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数多の鏡と時計が歪み、割られ、壊れている。僕は身動き出来ない体で、城の広間に横たわっていた。体中が痛い。顔が特に酷く熱い。水が飲みたくて呻いた。
「死ななかったの」
「そうみたいだね」
儚げな女の子の声がする。あの歌を歌っていた子だ。僕は見えにくい視界で女の子を探したが、例の少年しかいない。少年は僕をまるでゴミでも見るように見下ろして、玉座の後ろに立っていた。
助けて、という声が出ない。
「ミディアムがウェルダンになった」
「そうね。でもどうしよう」
「置いておけば……」
気が遠くなる気がする。会話が所々聞こえない。少年は何か頷いている。こちらへ近付いてきた。僕は足蹴にされる。蹴り転がされて、広間を追い出され、もう死んでしまいそうなのに、エントランスの階段の上から下へ向けて無慈悲に蹴り出された。人の心が無いんじゃなかろうか。
意識を手放しそうになるのを、妹のためと思い踏み止まる。激痛を抱えた体に更に転げ落ちる衝撃が加わって、僕はもう全てを諦めたくなった。
次、目が覚めた時は獣の唸り声がした。いつか見た、悪臭のする獣だ。獣は僕をじっと見て、今にもその牙で僕の体を引き裂こうとしていた。森に横たわっている僕の体はもう全く動かせない。僕の体は裂かれて、少し寒かった。
雨の音がする。僕は濡れた土に頬をめり込ませて倒れていた。体を起こして、瞬間僕に何が起きたのかを思い出す。ゾッと全身に震えが走った。なんて酷い、だけどあんまりじゃないか。神という存在がいるのなら、僕はその人を呪うだろう。
獣に貪られた、骨肉の碎ける音。壮絶な痛みも、暗闇の中にある。あまりにも苦しくて、逃げ出したいのに逃げ場がない。あの感覚、あの場所、あの少年……どれもが死を連想させ、苦痛に結びつく。
目の前には橋があった。僕が落ちた大穴もある。僕はいつから死に続けている? 僕は……妹を、探していた。一体いつから?
獣が怖くて、森にいられなかった。暗い森は雨を吸ってじっとりと毒を深めているように見えた。恐る恐る橋を渡り、また城の前に来る。人の気配はしない。あの少年もいない。
僕はひとつ大きな仮説を立てた。突飛な発想かもしれないが、あの少年の隣にもう一人誰かがいるのではないだろうか。歌の主、そして僕をかまどに押し込んだ者。声と触感だけの生き物。
そう考えると、少年の言動にも納得がいく。少年にだけは、見えているのだろうか。死んでも死ねないこんな世界だ、ありえないことなんて、ない。
彼女に気づかれず、少年にも会わないように、と注意して、城の庭を探し歩いた。寒くて震えていた。僕はろくに服も着ていない。黒い肌が雨水を吸う。空には雲が敷きつめられている。
そして僕は、黒い壁でできた、細長い塔を見付けた。
「死ななかったの」
「そうみたいだね」
儚げな女の子の声がする。あの歌を歌っていた子だ。僕は見えにくい視界で女の子を探したが、例の少年しかいない。少年は僕をまるでゴミでも見るように見下ろして、玉座の後ろに立っていた。
助けて、という声が出ない。
「ミディアムがウェルダンになった」
「そうね。でもどうしよう」
「置いておけば……」
気が遠くなる気がする。会話が所々聞こえない。少年は何か頷いている。こちらへ近付いてきた。僕は足蹴にされる。蹴り転がされて、広間を追い出され、もう死んでしまいそうなのに、エントランスの階段の上から下へ向けて無慈悲に蹴り出された。人の心が無いんじゃなかろうか。
意識を手放しそうになるのを、妹のためと思い踏み止まる。激痛を抱えた体に更に転げ落ちる衝撃が加わって、僕はもう全てを諦めたくなった。
次、目が覚めた時は獣の唸り声がした。いつか見た、悪臭のする獣だ。獣は僕をじっと見て、今にもその牙で僕の体を引き裂こうとしていた。森に横たわっている僕の体はもう全く動かせない。僕の体は裂かれて、少し寒かった。
雨の音がする。僕は濡れた土に頬をめり込ませて倒れていた。体を起こして、瞬間僕に何が起きたのかを思い出す。ゾッと全身に震えが走った。なんて酷い、だけどあんまりじゃないか。神という存在がいるのなら、僕はその人を呪うだろう。
獣に貪られた、骨肉の碎ける音。壮絶な痛みも、暗闇の中にある。あまりにも苦しくて、逃げ出したいのに逃げ場がない。あの感覚、あの場所、あの少年……どれもが死を連想させ、苦痛に結びつく。
目の前には橋があった。僕が落ちた大穴もある。僕はいつから死に続けている? 僕は……妹を、探していた。一体いつから?
獣が怖くて、森にいられなかった。暗い森は雨を吸ってじっとりと毒を深めているように見えた。恐る恐る橋を渡り、また城の前に来る。人の気配はしない。あの少年もいない。
僕はひとつ大きな仮説を立てた。突飛な発想かもしれないが、あの少年の隣にもう一人誰かがいるのではないだろうか。歌の主、そして僕をかまどに押し込んだ者。声と触感だけの生き物。
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彼女に気づかれず、少年にも会わないように、と注意して、城の庭を探し歩いた。寒くて震えていた。僕はろくに服も着ていない。黒い肌が雨水を吸う。空には雲が敷きつめられている。
そして僕は、黒い壁でできた、細長い塔を見付けた。
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