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白い城
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声の聞こえる部屋を見つけた。そこだけドアが開いていて、薄暗い城内の廊下に一筋の薄明かりを落としていた。覗き込むと、白い部屋が僕を迎える。中に人の姿はない。だが歌は続いている。
部屋の中に立ち入って声の主を探す。歌は明らかに部屋の窓付近から発せられている。しかし誰もいない。
ねえ、君はだれ。僕はそう喋ろうとした。喉から出たのはしわがれた酷い声。意味のある言葉にはとても聞こえなかった。歌が止まる。
と、その時、部屋に踏み込む人影があった。水晶のような透き通った眼に、陶器のような白い肌の少年。彼は浮世離れした美しい容姿を歪めて、僕を非難する。
「彼女に近付くな」
僕は慌てて言い訳をしようとした。少年は僕と同じか、僕より少し年長に見える。大人よりは安心できる。
だけどやはり声を発することが出来ない。古い時計が無理やり動くような、耳に汚く届く音がする。人の声とは思えない。
「喋れないの」
少年は酷く冷たい目で僕を見た。僕の横を通り過ぎ、誰もいない窓辺に手を差し伸べる。誰かの手を取るような動きをして、少し微笑んだ。まるで誰かを安心させるかのように。あまりにもその横顔が優しい。先ほど僕が見た彼の目が嘘だったのではないかと思う。
僕は少年に声をかけたかった。女の子を見ていないか、と。使えない喉を震わせて、唇を動かす。嫌そうな顔をして誰かの手を引っ張り少年は歩き出してしまった。強引に肩を掴む。彼はぎょっとしたようだ。
「何? 汚い手で触らないで」
女の子、女の子、と繰り返し言って、妹の背丈を手で表した。
「ああ、人を探して迷い込んだの。たまにいるんだよね。早く出て行って。好きに探し回っていいから」
彼は肩についた黒い煤を綺麗になるまで叩き落とす。今度こそ部屋を出ていってしまった。
ここは城にしては小さいが、がらんと人気がなく、とても広く見えた。エントランスの階段はとても高く長い。歩き回ってみたが、どの部屋にも人はいなく、生活感がない。ホコリや蜘蛛の巣がかかっているわけではなく、まるで時が止まっているかのようだ。
ふいに腹部がぎゅぅっと音を立てた。お腹がすいた。もうずっと森を歩いていた気がする。そこから屋根も壁もある今の城まで来れて、気が抜けたようだ。ここは静かで、獣の気配もない。
倉庫や客間を覗いて、食堂までたどり着いた。そのすぐ横の部屋が調理場だった。食料を漁り、リンゴを見つけた。貪り食らう。
芯のギリギリのところまで噛み付いて、もう食べるところがない。まだ空腹だ。
パンがあった。誰もいないのにかまどの火が点いている。パンを焼こうと近付いた。火だ、熱い、と思ったら、何かが背中を強く押す。そんなことが起きるだなんて僕は思いもしていなかったから、かまどの火の中に落ちそうになった。慌てて鉄の扉を素手で掴む。肉の焼ける音がして、とても熱かった。痛い。起き上がろうとしたが、何かに頭を押さえつけられている。息が出来ない。熱せられた空気が肺を周り、体中火傷したみたいだ。髪が燃える! 不思議と懐かしい。
押さえつけているこれは人の手だ。押し込まれるまま抵抗も出来ずに焼かれていく。頭の中は大混乱。なぜこんなことを。なんとか振り向いて誰なのか見たら、そこには誰もいなかった。
部屋の中に立ち入って声の主を探す。歌は明らかに部屋の窓付近から発せられている。しかし誰もいない。
ねえ、君はだれ。僕はそう喋ろうとした。喉から出たのはしわがれた酷い声。意味のある言葉にはとても聞こえなかった。歌が止まる。
と、その時、部屋に踏み込む人影があった。水晶のような透き通った眼に、陶器のような白い肌の少年。彼は浮世離れした美しい容姿を歪めて、僕を非難する。
「彼女に近付くな」
僕は慌てて言い訳をしようとした。少年は僕と同じか、僕より少し年長に見える。大人よりは安心できる。
だけどやはり声を発することが出来ない。古い時計が無理やり動くような、耳に汚く届く音がする。人の声とは思えない。
「喋れないの」
少年は酷く冷たい目で僕を見た。僕の横を通り過ぎ、誰もいない窓辺に手を差し伸べる。誰かの手を取るような動きをして、少し微笑んだ。まるで誰かを安心させるかのように。あまりにもその横顔が優しい。先ほど僕が見た彼の目が嘘だったのではないかと思う。
僕は少年に声をかけたかった。女の子を見ていないか、と。使えない喉を震わせて、唇を動かす。嫌そうな顔をして誰かの手を引っ張り少年は歩き出してしまった。強引に肩を掴む。彼はぎょっとしたようだ。
「何? 汚い手で触らないで」
女の子、女の子、と繰り返し言って、妹の背丈を手で表した。
「ああ、人を探して迷い込んだの。たまにいるんだよね。早く出て行って。好きに探し回っていいから」
彼は肩についた黒い煤を綺麗になるまで叩き落とす。今度こそ部屋を出ていってしまった。
ここは城にしては小さいが、がらんと人気がなく、とても広く見えた。エントランスの階段はとても高く長い。歩き回ってみたが、どの部屋にも人はいなく、生活感がない。ホコリや蜘蛛の巣がかかっているわけではなく、まるで時が止まっているかのようだ。
ふいに腹部がぎゅぅっと音を立てた。お腹がすいた。もうずっと森を歩いていた気がする。そこから屋根も壁もある今の城まで来れて、気が抜けたようだ。ここは静かで、獣の気配もない。
倉庫や客間を覗いて、食堂までたどり着いた。そのすぐ横の部屋が調理場だった。食料を漁り、リンゴを見つけた。貪り食らう。
芯のギリギリのところまで噛み付いて、もう食べるところがない。まだ空腹だ。
パンがあった。誰もいないのにかまどの火が点いている。パンを焼こうと近付いた。火だ、熱い、と思ったら、何かが背中を強く押す。そんなことが起きるだなんて僕は思いもしていなかったから、かまどの火の中に落ちそうになった。慌てて鉄の扉を素手で掴む。肉の焼ける音がして、とても熱かった。痛い。起き上がろうとしたが、何かに頭を押さえつけられている。息が出来ない。熱せられた空気が肺を周り、体中火傷したみたいだ。髪が燃える! 不思議と懐かしい。
押さえつけているこれは人の手だ。押し込まれるまま抵抗も出来ずに焼かれていく。頭の中は大混乱。なぜこんなことを。なんとか振り向いて誰なのか見たら、そこには誰もいなかった。
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