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2.病院ではお静かに
戦場に咲く二輪の花……の脇に生える草
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「一体何が……」
思わずそう呟いたところで、誰もそんなこと知る由もない。
オレ達家族は完全にパニック映画に巻き込まれた一般市民でしかなかった。
泣き叫ぶ子ども達をあやすことすらできない。あたかも自分達が彼らに守られているかのように子ども達をひたすら抱きしめて、うずくまり、助けが来てくれるのを待つだけだった。
だけど、ここはもう戦場だった。
この病院にいた全員が突如として激戦の地に放り出された。
そんな中で一体誰が冷静でいられるというのか。
パニックと悲鳴の中、誰かが助けてくれる、というのはあまりにも愚かな幻想だった。
「わたしをこの幻惑から解放しろ、魔王の手下め!」
「ここにいる人たちを巻き込むなら容赦しない!」
銃と剣による2人だけの戦争。
彼女達の思惑はおそらく大きく外れ、それは永遠に噛み合わなくなってしまった。
バトンを振るうような華麗な剣の乱舞と、それをギリギリで躱しながら誰も射線にいないことを確認しながらの銃撃。しかし、少女は至近距離からの的確に足を狙った銃弾を尋常じゃない反応速度で回避すると、さらに続く斬撃で遥場さんの前髪を少し切り落としながら後退させる。
まるで舞踏会で踊るような応酬。
なんだ、舞台でも観ているのか。彼女達の人間離れした大立ち回りに思わず現実逃避。
巻き込まれ、悲鳴を上げながら必死に逃げ惑う。あるいは、オレ達みたいにその場でうずくまって、嵐が頭上を過ぎ去ってくれるのをひたすら待つ。
だけど、その美しく舞う暴風雨はオレの存在に気付いてしまった。
目が合った、合ってしまった、刹那の邂逅、……相互理解不全。
「そうか、お前がわたしをここに連れてきた魔物か!」
拮抗していた戦場の均衡が崩れる。
少女は遥場さんの一瞬の隙をついて、剣を振り上げながらこちらへと突進してくる。
「しまっ……」
遥場さんが咄嗟に銃を構えるけど、きっとオレ達が邪魔で撃てない。
動くことすらできないまま、ほんの僅かな間にもうすでに少女は眼前にいた。
何か少女の言葉に異を唱えるその前に。
「た、頼む! 現在達には手を出さないでくれ! 3人はオレの大事な家族なんだ!」
「お、願い! せめて子ども達だけでも殺さないで!」
オレと五日香の口からはそんなどうしようもなく救いのない言葉だけが吐き出された。
少女はオレと五日香に抱き留められる現在と永々遠を見つめ、何を思っていたのだろうか。彼女に背を向けて必死に子ども達を守ろうとしていたオレには彼女の表情は見えなかった。
少女の持つ大剣ならオレ達なんて簡単に真っ二つだ。だから、オレは彼女に救いを乞うことしかできなかった。
明確な姿を持って目の前に立つ死の恐怖にぎゅっときつく目を瞑っていると。
「……あ、あ、ご、ごめんなさい、わたし、そんなつもりじゃ……」
さっきまでとはまるで違う、叱りつけられた小さな子どものようなその弱々しい声音に思わず振り返る。
少女はその大きな真紅の瞳を悲痛にさらに大きく見開きながら、ぐらり、立ちくらむ。急におぼつかなく足取り。今まで感じていなかった重さに彼女が耐えきれなくなっってしまったかのように病院の床に落ちる大剣。そして、少女の手にあった大剣が一瞬強く光り輝いて、そして、あっという間に霧散してしまう。
一体何が起こってるんだ。
大剣を失ったことを少女は気にしていないようだった。
そんなことよりも自分の目の前で、そう、自分のせいで恐怖に泣き叫ぶ子ども達だけをただ狼狽えながら見つめているだけだった。
「動くな!」
「遥場さん! やめてください! もう彼女には」
「あなた達はここから逃げてください!」
遥場さんは銃を下ろさず、よろよろとその場で頭を抱えている少女をじっと睨み付けたまま。
少女は戦意を喪失した。
だけど、もはやこの場の騒然とした混乱はそれだけじゃあ収束しない。
これはもう、戦争だった。
引くに引けない。
勝者なんて誰もいない。
