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第2章
若き王と寵愛の雲雀4
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「ライアナ王は本当に強く逞しい、惚れ惚れしますわ」
「あの強さ、きっと子種にも遺伝することでしょう、早く子種が欲しいわ」
後宮では側室となった女達がライアナ王について和やかに語り合っていた。
誰が先に跡継ぎを生むのか、笑顔の下では冷やかな戦が繰り広げられている。
そして、1人の側室が発した言葉が波紋を起こした。
「私先日、王宮に招待されましたの」
もちろん王宮になど招かれるはずがない。見栄からきた戯言だ。しかし、わかってはいても気になってしまうのが性だ。
「私も招かれましたわ」
「私も……」
波紋は黒い渦となって広がっていった。
王宮ではシェルミーユが庭を散策していた。
「……」
ライアナに見初められてから人と話す機会などほとんどなかった彼はコミュニケーションに飢えていた。ライアナとはあまり話をしたくないし、王宮の兵士は護衛の時も食事の配膳の時もライアナに忠誠を誓って無言だ。
「シェルミーユ……」
扉が開いてライアナが入ってくる。
「今帰ったよ、シェルミーユ」
駆け寄り抱きしめる、頬擦りをして口付けをする。ライアナはシェルミーユの耳たぶを噛むのが好きだった。
「痛い……、やめろ」
「……すまん……。あ、……お前のためにまた国を落としてきたのだよ、喜べ!」
誉めて欲しいのか、ライアナは目を輝かせている。
「私を解放してくれるならもっと喜んでやるぞ?」
「それは――、……出来ん」
ライアナはしょげてしまった。
ライアナはシェルミーユとの約束を守って女を定期的に抱いていた。そろそろ世継ぎ候補とまではいかなくとも、その遺伝子を継ぐ子供が誕生してもおかしくはない。
「王子の誕生はまだか……」
そう漏らしたシェルミーユの声をライアナは聞き逃さなかった。
「王子が欲しいのか。……手に入れてどうする?」
「別に……。ただ私は子供が産めないから」
「前にも言っていたな。気にすることはないのだが……そうか、王子がいればお前の肩身が狭くなくなる。しかし側におくのは……」
ライアナはたとえ子供であろうとシェルミーユの側に誰かが侍るのが許せないのだ。子供であることをいいことにやたらとベタベタされたくない、また、されている本人も寛容に許してしまう傾向がありそうだ。
「植物なら…………?」
「お前は本当に――」
シェルミーユが呆れていたその時、扉のむこうで声が聞こえてきた。
「ここが王宮……」
「何て豪華な扉でしょう」
新しく国を落としに行った国王が既に帰還していることを知らず、側室となった女達が王宮を覗きに来たのだ。戦が終わるとライアナは休憩する戦士達を残して1人先に帰って来てしまったため、彼が既に国に戻っていることを知る者は王宮を巡回する護衛の兵士とシェルミーユだけだった。女達は己が側室に選ばれたことで傲り、慢心した結果、軽はずみな行動をとったのだ。
ライアナ以外の人間、しかも異性の声を久方ぶりに聞いたシェルミーユは思わず視線を声のする扉の方へ向けてしまった。そしてすぐに自分の迂闊さにはっとする。ライアナはシェルミーユが自分以外の何かに関心がいってしまうのが許せないほどシェルミーユに関しては狭量で独占欲が強い。
「シェルミーユ、……何を見ているの?」
一瞬で全身が凍りつきそうな声が静かに響く。決して大きな声ではなかったが耳元で囁かれては聞き間違いようがない。その声には殺気が籠っている。
「何も……何も見ていない」
ライアナの視線がシェルミーユからゆっくりと王宮の扉の方へ移動していく。
(このままではあの女達は殺される……)
シェルミーユはとっさに、扉へ向かうライアナの袖を掴んだ。
「と、……扉が気になった。……ただそれだけだ」
女達の声は徐々に聞こえなくなっていった。
ライアナは大きな溜め息をつくと、扉から視線をそらすことなく言った。
「……あの扉はもう古い、……色が気に入らない」
シェルミーユはしばらくライアナの袖を握り続けた。
王宮の扉は決して古くはなかったが、その日新しいものに取り替えられた。その間、シェルミーユは寝室に閉じ込められることとなった。その後、王宮の前には境界線として柵が設けられ、柵の外には親衛隊が24時間体制で配置された。
誰も王宮には近づけない。
「私が誰だかわかっているの? そこを退きなさい!」
側室の1人が金切り声で叫んだ。
「ここをお通しするわけにはいきません」
「あんたなんて私の一声でどうとでもできるのよ」
「申し訳ありませんが境界線内へは王様の許しがない限り何人たりともお通し出来かねるのです。もし境界線を越えてしまわれますと、たとえ御側室様であろうと処罰せねばなりません」
「処罰つ!?……上等ですわ、 やってみるがいい!」
側室となった女の腕が境界線に近づいた瞬間、親衛隊の剣が振り落とされ、女の長い爪がスパッと斬れる。まるで指を落とされたような衝撃を受けて女はさらに喚き散らした。その声は王宮内にいるシェルミーユにまで聞こえていた。
