公爵様と俺

長澤直流

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ご挨拶~魔界~1

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 魔界、フェレス邸――

「おかえりなさいませ、ご主人様」

 ずらりと整列した使用人達が一斉に挨拶すると迫力がある。
 達はメフィストに1人で着いて来たことをちょっぴり後悔した。
(何これ? セレブ? ついてけないんですけど! ……パパママに着いてきてもらえば良かった……)
 フェレス邸に着いて早々、達は弱音をはいた。

 今朝の両親の言葉を思い出す。

「ちょっと気後れしちゃうかもしれないけど、位の高い魔族の御邸おやしきは大抵お城みたいなものだから気にしないようにね。まあ、達なら大丈夫よ。ママの子だからね」
 リリーは終始笑顔で言った。
「嫌なことがあったらパパを呼べ、この指輪がパパに繋いでくれる」
 司は達に指輪を渡しながら泣いているのか怒っているのか判らない難しい顔をしてそう言った。

 実に対照的な2人の対応だった。

(ママ、城って言葉の綾ではないのですね。……あなたの息子はすでにめげそうです。パパ、早いうちに連絡いれそうだよ……)
 達は項垂れた。

「皆に紹介する、我輩の伴侶となった人間、間宮達だ」
 人間、その響きに使用人達がざわめいた。
「ご主人様、……何故人間と?」
 赤いピアスの使用人が震えながら問う。
「何故……? 我輩が我輩の意思にて伴侶と決めたからだ」

 この赤いピアスの使用人、実はメフィストが達に召喚される直前までいちゃついていた召し使いである。
 名はアドムという。
 彼は毎日、血の滲むような努力をして自分を磨き、やっとこの御邸の主、メフィスト様の目に留まった! ……と思った矢先、魔法陣にご主人様を掠め取られてしまった。
 さらに、ご主人様が帰還すると聞き、喜んだのもつかの間、伴侶を伴ってという事実を知り彼は絶望した。それでもご主人様が見初めた相手ならばと、やりきれない思いを内に秘め、アドムは祝福しようと決めていた。しかし――

(ご主人様の伴侶がまさか人間とはっ……っ、私は人間に遅れをとったのか! 人間の癖にご主人様に色目を使うとはなんと厚かましい!!)

 アドムはこれ以上ないというくらいの憎悪を込めて達を睨んだ。
 達は使用人からの殺気を感じてメフィストの影に隠れる。

(ヤバイでしょこれっ、睨んでるもの、ものすっごく殺意だだ漏れで睨んでるもの、美形の睨みって半端ないっ、こえぇーよ。絶対愛人かなんかだよ!)

「達、皆に挨拶を……」
 メフィストは、俯きビクつく達をくいっと前に押し出す。

(プレッシャー半端ないんですけど……めちゃめちゃアウェーなんですけど……)
 針の筵のような視線にさらされて臆するも、達は意を決して顔をあげた。
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