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第4章
歩み寄り1
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クリムゾン王国の朝は少しだけ冷える、程よく冷えた寝具には人肌がちょうどいい温もりだ。シェルミーユはその温もりに擦り寄る。
(温かい…………?)
ここ数日間ベッドにはシェルミーユのみ、あるはずの無い温もりを感じて飛び起きようとすると腕を捕まれた。逞しく熱い……ライアナの腕だった。シェルミーユは一息つく。
「帰っていたのか……」
「すぐに帰ると言っただろう?」
引き寄せられて抱き締められる。いつも通り、ライアナは戦士達を残して先に帰還してきたのだ。
「無意識のお前は素直で最高に愛い、この時がほんの一時であるのが悔やまれるくらいに……」
血腥い戦に行って来たというのにライアナからは血の臭いがしない、ベッドに上がる前に湯につかって洗い流してきたのだろう。
「無意識だからお前を感じていないのだろうよ」
「……意識がなくともお前は今までどんなに冷える朝でも俺に擦り寄るようなことはなかった。……最近はこうやっていられることが嬉しい」
無意識だからこそ、心の奥底にある変化が出てしまうとでもいうのだろうか……
「私がお前に寄り添いたいと――」
シェルミーユは言葉にして後悔した。羞恥の念が湧き起こる。
「バっ、バカな事を言わせるな!」
「顔が真っ赤だ」
「それはお前が――」
「少しでもお前が心を許してくれたのなら俺は嬉しいよ」
ライアナはそう言って微笑んだ。確かにここ最近、シェルミーユは情にほだされた感が否めない。ライアナの前で負の感情以外の感情を表すことも増えてきた。
「そんなこと……」
感情が高ぶり、視界が滲む。
「シェルミーユ……、俺が悪かった」
ライアナがシェルミーユの頭を撫でようとするとシェルミーユはその手を払い除け、ライアナの抱擁から逃れる。
「うるさいっ、触るな!」
「シェルミーユっ……」
「お前が……お前がっ」
「俺が悪かった、泣くな」
ライアナはシェルミーユを再び腕の中に納め、優しく抱き締めるとそう懺悔した。
シェルミーユはおずおずとおぼつかない手つきでライアナの背中に手を回した。
現実だ、これは紛れもなく現実なのだ。シェルミーユは己の変化を認めざるを得ない、しかし認めたくはない自分がそこにはいた。矛盾が存在する。
「愛しいシェルミーユ、愛しているよ」
繰り返される囁きは遅効性の毒のように、速効性はないが隅々まで染み渡って確実に爪痕を残していく。
「愛しているなら殺してくれ」
かろうじて残る男としての自尊心がシェルミーユにブレーキをかける。
「シェルミーユっ」
「殺してくれ」
( 私が私であるうちに――)
「…………許してくれ……」
シェルミーユはライアナの懺悔を何度聞いただろうか。報われない思いに耐えるライアナの心は強靭だ。それに比べて浮き沈みの激しい己の情緒不安定さをシェルミーユは憂いた。
(比べるものが少なすぎる……)
ふとシェルミーユは、ユリアと名乗った少年のことを思い出した。
あの少年は無事帰れただろうか……。彼の世界は無限に広がっているのに自分の世界のなんと狭いことか……その世界に自ら潜り込もうとするのだからシェルミーユには理解しがたい。
「お前は私にとって何なのだろうな……?」
「伴侶だ」
「私は友が欲しい」
「友でも――」
「友はこんなふうに抱き合ったりなどしない」
「でも――」
「友が……、話し相手が欲しい」
ライアナは少し沈黙して考えた後、1つの決断を下した。
「俺には育ての婆やがいる…………のだが……」
瞬時、シェルミーユはライアナを見た。瞳は期待に満ちている。この際、同世代の友の許可など期待はしない。
「それはつまり――?」
シェルミーユは言葉の先を促す、ライアナの表情はいたって真剣だ。
「唯一、お前を任せられる可能性のある人物だ。お前がどうしてもと言うのであれば…………考えなくもない」
(温かい…………?)
