公爵様と俺

10代最後の日

　閑静な住宅街、うっそうとした木々に囲まれたその館はそこだけが別世界であるかのような雰囲気を醸し出している。
　そんな館の地下室で、今まさに1人の青年が床に刻まれた怪しげな魔法陣の前に佇んでいた。

「よし、始めるか」

　間宮達、19歳、この館の一人息子だ。
　艶のある黒髪、大きな黒い瞳と対照的な透き通るような白い肌。身長150センチに満たない彼は、見た目はまるで少女のようだったが頭の中はれっきとした男の子だった。
　明日の午後7時、間宮達は20歳の誕生日を迎えようとしていた。

　10代最後の日――――――彼はまだ童貞だった。

　今まで全くモテなかったわけではないが、何故か彼女が出来なかった彼は脱童貞のため常人なら考えない暴挙に出ることにした。
　魔法陣に手をかざし呼吸を整え唱える。
「闇に生まれし魔の者よ、現世に姿を現し我が願いを叶えよ！」
　次の瞬間、地下室は魔法陣から溢れ出す光で覆われた。


　――――――――――――――――――――


　魔界、某公爵邸では主が客室にて召し使いの青年に手を出そうとしていた。
「ご主人様……、私は――」
「怖がることはない、全てを我輩に任せるのだ……」
「あっ」
　召し使いの青年が艶めかしい声を上げたとき、突如光の魔法陣が現れ、主を飲み込んでいった。
「ご主人様!?」
　1人取り残されてしまった召し使いの青年は、呆然と立ち尽くす他なかった。