黒い塔

日暮マルタ

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ユストゥス

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 城へと繋がる橋の前には人だかりができていた、それは村人達がほとんどで、僕らは近づけなかった。ロルフが一人で村人達と対峙している。何を話しているのかは聞こえない距離にいる。予想はつくが。
 
「どうする? お兄ちゃん」
 前まで心地よかった筈のお兄ちゃんという呼び方に、なぜか今は眉をひそめた。僕の変化に、アンネは少し怯えているようだ。
僕達が村人達と遭遇すると、十中八九良くないことが起きるだろう。僕達は先程悲鳴が聞こえてきた森の中へと進んだ。誰にも会わないように注意しながら。
 
 血の臭いが濃くなった。獣はもう行ったらしい。好都合だ。血だまりに死体が二つ転がっている。顔を見たら、なんだ、メグとトーマスじゃないか。二人は最後まで一緒にいるのだろう。羨ましいことだ。
 荷物を漁ると、外套が二つあった。これだ。これを頭まで被って、アンネと共に城の前の橋まで戻る。アンネが「流石お兄ちゃん!」と言っていた。媚びを売られている。僕はそれとなく無視をした。
 橋の前は大混雑だ。
「城に入れろって! そんなに広いんだから四人で占領するなよ!」
「ユストゥスが怒るんだよね」
 神官のロルフが対峙していた。村人が城に住んでも、マルタに殺されるだけだと思うんだけど、それがわからないのも当然か。
 ロルフは非常に億劫そうに村人を抑えているが、それも一人では突破されそうな勢いだ。とにかく物凄い騒ぎで、近づくに近づけない。遠巻きに眺めていると、城の主ともいえる少年ユストゥスが姿を見せた。城の高い部分から、汚いものを見るように群衆を見下げている。なぜこの彼の言うことをロルフもテラも聞いているのだろうか。でも、わかる気がする。この彼には、有無を言わさぬ透明な雰囲気がある。人に命令することに慣れている人間特有の雰囲気だ。見目が美しすぎて妙な凄みすら感じる。人々はユストゥスに罵声を浴びせ、ユストゥスは嫌そうな顔で城の中へ戻っていった。
 ロルフが止めきれず、橋を渡り城内へと人がなだれ込んだ。僕達もその流れに乗り、城内へ。人の流れが強い。アンネが強く僕の手を掴んだ。もう抱きかかえなくても一人で歩行できるだろう。
 
 城は広く、あれだけいた人もすぐに分散した。僕達も久々に訪れたので迷宮への道がわからず、右往左往した。
 広い広間に出た。天気が良いわけでもないのに、ここだけ明るい。ここは知っている。まだアンネに会っていなかった頃、ここでマルタに会っている。硝子の鳥が木々に留まっている。壊れた偶像が並び、時の止まったような印象の部屋だ。崩れかけの王座がある。
 かくしてまた、ここにもマルタがいた。そうとわかるきっかけは、やはりユストゥスだった。
 
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