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第4章
歩み寄り ~クリスチーネの思い~
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王宮を後にしたクリスチーネは幼き頃のライアナを思い出していた。
類い稀なる才能と美貌を持ち、周囲から期待されるライアナのお世話役を任されたことを誇りに思いつつも、彼女はどこか冷めたような彼の様子に少し寂しさを感じていた。
両親の教育方針の影響か、元々の性格か、ライアナには子供らしさが欠けていたのだ。
このまま感情の起伏なしに大人になってゆくだろうライアナを、クリスチーネは少しだけ不憫に思った。
しかし、選択の儀を1年後に控えた頃、彼に変化が生じた。
何事にも冷めた様子のライアナが、興奮した様子で緋色の瞳を輝かせながらもどこか放心したようにクリスチーネに言ったのだ。
「クリス、手に入れたいものができた……」
決して何かは教えてもらえなかったが、彼が初めて見せたものへの関心と執着、クリスチーネは応援せずにはいられなかった。
「ライアナ様なら必ず手に入れられますよ」
クリスチーネがそう応えると、ライアナは無邪気さの中に獲物を狙う獣の鋭さを持った瞳で笑って言った。
「必ず手に入れる、どんなことをしても――」
ライアナのお世話役を任された期間の中で、彼がクリスチーネの前で無邪気に笑ったのは後にも先にもその1回だけだった。
そして時は過ぎ、ライアナが選択の儀を受ける歳になると、クリスチーネはライアナのもとを去ることとなった。
選択の儀の前日、ライアナは屋敷を去るクリスチーネに労いと別れの挨拶をし、他の者に聞かれないように声を潜めて話し出した。
「クリス、以前お前に言った話を覚えているか?」
クリスチーネは他の者に悟られないように瞬きで返事をした。
「俺は明日の選択の儀で欲しいものを手に入れる。たとえ誰を敵に回しても……。どんな結果、どんな形となっても必ず手に入れる――」
その瞳は紅く燃えつつも、珍しく緊張しているようだった。
「御武運を御祈りしております」
クリスチーネは膝を折って御辞儀した。ライアナの欲しいものが有形であれ、無形であれ、必ず手に入れることができるだろうと彼女は確信していた。
そして彼は彼を手に入れた。
手に入れたいものがシェルミーユであることをクリスチーネが知ったのは選択の儀の時だった。
後の王候補、期待されるだけ同性の伴侶を持つことに反対される。ライアナの瞳は、手に入れたばかりの宝物を取り上げられまいと鋭い光を放ち、研ぎ澄まされていた。
彼の抱える宝物は鮮血を浴びてはいるが、不自由な目にもわかるくらい透き通るような白い肌と漆黒の髪を有する美しい少年だった。
クリスチーネは四面楚歌の状態でも自分の意思を曲げないライアナに羨望の眼差しを向け、切なさを噛み締めた。
(今大切なことは彼を失わないこと――)
間もなくして当時の国王、ジョルジュが現れ、その場をうまく治めた。
あの時、誰もがライアナの力と可能性に畏怖したのだから、すでにライアナの即位は決まっていたも同然だった。
あの日から10数年。
――たとえ誰を敵に回しても……。どんな結果、どんな形となっても――
クリスチーネはライアナの決意を思い出す。
(あなた様はお求めになられたお方を、最愛のお方を王妃にお迎えになられた……、されどお手にされるために、そのお方まで敵に回されてしまわれたのですね)
クリスチーネは固く瞳を閉じ、手のひらで顔を覆った。
(なんと不器用で不憫な……)
クリスチーネにとってライアナは偉大なクリムゾン国王であり、何よりも可愛い孫のような存在であった。
(――ライアナ様。私があなた様の幸せを守って見せます)
彼女は顔の前で拳を作るとその拳を胸にあて、固く決心した瞳で空を見る。
(今もあの時も変わらない。ライアナ様にとって大切なことは彼を失わないこと……)