ここ数日間ベッドにはシェルミーユのみ、あるはずの無い温もりを感じて飛び起きようとすると腕を捕まれた。逞しく熱い……ライアナの腕だった。シェルミーユは一息つく。
「帰っていたのか……」
「すぐに帰ると言っただろう?」
引き寄せられて抱き締められる。いつも通り、ライアナは戦士達を残して先に帰還してきたのだ。
「無意識のお前は素直で最高に愛い、この時がほんの一時であるのが悔やまれるくらいに……」
血腥い戦に行って来たというのにライアナからは血の臭いがしない、ベッドに上がる前に湯につかって洗い流してきたのだろう。
「無意識だからお前を感じていないのだろうよ」
「……意識がなくともお前は今までどんなに冷える朝でも俺に擦り寄るようなことはなかった。……最近はこうやっていられることが嬉しい」
無意識だからこそ、心の奥底にある変化が出てしまうとでもいうのだろうか……
「私がお前に寄り添いたいと――」
シェルミーユは言葉にして後悔した。羞恥の念が湧き起こる。
「バっ、バカな事を言わせるな!」
「顔が真っ赤だ」
「それはお前が――」
「少しでもお前が心を許してくれたのなら俺は嬉しいよ」
ライアナはそう言って微笑んだ。確かにここ最近、シェルミーユは情にほだされた感が否めない。ライアナの前で負の感情以外の感情を表すことも増えてきた。
「そんなこと……」
感情が高ぶり、視界が滲む。
「シェルミーユ……、俺が悪かった」
ライアナがシェルミーユの頭を撫でようとするとシェルミーユはその手を払い除け、ライアナの抱擁から逃れる。
「うるさいっ、触るな!」
「シェルミーユっ……」
「お前が……お前がっ」
「俺が悪かった、泣くな」
ライアナはシェルミーユを再び腕の中に納め、優しく抱き締めるとそう懺悔した。
シェルミーユはおずおずとおぼつかない手つきでライアナの背中に手を回した。
現実だ、これは紛れもなく現実なのだ。シェルミーユは己の変化を認めざるを得ない、しかし認めたくはない自分がそこにはいた。矛盾が存在する。
「愛しいシェルミーユ、愛しているよ」
繰り返される囁きは遅効性の毒のように、速効性はないが隅々まで染み渡って確実に爪痕を残していく。
「愛しているなら殺してくれ」
かろうじて残る男としての自尊心がシェルミーユにブレーキをかける。
「シェルミーユっ」
「殺してくれ」
( 私が私であるうちに――)
「…………許してくれ……」
シェルミーユはライアナの懺悔を何度聞いただろうか。報われない思いに耐えるライアナの心は強靭だ。それに比べて浮き沈みの激しい己の情緒不安定さをシェルミーユは憂いた。
(比べるものが少なすぎる……)
ふとシェルミーユは、ユリアと名乗った少年のことを思い出した。
あの少年は無事帰れただろうか……。彼の世界は無限に広がっているのに自分の世界のなんと狭いことか……その世界に自ら潜り込もうとするのだからシェルミーユには理解しがたい。
「お前は私にとって何なのだろうな……?」
「伴侶だ」
「私は友が欲しい」
「友でも――」
「友はこんなふうに抱き合ったりなどしない」
「でも――」
「友が……、話し相手が欲しい」
ライアナは少し沈黙して考えた後、1つの決断を下した。
「俺には育ての婆やがいる…………のだが……」
瞬時、シェルミーユはライアナを見た。瞳は期待に満ちている。この際、同世代の友の許可など期待はしない。
「それはつまり――?」
シェルミーユは言葉の先を促す、ライアナの表情はいたって真剣だ。
「唯一、お前を任せられる可能性のある人物だ。お前がどうしてもと言うのであれば…………考えなくもない」
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