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第6章
選択の儀~第1世代~10【1位通過者の選択1】
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1位通過したのは小柄な糸目の少年だった。
誰もが予想しなかった結末に、しばし沈黙の時が流れる。
「どういうことだ……第1世代は?」
クリムゾンの戦士達が首を傾げる中、崖下に充満する稚拙な殺気と死の臭いを感じていたライアナは崖下にのみ届くように殺気を放った。
崖下では苛烈極まりない兄弟喧嘩が繰り広げられていた。
衝突しあうユリアとサラ、互いの拳を顔面に受けたその時、2人は全身を凍えさせるような殺気を感じ、我を取り戻した。
「お……お父様……」
恐怖に怯え、呟くサルメに2人の視線が集まる。
怒りに飲み込まれ、冷静さを失い出遅れてしまった事にユリア達は愕然とした。このままでは3人仲良く奴隷行きだ。その可能性に漸く気付いたユリア達は私怨を一旦押さえて試練を突破することを優先することにした。
「サラ、後で覚悟しろよ」
ユリアはサラをねめつけて言った。
「こっちの台詞だわ!………………あんたはどうするの?」
サラがサルメに背を向けたまま問い掛ける。
「……登るわ。私1人だけ脱落なんて嫌だもの」
サルメはサラにそう返答したが2人が目をあわせることはなかった。
そして3人は各々無言で崖を登りだす。
3人が去った崖下は先程の喧騒が嘘のように静寂に包まれたが、大地は荒れ果て、騒動に巻き込まれた無数の物言わぬ死体がその地を赤黒く染めていた。
稚拙な殺気が弱まり動き出すと、物見台の上のライアナは目頭を押さえた。
(あぁ~……、面倒臭いことになった)
ライアナは不機嫌に項垂れた。
先人たるものからすれば、この儀式で重要な事は次期王候補と認識されるべく第一突破した者のみ……、例年通りならば後は儀式の進行担当に任せても大した問題はない。
しかし、イレギュラーなことが起きてしまってはそうもいかない。
崖から落ちて死んだ者――、各自何かを得るために行動した故の結果は、たとえ巻き込まれての無駄死にだとしても、強者が正義のこの国で弱者が如何様な目に遭おうとも然程問題視はされず、自己責任で終わる。ただ、この国で他人のいさかいに巻き込まれて死んだ者は、その原形を留めていないことが多く、それ故に儀式参加者の選択結果、特に新天地へと向かった数と死者数が不明瞭になり、その誤差範囲が大きくなってしまう虞があった。更に、儀式参加者の亡骸は火葬するため、死者数が多ければ多いほどその分後処理に時間が掛かってしまう。近年では、本土以外からの参加者の増加により負傷者は増えど、死者数は然程ではなかったため高を括っていたのだが、……ライアナは酷く落胆した。
儀式をさっさと終わらせてしまいたかったライアナが重たい溜め息を吐いたその時、儀式進行者が1位通過の少年に問い掛けた。
「1位通過した者よ、名は何と申す?」
「グラヴィ領より馳せ参じました、オルバと申します」
1位通過した者は、本土の人間ではなかった。
会場が騒めく中、オルバと名乗る少年はさらに続ける。
「畏れ多くも、陛下にお願いがございます!」
「!?」
会場の空気が一瞬にして張り詰める。
儀式進行者はライアナの居る物見台とオルバを何度も忙しなく交互に見ている。
ライアナは儀式進行者に見える様手をあげ、先を促した。
儀式進行者は王の意思を受け、少年に続きを促す。
「……申してみよ」
「願わくば、陛下に直接お目通り願いたく――」
民衆がどよめく。無理もない、誰もが敬うライアナ王、近付くなど畏れ多い。
たとえ近付きたくともその存在は恐怖の対象、ライアナ自身はあまり自覚していないが、国民からしたら彼は最強の象徴であると同時に死の象徴でもあるのだ。
まだ幼い故の怖いもの知らずとでもいうのか……オルバに注視する誰もが死に急ぐなとその瞳で語っている。
ややあってライアナは少年に向けて手をかざした。