彼を失ったらこの国は終わる。しかし、彼を失わない限りこの国は栄え、最強の国であり続けるだろう。
クリスチーネは微笑みを浮かべ帰路についた。
類い稀なる才能と美貌を持ち、周囲から期待されるライアナのお世話役を任されたことを誇りに思いつつも、彼女はどこか冷めたような彼の様子に少し寂しさを感じていた。
両親の教育方針の影響か、元々の性格か、ライアナには子供らしさが欠けていたのだ。
このまま感情の起伏なしに大人になってゆくだろうライアナを、クリスチーネは少しだけ不憫に思った。
しかし、選択の儀を1年後に控えた頃、彼に変化が生じた。
何事にも冷めた様子のライアナが、興奮した様子で緋色の瞳を輝かせながらもどこか放心したようにクリスチーネに言ったのだ。
「クリス、手に入れたいものができた……」
決して何かは教えてもらえなかったが、彼が初めて見せたものへの関心と執着、クリスチーネは応援せずにはいられなかった。
「ライアナ様なら必ず手に入れられますよ」
クリスチーネがそう応えると、ライアナは無邪気さの中に獲物を狙う獣の鋭さを持った瞳で笑って言った。
「必ず手に入れる、どんなことをしても――」
ライアナのお世話役を任された期間の中で、彼がクリスチーネの前で無邪気に笑ったのは後にも先にもその1回だけだった。
そして時は過ぎ、ライアナが選択の儀を受ける歳になると、クリスチーネはライアナのもとを去ることとなった。
選択の儀の前日、ライアナは屋敷を去るクリスチーネに労いと別れの挨拶をし、他の者に聞かれないように声を潜めて話し出した。
「クリス、以前お前に言った話を覚えているか?」
クリスチーネは他の者に悟られないように瞬きで返事をした。
「俺は明日の選択の儀で欲しいものを手に入れる。たとえ誰を敵に回しても……。どんな結果、どんな形となっても必ず手に入れる――」
その瞳は紅く燃えつつも、珍しく緊張しているようだった。
「御武運を御祈りしております」
クリスチーネは膝を折って御辞儀した。ライアナの欲しいものが有形であれ、無形であれ、必ず手に入れることができるだろうと彼女は確信していた。
そして彼は彼を手に入れた。
手に入れたいものがシェルミーユであることをクリスチーネが知ったのは選択の儀の時だった。
後の王候補、期待されるだけ同性の伴侶を持つことに反対される。ライアナの瞳は、手に入れたばかりの宝物を取り上げられまいと鋭い光を放ち、研ぎ澄まされていた。
彼の抱える宝物は鮮血を浴びてはいるが、不自由な目にもわかるくらい透き通るような白い肌と漆黒の髪を有する美しい少年だった。
クリスチーネは四面楚歌の状態でも自分の意思を曲げないライアナに羨望の眼差しを向け、切なさを噛み締めた。
(今大切なことは彼を失わないこと――)
間もなくして当時の国王、ジョルジュが現れ、その場をうまく治めた。
あの時、誰もがライアナの力と可能性に畏怖したのだから、すでにライアナの即位は決まっていたも同然だった。
あの日から10数年。
――たとえ誰を敵に回しても……。どんな結果、どんな形となっても――
クリスチーネはライアナの決意を思い出す。
(あなた様はお求めになられたお方を、最愛のお方を王妃にお迎えになられた……、されどお手にされるために、そのお方まで敵に回されてしまわれたのですね)
クリスチーネは固く瞳を閉じ、手のひらで顔を覆った。
(なんと不器用で不憫な……)
クリスチーネにとってライアナは偉大なクリムゾン国王であり、何よりも可愛い孫のような存在であった。
(――ライアナ様。私があなた様の幸せを守って見せます)
彼女は顔の前で拳を作るとその拳を胸にあて、固く決心した瞳で空を見る。
(今もあの時も変わらない。ライアナ様にとって大切なことは彼を失わないこと……)
彼を失ったらこの国は終わる。しかし、彼を失わない限りこの国は栄え、最強の国であり続けるだろう。
クリスチーネは微笑みを浮かべ帰路についた。
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