48 / 52
第6章
選択の儀~第1世代~15
しおりを挟む
「陛下、火葬に時間を要します故、奴隷選抜は後日にと愚考いたします」
「……うむ、許す」
ライアナの許可を貰ったジョルジュは処理班に指示を出した。
奴隷選抜にかけられる幼児達は綱で結ばれたゴンドラにぎゅうぎゅうに乗せられて崖の上へ移動することとなるため、上昇中のゴンドラにしがみつく幼児達は誰もが必死である。
それ故に他人を思いやる余裕などなく、まれにゴンドラから押し出されて転落死してしまう者もいるのだが……、ここでの生存競争にすら負けるようでは、この国では奴隷として生き残ることさえ難しい。
同程度の実力の仲間内であっても、強運の持ち主ならば成り上がることも不可能では無いが、生き残る運すらないとなれば、奴隷となっても長くは生きられないのだ。
「陛下、ゴンドラの移動が無事終了いたしました」
「……うむ」
今回の奴隷選抜にかけられる幼児達の移動が無事終わったため、追加の火葬が必要無くなり、後は現在進行中の火葬が済めば穴に土を掛け埋葬するのみとなった。
だがしかし、火葬の後埋葬のみとはいっても、遂行するには時間が掛かる。更に今回は死者数が多いため、どのぐらいの時間を要するのか明確にはわからなかった。
ライアナは不機嫌さを隠そうともせず、その眉間に深い皺を刻み続けている。
ジョルジュは苛立つライアナに歩み寄り、彼にだけ聞こえるように耳元で進言した。
「ライアナ様、王妃様は本日が初めての御公務、さぞお疲れの事と存じます。労って差し上げては如何でしょうか?」
「……労い……」
ライアナはジョルジュの言葉に自嘲の笑みを浮かべ小さく呟いた。
「今帰ったら間違いなく押し倒すだろうな……」
労いどころか余計疲れさせてしまいそうだとライアナは思った。
「それでも良いではないですか」
ジョルジュはそう言うと、訝しげな視線を向けるライアナに、己の視線を合わせて続けて言った。
「ライアナ様、本日は貴方様にとっても初の試み。その御心労は如何程か、胸中お察しいたします。ならば……王妃様にお慰め頂いて何が悪いのでしょうか?」
ライアナは目を見開いてジョルジュを凝視した。その瞳の奥には、そんなことが許されるのかと疑いながらも免罪符を求める僅かな期待と不安が燻っている。
途中で退席させただけあってライアナはシェルミーユに負い目のようなものを感じていたのだ。
(此度の公務によって、シェルミーユの心は少しでも満たされただろうか……そうであるのならばよいのだが――…………しかしそんな……、そこに付け込むのは――)
思いとどまろうとするライアナにジョルジュは優しく囁く。
「いつも通り……いえ、いつも以上でもよろしいのではないでしょうか。そうでなければ王妃様は御自身に不手際があったのかと不安になってしまうやもしれませんぞ」
ジョルジュの囁きにライアナは思わず喉を鳴らした。
今回の決断に対するライアナの後味が、王妃の今後の公務への参加の是非に関わることは明確だった。ライアナが否とすれば、王妃が何と言おうと否となってしまうことは免れない。
ジョルジュの進言は、今回の公務が、王妃が参加した最初で最後のものになってしまうことを、王妃は是が非でも避けたいであろうと推察した故のものだった。
(シェルミーユ様は賢い御方、この好機をみすみす無下にはなさいますまい――)
ジョルジュはライアナに微笑んでみせた。
ライアナはジョルジュから目を逸らさないまま思案し…………そして小さく頷いた。
ジョルジュは静かに瞼を閉じると、ライアナから一歩下がり、表情を臣下のそれに切り替え、深く腰を折って周りにも聞こえる声量で許可を求める。
「陛下、後は是非とも私めにお任せを――」
「……許す。報告は明朝でよい」
「御意」
崖を飛ぶように駆け上ってゆくライアナの姿を、ジョルジュは目を細めて見上げ、そして只々王妃に願った。
どうか今宵は我が王を拒まれませぬよう、その御心意気にお応え頂けますよう、心からお願いいたしますと――
「……うむ、許す」
ライアナの許可を貰ったジョルジュは処理班に指示を出した。
奴隷選抜にかけられる幼児達は綱で結ばれたゴンドラにぎゅうぎゅうに乗せられて崖の上へ移動することとなるため、上昇中のゴンドラにしがみつく幼児達は誰もが必死である。
それ故に他人を思いやる余裕などなく、まれにゴンドラから押し出されて転落死してしまう者もいるのだが……、ここでの生存競争にすら負けるようでは、この国では奴隷として生き残ることさえ難しい。
同程度の実力の仲間内であっても、強運の持ち主ならば成り上がることも不可能では無いが、生き残る運すらないとなれば、奴隷となっても長くは生きられないのだ。
「陛下、ゴンドラの移動が無事終了いたしました」
「……うむ」
今回の奴隷選抜にかけられる幼児達の移動が無事終わったため、追加の火葬が必要無くなり、後は現在進行中の火葬が済めば穴に土を掛け埋葬するのみとなった。