それでも、大義名分のために自分こそが勝者で、そして、自分こそが正義だと嘯かなくてはならない。
一体どうすれば。
思わずそう呟いたところで、誰もそんなこと知る由もない。
オレ達家族は完全にパニック映画に巻き込まれた一般市民でしかなかった。
泣き叫ぶ子ども達をあやすことすらできない。あたかも自分達が彼らに守られているかのように子ども達をひたすら抱きしめて、うずくまり、助けが来てくれるのを待つだけだった。
だけど、ここはもう戦場だった。
この病院にいた全員が突如として激戦の地に放り出された。
そんな中で一体誰が冷静でいられるというのか。
パニックと悲鳴の中、誰かが助けてくれる、というのはあまりにも愚かな幻想だった。
「わたしをこの幻惑から解放しろ、魔王の手下め!」
「ここにいる人たちを巻き込むなら容赦しない!」
銃と剣による2人だけの戦争。
彼女達の思惑はおそらく大きく外れ、それは永遠に噛み合わなくなってしまった。
バトンを振るうような華麗な剣の乱舞と、それをギリギリで躱しながら誰も射線にいないことを確認しながらの銃撃。しかし、少女は至近距離からの的確に足を狙った銃弾を尋常じゃない反応速度で回避すると、さらに続く斬撃で遥場さんの前髪を少し切り落としながら後退させる。
まるで舞踏会で踊るような応酬。
なんだ、舞台でも観ているのか。彼女達の人間離れした大立ち回りに思わず現実逃避。
巻き込まれ、悲鳴を上げながら必死に逃げ惑う。あるいは、オレ達みたいにその場でうずくまって、嵐が頭上を過ぎ去ってくれるのをひたすら待つ。
だけど、その美しく舞う暴風雨はオレの存在に気付いてしまった。
目が合った、合ってしまった、刹那の邂逅、……相互理解不全。
「そうか、お前がわたしをここに連れてきた魔物か!」
拮抗していた戦場の均衡が崩れる。
少女は遥場さんの一瞬の隙をついて、剣を振り上げながらこちらへと突進してくる。
「しまっ……」
遥場さんが咄嗟に銃を構えるけど、きっとオレ達が邪魔で撃てない。
動くことすらできないまま、ほんの僅かな間にもうすでに少女は眼前にいた。
何か少女の言葉に異を唱えるその前に。
「た、頼む! 現在達には手を出さないでくれ! 3人はオレの大事な家族なんだ!」
「お、願い! せめて子ども達だけでも殺さないで!」
オレと五日香の口からはそんなどうしようもなく救いのない言葉だけが吐き出された。
少女はオレと五日香に抱き留められる現在と永々遠を見つめ、何を思っていたのだろうか。彼女に背を向けて必死に子ども達を守ろうとしていたオレには彼女の表情は見えなかった。
少女の持つ大剣ならオレ達なんて簡単に真っ二つだ。だから、オレは彼女に救いを乞うことしかできなかった。
明確な姿を持って目の前に立つ死の恐怖にぎゅっときつく目を瞑っていると。
「……あ、あ、ご、ごめんなさい、わたし、そんなつもりじゃ……」
さっきまでとはまるで違う、叱りつけられた小さな子どものようなその弱々しい声音に思わず振り返る。
少女はその大きな真紅の瞳を悲痛にさらに大きく見開きながら、ぐらり、立ちくらむ。急におぼつかなく足取り。今まで感じていなかった重さに彼女が耐えきれなくなっってしまったかのように病院の床に落ちる大剣。そして、少女の手にあった大剣が一瞬強く光り輝いて、そして、あっという間に霧散してしまう。
一体何が起こってるんだ。
大剣を失ったことを少女は気にしていないようだった。
そんなことよりも自分の目の前で、そう、自分のせいで恐怖に泣き叫ぶ子ども達だけをただ狼狽えながら見つめているだけだった。
「動くな!」
「遥場さん! やめてください! もう彼女には」
「あなた達はここから逃げてください!」
遥場さんは銃を下ろさず、よろよろとその場で頭を抱えている少女をじっと睨み付けたまま。
少女は戦意を喪失した。
だけど、もはやこの場の騒然とした混乱はそれだけじゃあ収束しない。
これはもう、戦争だった。
引くに引けない。
勝者なんて誰もいない。
それでも、大義名分のために自分こそが勝者で、そして、自分こそが正義だと嘯かなくてはならない。
一体どうすれば。
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