「あの強さ、きっと子種にも遺伝することでしょう、早く子種が欲しいわ」
後宮では側室となった女達がライアナ王について和やかに語り合っていた。
誰が先に跡継ぎを生むのか、笑顔の下では冷やかな戦が繰り広げられている。
そして、1人の側室が発した言葉が波紋を起こした。
「私先日、王宮に招待されましたの」
もちろん王宮になど招かれるはずがない。見栄からきた戯言だ。しかし、わかってはいても気になってしまうのが性だ。
「私も招かれましたわ」
「私も……」
波紋は黒い渦となって広がっていった。
王宮ではシェルミーユが庭を散策していた。
「……」
ライアナに見初められてから人と話す機会などほとんどなかった彼はコミュニケーションに飢えていた。ライアナとはあまり話をしたくないし、王宮の兵士は護衛の時も食事の配膳の時もライアナに忠誠を誓って無言だ。
「シェルミーユ……」
扉が開いてライアナが入ってくる。
「今帰ったよ、シェルミーユ」
駆け寄り抱きしめる、頬擦りをして口付けをする。ライアナはシェルミーユの耳たぶを噛むのが好きだった。
「痛い……、やめろ」
「……すまん……。あ、……お前のためにまた国を落としてきたのだよ、喜べ!」
誉めて欲しいのか、ライアナは目を輝かせている。
「私を解放してくれるならもっと喜んでやるぞ?」
「それは――、……出来ん」
ライアナはしょげてしまった。
ライアナはシェルミーユとの約束を守って女を定期的に抱いていた。そろそろ世継ぎ候補とまではいかなくとも、その遺伝子を継ぐ子供が誕生してもおかしくはない。
「王子の誕生はまだか……」
そう漏らしたシェルミーユの声をライアナは聞き逃さなかった。
「王子が欲しいのか。……手に入れてどうする?」
「別に……。ただ私は子供が産めないから」
「前にも言っていたな。気にすることはないのだが……そうか、王子がいればお前の肩身が狭くなくなる。しかし側におくのは……」
ライアナはたとえ子供であろうとシェルミーユの側に誰かが侍るのが許せないのだ。子供であることをいいことにやたらとベタベタされたくない、また、されている本人も寛容に許してしまう傾向がありそうだ。
「植物なら…………?」
「お前は本当に――」
シェルミーユが呆れていたその時、扉のむこうで声が聞こえてきた。
「ここが王宮……」
「何て豪華な扉でしょう」
新しく国を落としに行った国王が既に帰還していることを知らず、側室となった女達が王宮を覗きに来たのだ。戦が終わるとライアナは休憩する戦士達を残して1人先に帰って来てしまったため、彼が既に国に戻っていることを知る者は王宮を巡回する護衛の兵士とシェルミーユだけだった。女達は己が側室に選ばれたことで傲り、慢心した結果、軽はずみな行動をとったのだ。
ライアナ以外の人間、しかも異性の声を久方ぶりに聞いたシェルミーユは思わず視線を声のする扉の方へ向けてしまった。そしてすぐに自分の迂闊さにはっとする。ライアナはシェルミーユが自分以外の何かに関心がいってしまうのが許せないほどシェルミーユに関しては狭量で独占欲が強い。
「シェルミーユ、……何を見ているの?」
一瞬で全身が凍りつきそうな声が静かに響く。決して大きな声ではなかったが耳元で囁かれては聞き間違いようがない。その声には殺気が籠っている。
「何も……何も見ていない」
ライアナの視線がシェルミーユからゆっくりと王宮の扉の方へ移動していく。
(このままではあの女達は殺される……)
シェルミーユはとっさに、扉へ向かうライアナの袖を掴んだ。
「と、……扉が気になった。……ただそれだけだ」
女達の声は徐々に聞こえなくなっていった。
ライアナは大きな溜め息をつくと、扉から視線をそらすことなく言った。
「……あの扉はもう古い、……色が気に入らない」
シェルミーユはしばらくライアナの袖を握り続けた。
王宮の扉は決して古くはなかったが、その日新しいものに取り替えられた。その間、シェルミーユは寝室に閉じ込められることとなった。その後、王宮の前には境界線として柵が設けられ、柵の外には親衛隊が24時間体制で配置された。
誰も王宮には近づけない。
「私が誰だかわかっているの? そこを退きなさい!」
側室の1人が金切り声で叫んだ。
「ここをお通しするわけにはいきません」
「あんたなんて私の一声でどうとでもできるのよ」
「申し訳ありませんが境界線内へは王様の許しがない限り何人たりともお通し出来かねるのです。もし境界線を越えてしまわれますと、たとえ御側室様であろうと処罰せねばなりません」
「処罰つ!?……上等ですわ、 やってみるがいい!」
側室となった女の腕が境界線に近づいた瞬間、親衛隊の剣が振り落とされ、女の長い爪がスパッと斬れる。まるで指を落とされたような衝撃を受けて女はさらに喚き散らした。その声は王宮内にいるシェルミーユにまで聞こえていた。
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