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4.異世界転職勇者

便利機能に慣れすぎるとついつい欲張ってしまうのが人ってもん

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「ちなみにこの世界に魔王はいないのか?」

「いない。倒してほしいやつならニュースを見れば山ほど出てくるけどな」

 この現実世界には明確にわかりやすい悪者は存在しない。

 そう、それこそ、魔王みたいなやつは。

 それでもなんでか知らんが、世界は平和にはならないし、金持ちにばっかりお金は集まってるし、税金は高いし、保育園は地味に遠い上にすぐ呼び出される。

 この世界にも、そいつを倒したら世界は平和になりましためでたしめでたし、みたいな存在がいてくれたらどれだけ楽なことか。

「ま、そんなのは異世界ファンタジーのお話で、こちとらジャンル違いよな」

「?」

 それが出来ないからこそ、オレ達はここでフィリアスの仕事を探してるんだけどな。

 しかし、このままじゃあ、武闘系美少女youtuberになるしかないぞ。確かにフィリアスはモデルみたいな美少女だし、剣術の腕はすごいし、そのどこか優雅な振る舞いは画面映えしそうではある。

 だがしかし。

 オレらにはそんな彼女をバズらせるための術がない。動画編集なんてしたことない。収益化って難しそう。それこそ五日香と一緒に、肥満主婦を美少女がダイエットさせてみた、みたいな企画でも良さそうだけど。

 あるいは傭兵? 飛躍しすぎかもしれないけど、フィリアスの身体能力、それに剣と魔法の力なら戦地でも大活躍間違いなしだ。

 でも、さすがにこんな少女を戦場に送るのは良心が痛みまくるので却下。

「他にこの世界でも使えそうなスキルはないのか?」

「うーん、この世界に転生してどんなことができるようになっているのか、まだわたしにもわかってないんだ」

 そうだよな、言語は生活に直接結び付いているし、違いもはっきりわかるけど、他のことはその時になってみないとわからないよな。もしかしたらこの自動翻訳のスキルだけかもしれないし。

 あ、それとあの異世界の便利アイテムをどこかに収納し、取り出せることくらいか。未来の猫型ロボットかな?

「そうだな、とりあえずPCだけでできそうな仕事を探そう。まだ外出はさせたくない」

「同感だ、わたしもこの世界の所作がわからないうちは一人で出歩くのはよそうと思っていたところだ」

 しかし。

 いくら色んなお仕事を提案してみても、スマホの求人サイトを見てみても。

 結局フィリアスが納得するようなお仕事は見つからず。

「ま、そんなにすぐ天職は見つからんよ、人生は仕事探しみたいなもんさ」

「なんか深いようなそうでもないような格言だな」

 そして。

 次の日の朝、あまりにも会社に行きたくなさ過ぎてのろのろとオレがリビングのドアを開けると、また勝手にオレのスマホをいじっていた早起きフィリアスは、寝そべっていたソファーから飛び起きてぱたぱたと駆け寄ってきた。

「おい、カナタ! わたしのこの自動翻訳スキルだが、どうやら寝ている間に勝手にアップデートされたらしくて、各国の地名や物の名前についてはなんとなく理解できるようになったぞ!」

「ずいぶん都合良い神アプデきたな!」

 こうして当面の彼女の仕事が決定した。
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