それはその願いを叶えるという、許すというサインだった。
誰もが予想しなかった結末に、しばし沈黙の時が流れる。
「どういうことだ……第1世代は?」
クリムゾンの戦士達が首を傾げる中、崖下に充満する稚拙な殺気と死の臭いを感じていたライアナは崖下にのみ届くように殺気を放った。
崖下では苛烈極まりない兄弟喧嘩が繰り広げられていた。
衝突しあうユリアとサラ、互いの拳を顔面に受けたその時、2人は全身を凍えさせるような殺気を感じ、我を取り戻した。
「お……お父様……」
恐怖に怯え、呟くサルメに2人の視線が集まる。
怒りに飲み込まれ、冷静さを失い出遅れてしまった事にユリア達は愕然とした。このままでは3人仲良く奴隷行きだ。その可能性に漸く気付いたユリア達は私怨を一旦押さえて試練を突破することを優先することにした。
「サラ、後で覚悟しろよ」
ユリアはサラをねめつけて言った。
「こっちの台詞だわ!………………あんたはどうするの?」
サラがサルメに背を向けたまま問い掛ける。
「……登るわ。私1人だけ脱落なんて嫌だもの」
サルメはサラにそう返答したが2人が目をあわせることはなかった。
そして3人は各々無言で崖を登りだす。
3人が去った崖下は先程の喧騒が嘘のように静寂に包まれたが、大地は荒れ果て、騒動に巻き込まれた無数の物言わぬ死体がその地を赤黒く染めていた。
稚拙な殺気が弱まり動き出すと、物見台の上のライアナは目頭を押さえた。
(あぁ~……、面倒臭いことになった)
ライアナは不機嫌に項垂れた。
先人たるものからすれば、この儀式で重要な事は次期王候補と認識されるべく第一突破した者のみ……、例年通りならば後は儀式の進行担当に任せても大した問題はない。
しかし、イレギュラーなことが起きてしまってはそうもいかない。
崖から落ちて死んだ者――、各自何かを得るために行動した故の結果は、たとえ巻き込まれての無駄死にだとしても、強者が正義のこの国で弱者が如何様な目に遭おうとも然程問題視はされず、自己責任で終わる。ただ、この国で他人のいさかいに巻き込まれて死んだ者は、その原形を留めていないことが多く、それ故に儀式参加者の選択結果、特に新天地へと向かった数と死者数が不明瞭になり、その誤差範囲が大きくなってしまう虞があった。更に、儀式参加者の亡骸は火葬するため、死者数が多ければ多いほどその分後処理に時間が掛かってしまう。近年では、本土以外からの参加者の増加により負傷者は増えど、死者数は然程ではなかったため高を括っていたのだが、……ライアナは酷く落胆した。
儀式をさっさと終わらせてしまいたかったライアナが重たい溜め息を吐いたその時、儀式進行者が1位通過の少年に問い掛けた。
「1位通過した者よ、名は何と申す?」
「グラヴィ領より馳せ参じました、オルバと申します」
1位通過した者は、本土の人間ではなかった。
会場が騒めく中、オルバと名乗る少年はさらに続ける。
「畏れ多くも、陛下にお願いがございます!」
「!?」
会場の空気が一瞬にして張り詰める。
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ライアナは儀式進行者に見える様手をあげ、先を促した。
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「……申してみよ」
「願わくば、陛下に直接お目通り願いたく――」
民衆がどよめく。無理もない、誰もが敬うライアナ王、近付くなど畏れ多い。
たとえ近付きたくともその存在は恐怖の対象、ライアナ自身はあまり自覚していないが、国民からしたら彼は最強の象徴であると同時に死の象徴でもあるのだ。
まだ幼い故の怖いもの知らずとでもいうのか……オルバに注視する誰もが死に急ぐなとその瞳で語っている。
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それはその願いを叶えるという、許すというサインだった。
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