だがしかし、火葬の後埋葬のみとはいっても、遂行するには時間が掛かる。更に今回は死者数が多いため、どのぐらいの時間を要するのか明確にはわからなかった。
ライアナは不機嫌さを隠そうともせず、その眉間に深い皺を刻み続けている。
ジョルジュは苛立つライアナに歩み寄り、彼にだけ聞こえるように耳元で進言した。
「ライアナ様、王妃様は本日が初めての御公務、さぞお疲れの事と存じます。労って差し上げては如何でしょうか?」
「……労い……」
ライアナはジョルジュの言葉に自嘲の笑みを浮かべ小さく呟いた。
「今帰ったら間違いなく押し倒すだろうな……」
労いどころか余計疲れさせてしまいそうだとライアナは思った。
「それでも良いではないですか」
ジョルジュはそう言うと、訝しげな視線を向けるライアナに、己の視線を合わせて続けて言った。
「ライアナ様、本日は貴方様にとっても初の試み。その御心労は如何程か、胸中お察しいたします。ならば……王妃様にお慰め頂いて何が悪いのでしょうか?」
ライアナは目を見開いてジョルジュを凝視した。その瞳の奥には、そんなことが許されるのかと疑いながらも免罪符を求める僅かな期待と不安が燻っている。
途中で退席させただけあってライアナはシェルミーユに負い目のようなものを感じていたのだ。
(此度の公務によって、シェルミーユの心は少しでも満たされただろうか……そうであるのならばよいのだが――…………しかしそんな……、そこに付け込むのは――)
思いとどまろうとするライアナにジョルジュは優しく囁く。
「いつも通り……いえ、いつも以上でもよろしいのではないでしょうか。そうでなければ王妃様は御自身に不手際があったのかと不安になってしまうやもしれませんぞ」
ジョルジュの囁きにライアナは思わず喉を鳴らした。
今回の決断に対するライアナの後味が、王妃の今後の公務への参加の是非に関わることは明確だった。ライアナが否とすれば、王妃が何と言おうと否となってしまうことは免れない。
ジョルジュの進言は、今回の公務が、王妃が参加した最初で最後のものになってしまうことを、王妃は是が非でも避けたいであろうと推察した故のものだった。
(シェルミーユ様は賢い御方、この好機をみすみす無下にはなさいますまい――)
ジョルジュはライアナに微笑んでみせた。
ライアナはジョルジュから目を逸らさないまま思案し…………そして小さく頷いた。
ジョルジュは静かに瞼を閉じると、ライアナから一歩下がり、表情を臣下のそれに切り替え、深く腰を折って周りにも聞こえる声量で許可を求める。
「陛下、後は是非とも私めにお任せを――」
「……許す。報告は明朝でよい」
「御意」
崖を飛ぶように駆け上ってゆくライアナの姿を、ジョルジュは目を細めて見上げ、そして只々王妃に願った。
どうか今宵は我が王を拒まれませぬよう、その御心意気にお応え頂けますよう、心からお願いいたしますと――
10
お気に入りに追加
1,146
あなたにおすすめの小説
[完結]嫁に出される俺、政略結婚ですがなんかイイ感じに収まりそうです。
BBやっこ
BL
実家は商家。
3男坊の実家の手伝いもほどほど、のんべんだらりと暮らしていた。
趣味の料理、読書と交友関係も少ない。独り身を満喫していた。
そのうち、結婚するかもしれないが大した理由もないんだろうなあ。
そんなおれに両親が持ってきた結婚話。というか、政略結婚だろ?!
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
悪役令嬢は見る専です
小森 輝
BL
異世界に転生した私、「藤潮弥生」は婚約破棄された悪役令嬢でしたが、見事ざまあを果たし、そして、勇者パーティーから追放されてしまいましたが、自力で魔王を討伐しました。
その結果、私はウェラベルグ国を治める女王となり、名前を「藤潮弥生」から「ヤヨイ・ウェラベルグ」へと改名しました。
そんな私は、今、4人のイケメンと生活を共にしています。
庭師のルーデン
料理人のザック
門番のベート
そして、執事のセバス。
悪役令嬢として苦労をし、さらに、魔王を討伐して女王にまでなったんだから、これからは私の好きなようにしてもいいよね?
ただ、私がやりたいことは逆ハーレムを作り上げることではありません。
私の欲望。それは…………イケメン同士が組んず解れつし合っている薔薇の園を作り上げること!
お気に入り登録も多いし、毎日ポイントをいただいていて、ご好評なようで嬉しいです。本来なら、新しい話といきたいのですが、他のBL小説を執筆するため、新しい話を書くことはしません。その代わりに絵を描く練習ということで、第8回BL小説大賞の期間中1に表紙絵、そして挿絵の追加をしたいと思います。大賞の投票数によっては絵に力を入れたりしますので、応援のほど、よろしくお願いします。
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる