライアナはシェルミーユの手の甲に額をあてて蹲っていた。シェルミーユは今しがた夢で見た少年とライアナが重なり、つい空いている方の手でライアナの頭を撫でた。頭に暖かさを感じて驚き、顔をあげたライアナと目が合う。そこには夢の少年と同じ緋色の瞳があった。シェルミーユは一瞬静止するも、ライアナの頬に1粒の涙が流れるのを見て思わず彼の頭を覆うように抱き締めた。シェルミーユは見てはいけないもの、誰にも見せてはいけないものを見た気がしたのだ。
「シェルミーユ……?」
「喋るなっ――」
シェルミーユ自身どうしてこんなことをしてしまったのかわからない。ただただ胸が締め付けられるように痛み、心臓の音が早鐘のように耳元で鳴り響いている。
(この男はこの国の王だぞ。クリムゾン王国最強の王、ライアナ王なのだ。泣くことなどあり得ない、泣き顔などさらしてはならないっ)
ここは王宮内、2人以外は誰もいない。わかってはいるが、シェルミーユはまるでライアナを、秘密を守るかのように抱くその腕を緩めることは出来なかった。
「……」
なぜシェルミーユが自発的にライアナを抱き締めているのかライアナにはわからなかったが、彼にとって理由の有無など大した問題ではなかった。
ライアナは、きつく抱き締めるシェルミーユの腕に酔いしれ、彼の腰に腕を回す。
(暖かい……)
ライアナは目頭が熱くなるのを感じながらシェルミーユの胸に顔を擦り寄せた。
シェルミーユはさらに腕の力を強める。心臓の音はだいぶ穏やかになったが胸を締め付けるような痛みはなかなか消えない。
(夢の少年がお前だったのかはわからない。だが、今お前を泣かしているのは間違いなく私なのだろうな――)
シェルミーユはライアナの頬を伝った1粒の涙が頭から離れないでいた。
(なんなのだ、なんなのだこの気持ちは……?)
ライアナの見せた1粒の涙がシェルミーユの心に、2人の関係に思わぬ波紋を生むこととなる。
31
お気に入りに追加
1,149
あなたにおすすめの小説
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる