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第25話 俺、クリエイターになる
しおりを挟む「なんで無理って決めつけるのさ?」
「だって、こんなの趣味の一環だし」
サクラは偉そうに腕を組んで俺に言う。
「好きなものや興味が深いもので起業をした場合、その仕事に心が宿るから困難に出くわしたとしても折れにくいらしいよ」
「とは言ってもさ」
「逆に好きでもなんでもないもので起業した時は、冷静に社会のニーズをとらえることが出来るからその点は有利らしい。陽ちゃんの場合は絶対、絶対に前者のほうが合ってると思う」
「……やけに詳しいな」
「伊達に図書館で本読んでないんだから」
サクラはピースをして笑う。それから「誰かさんと違って」と嫌味を付け加えた。
ばつが悪くなって俺は聞こえてないふりをした。
「でもどうしろと、あんな書道でどうやって金貰うんだよ」
「売ればいいじゃん。駅とか、あ、大学でもいいし」
「そんなことできるわけないだろ」
「やってみなくちゃ分からないじゃん」
また、それか。
駅の地べたに座って物売りとか、俺なんかができるわけがないだろうに。お金に困っている人に見えるか、変わり者に見えるか、場合によっては通報もあり得るだろう。
「否定するなら代替案ちょうだい」
「は?」
「だって私ばっかり案出してるじゃん? もうそろそろアイディアが尽きるから」
いっそのこと尽きてしまえば良いのに。
「そんな無茶言うなよ。そもそも無理な夢だったんだ。子どもの言ったことを真に受けるなよ。あの頃の俺はきっと、世間知らずだったからそんな無責任なことが言えたんだ」
「ふうん、まるで世間をよく知っているかのような口ぶりだね」
「別にそういうつもりじゃないけど」
今、サクラの表情は明らかに曇っている。
だが、どうしろって言うんだ。
「……分かった。じゃあこの夢は飛ばそ? 確かに難易度が高かったよね、ごめんね」
「あ、いいの?」
「うん。そもそも2週間しかないのになんかごめん。楽しくいこう」
雲った感情を、無理矢理晴れにして隠したような顔で俺を見ている。なんだかとても気持ちが悪かった。せっかく諦めてくれたのに後味が悪くて俺はどうも喜べなかった。一方でサクラは、テーブルの上からこの前書いたメモを手に取って、次の夢の構想を既に練りはじめている。ったくどれだけ切り替えが早いんだ。
頭の中では『そもそも2週間しかないのに……』が残っている。
ちょっと待てよちくしょう。
「次の夢は陽ちゃんらしい――」
「やっぱりやろう」
俺は衝動的に言った。
「え?」
「……会社、やっぱりやろう」
サクラは不思議そうな表情を浮かべていたが、切り替えたように笑って言う。
「どうしたの?」
「別にどうもしない」
「あ、もしかしてなんか良い案あった?」
そして不思議と、俺にはアイディアが浮かび上がった。
以前、いくつかアルバイトをしてみたことがあったがどれも駄目だった。問題がコミュニケーション能力だと分かった俺はインターネット上でできる仕事は無いか探したことがあった。
「もしかしたらネットで売ることならできるかも」
企業と個人を繋げる業者は実際に存在していて、そこでは素人でもライティングの仕事やイラストの販売を企業から受けることができるらしく、企業は掲示板に堂々と『クリエイター募集』などと広告を出していた。
その時に書道の作品を募集している企業は見なかったが、もしかしたら俺が知らないだけかもしれない。
「ネットであれを売るの?」
「あぁ、ちょっと待って」
俺は久しぶりにパソコンデスクに着いて椅子に座る。ぎしっと軋んだ音がした。それからこれまた久しぶりにノートパソコンの電源を入れる。時間を掛けてパソコンは起動され、何か月か前に見た壁紙が表示された。
「イラストの販売なら見たことがあるんだ」
「へえ……」
サクラはいつの間にか俺の隣りで中腰になって、同じ画面を眺めている。サクラ特有の柔らかな匂いが鼻を抜けて些か胸がどきっとした。俺はなんとか無視を決め込んで、インターネットを開く。
試しに俺が以前使っていたサイトを見てみる。
事務作業やデータ入力、ライティングなどがカテゴリ別に分かれていて、当然のように書道なんてカテゴリは無い。仕方なく『デザインの販売』から探してみたが、やはり書道作品の販売は見つけることが出来なかった。
「陽ちゃん絵が得意なら良かったのにね」
「棒人間しか書けないよ」
「ウケる……」
検索エンジンに戻り『イラスト販売』と検索してみる。間もなく検索結果がずらりと表示されて、どれがなんなのか全く分からなかった。イラストを販売しているサイトや、そう言ったサイトを紹介しているサイトや、イラスト販売の方法を紹介するサイトなどが上から下まで並んでいる。
取りあえず上から順番に見てみよう。そう思い、最上部に表示されたウェブサイトをクリックした。それはイラスト販売サイトであり『国内最大級』と謳ってある。
早速サイト内の検索で『書道』と検索する。
結果はすぐに表示された。
「……あるじゃん」
あった。
たったの4件だがあった。
「ねえこれ逆にチャンスじゃない? だって4人しかやってないってことじゃんね」
「それに、なんか、そんなに上手くない、気がする」
表示された4人のアイコンにはそれぞれにサンプルが表示されている。もちろん販売するぐらいだから全部とてもレベルが高いのだが、なんか俺はもっと飛びぬけて上手で、自分には手の届かないレベルを想像していた。
正直これぐらいなら、俺だって出せるかもしれない。
「うん、私も『春夏秋冬』がいちばん素敵だと思う」
「ああ、そうかい」
面と向かって言われると照れくさいが、恐らく本心だと思った。
なんだか気分が少し上向いていた。柄でもないけど俺は多分、ほんのちょっとだけ興奮していた。
「電気屋でも行ってみるか。うち、スキャナーとかないから」
「うん!」
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