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最期
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テラは何か考え込んでいるようだった。無視して迷宮へ向かうと、「よし!」と聞こえる。「マルタが来るなら後からユストゥスも来るだろう。それならここの見張りをする意味はない。私も同行だ! 集団自殺だ!」
ぎょっとしてテラの顔を何度も見た。明るい表情で、何かからの解放を喜んでいるかのようだ。
「先に行っててくれ。ユストゥスとロルフにも伝えてくるから。迷宮内で会えたら会おう」
テラは爽やかに言い放ち、軽やかに階段を駆け上がっていった。
「本当に来るの?」
アンネが言う。見当違いの方向を向いているから、マルタに声をかけているのだ。マルタは「ええ」とだけ言った。
そして僕達は迷宮の扉の前へ立った。案外薄っぺらくて、でも押してみると重かった。表面に怪物の絵が彫られている。
迷宮内は白く、時が止まったような空間だった。荘厳な空間は、神聖さよりも重苦しさを漂わせている。どこか城と雰囲気が似ている。白い壁、白い天井。城の地下にあったとは思えないどこまでも続く広大さ。一言で言うなら、ここは異質だった。魔物が闊歩しているらしい。その気配も無い。
思わず息が詰まる。鳥や人の彫像がそこかしこから僕達を見守っている。静かにマルタの足音がする。アンネも何も言わない。誰も何も言えない。
風も吹かず、気温を感じる能力が失われたかのように適温だ。ここに女神がいるという。不気味な静けさだけがある。他には何も無い。壊れた彫像。人工的な白い壁、そんな物はここでは何の意味もなさない。
「……行こう」
僕は一歩を踏み出した。アンネが僕の腕を掴むので、振り離して進む。泣きそうな「お兄ちゃん」が聞こえた。僕は、僕を慕う妹を捨てる 。
少し歩くと唸り声がした。魔物の声だ。僕らは当てもなく歩き回っていた。物音だろうか、匂いだろうか。迷路のような角を曲がって、また曲がって、魔物から離れようと進むけど、地響きのような足音がする。追ってきているようだ。僕は怖くなって、走り出した。後ろからアンネに呼ばれて振り返ったが、再び走り出す。アンネの声は弾むように息が切れて、僕についてくるのがやっとのようだ。振り切るように走り続ける。
「ねえ、どうしたの? 私が何かした?」
アンネが泣きそうになりながら僕に問う。僕は君が五体満足でいることが我慢ならないんだ。この腕を掴むその腕が無ければ良かったのに。
「兄妹を解消しよう」
僕も息が上がっていた。それでもそう言うと、アンネは顔をぐちゃぐちゃに歪めて本格的に泣き出した。
そんな彼女を突き飛ばす。その先には四足歩行の犬みたいな魔物がいた。まっすぐここに向かっていた個体だ。捕食時のクリオネのように頭部の大きく開いた魔物にアンネは食われてしまった。肩をやられ、大きな悲鳴が辺りに響く。この迷宮は音がよく響く。頭がキンとした。
「なんで! なんでなんで!」
アンネの犠牲を背後に脱兎の如く駆けだした。魔物はアンネを貪ることに夢中でこちらには来ない。完璧だった。全て思い通りだった。
抑えた笑い声が、「残酷なのね」と呟く。声色に僕への好意を乗せて。
遠くへ逃げてもアンネの声はずっとしていた。相変わらず死ににくいらしい。その姿に僕は騙された。今度こそきちんと死んでほしい。
……呆気なくないか? まだ生き返るんじゃないのか。しれっとひょっこり僕の横に戻ってくるような気がする。
その時はまた殺せばいいか。
また盾にでもなればいい。ああでも、目の前にいる時のあの鬱陶しい視線には、二度と会いたくないかもしれない。
ぎょっとしてテラの顔を何度も見た。明るい表情で、何かからの解放を喜んでいるかのようだ。
「先に行っててくれ。ユストゥスとロルフにも伝えてくるから。迷宮内で会えたら会おう」
テラは爽やかに言い放ち、軽やかに階段を駆け上がっていった。
「本当に来るの?」
アンネが言う。見当違いの方向を向いているから、マルタに声をかけているのだ。マルタは「ええ」とだけ言った。
そして僕達は迷宮の扉の前へ立った。案外薄っぺらくて、でも押してみると重かった。表面に怪物の絵が彫られている。
迷宮内は白く、時が止まったような空間だった。荘厳な空間は、神聖さよりも重苦しさを漂わせている。どこか城と雰囲気が似ている。白い壁、白い天井。城の地下にあったとは思えないどこまでも続く広大さ。一言で言うなら、ここは異質だった。魔物が闊歩しているらしい。その気配も無い。
思わず息が詰まる。鳥や人の彫像がそこかしこから僕達を見守っている。静かにマルタの足音がする。アンネも何も言わない。誰も何も言えない。
風も吹かず、気温を感じる能力が失われたかのように適温だ。ここに女神がいるという。不気味な静けさだけがある。他には何も無い。壊れた彫像。人工的な白い壁、そんな物はここでは何の意味もなさない。
「……行こう」
僕は一歩を踏み出した。アンネが僕の腕を掴むので、振り離して進む。泣きそうな「お兄ちゃん」が聞こえた。僕は、僕を慕う妹を捨てる 。
少し歩くと唸り声がした。魔物の声だ。僕らは当てもなく歩き回っていた。物音だろうか、匂いだろうか。迷路のような角を曲がって、また曲がって、魔物から離れようと進むけど、地響きのような足音がする。追ってきているようだ。僕は怖くなって、走り出した。後ろからアンネに呼ばれて振り返ったが、再び走り出す。アンネの声は弾むように息が切れて、僕についてくるのがやっとのようだ。振り切るように走り続ける。
「ねえ、どうしたの? 私が何かした?」
アンネが泣きそうになりながら僕に問う。僕は君が五体満足でいることが我慢ならないんだ。この腕を掴むその腕が無ければ良かったのに。
「兄妹を解消しよう」
僕も息が上がっていた。それでもそう言うと、アンネは顔をぐちゃぐちゃに歪めて本格的に泣き出した。
そんな彼女を突き飛ばす。その先には四足歩行の犬みたいな魔物がいた。まっすぐここに向かっていた個体だ。捕食時のクリオネのように頭部の大きく開いた魔物にアンネは食われてしまった。肩をやられ、大きな悲鳴が辺りに響く。この迷宮は音がよく響く。頭がキンとした。
「なんで! なんでなんで!」
アンネの犠牲を背後に脱兎の如く駆けだした。魔物はアンネを貪ることに夢中でこちらには来ない。完璧だった。全て思い通りだった。
抑えた笑い声が、「残酷なのね」と呟く。声色に僕への好意を乗せて。
遠くへ逃げてもアンネの声はずっとしていた。相変わらず死ににくいらしい。その姿に僕は騙された。今度こそきちんと死んでほしい。
……呆気なくないか? まだ生き返るんじゃないのか。しれっとひょっこり僕の横に戻ってくるような気がする。
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