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1.【急募】コスプレイヤーを拾った場合の対処法
この世で最も優先されるべきは子どもの食事である
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「お、おい、五日香(いつか)、た、助けてくれ! 人が倒れてたんだ!」
えーいこうなったら勢いで乗り切ったれ!
そう思って自宅のドアをバーンッと開け放ち、大声でそう叫ぼう……としたけど、オレの喉からはしわがれたガラガラ音しか聞こえなくて、完全に外の土砂降りに掻き消されてしまっていた。我ながら情けないことに、人生で一番の危機的状況に完全に緊張している。
だけど、それでも、五日香なら気付いてくれる、そう信じてる。というか、こんな露出度高めの雨でしっとり濡れているコスプレイヤーをいつまでもおんぶしてたらオレの身(理性)がもたねーぞ! 五日香ー、早く来てくれー!
だけど、呼べど叫べど五日香が来てくれることはついぞなかった。ははーん、さては子ども達の夕食がまたハッスルしてるんだな。オレの魂の叫びなんて子ども達に比べたら大したことないもんな、わかる。
ならば、仕方ない。
「五日香、助けてくれ、女の子が家の前で倒れてたんだ!」
オレは覚悟を決めて、びちょびちょのままリビングへと飛び込む。もちろん、この女の子をおんぶしたままだ。
その瞬間、時が止まった。
いや、比喩でもなんでもなく、この時、リビングの空気は冷えて固まり、全ての物は動きを止めたんだ。あの騒がしいはずの子ども達でさえも。
ついでにオレさえも止まったんだから、これはもう絶対零度超えただろ、-500℃はいっただろ。
「は?」
そのリアクションはまあ、わかる。きっと、あまりにも多い情報量に状況を理解できてないし、一体どれから怒ったろうか決めあぐねているのだろう。
びっちょびちょのまま家に上がり込んだことと、どうして傘持って行かなかったのかってことと、もっと早く帰ってこいやってこと、そして、その女誰? ってことだろうか。
「っていうか、どうして連絡してくれないの? こんな雨なら迎え行ったのに」
あ、そっちか。
「いや、そんなことより」
「ちょっと子ども達見てて。今お風呂沸かしてくるから」
そういうと、五日香はすぐに風呂場まで行き、ついでにオレとこの子の分のバスタオルを持ってきてくれた。
「そのおねえさんどうしてねてるの? けがいたそう、だいじょうぶ?」
「あいあい」
「うん、ちょっと転んじゃったのかな。きっと大丈夫だよ」
最近ようやくうまくなってきたお箸を持ったまま、長男の現在(ありか)が不安そうにオレと少女を見つめる。まだ4歳だけど彼は彼なりにこの良くわからない状況をなんとか理解しようとしているのかもしれない。ビビりでわがままだけど根は良いやつなんよ。
「とりあえず、身体を温めなきゃ。うわ、傷だらけだしお風呂はムリね、それじゃあ、カナタさんはすぐお風呂入ってきて!」
「は、はい!」
急いで敷いた布団に寝かせた彼女の傷に当たらないように身体をそっと優しく拭うその聖母のような行動とはうらはらに。
オレへの言葉はあまりにも辛辣すぎやしないだろうか。い、いや、まあ、確かにオレがここにいては彼女を着替えさせることもできないだろうし、オレもずぶ濡れで風邪をひいちゃうかもしれないからね、仕方ないね。
うろうろしてる場合でもない。子ども達もまだご飯中だ。
オレはすっかり冷えた安物のスーツを脱ぎ捨てると素直にシャワーだけを浴びる。
ふと曇り気味の鏡に映る自分と目が合った。
こんな冴えない34歳のおじさんが、あんな女の子をどうこうできるわけないじゃないか。髭も剃り忘れてんだぞ、女子高生はおろか、コスプレイヤーなんてほいほい拾えるかい。
ささやかな抵抗として、日々の筋トレの成果である力こぶをムキッとしてみたけど、そんなでもないことに切なく吐息。
そして、オレは身体を拭くのもそこそこにほとんど温まっていないままそのへんに脱ぎっぱなしだった私服へと着替える。そう、部屋着ではなくこのまま外に行けるような私服。
急がなきゃ子ども達が騒ぎ出してしまう。
えーいこうなったら勢いで乗り切ったれ!
そう思って自宅のドアをバーンッと開け放ち、大声でそう叫ぼう……としたけど、オレの喉からはしわがれたガラガラ音しか聞こえなくて、完全に外の土砂降りに掻き消されてしまっていた。我ながら情けないことに、人生で一番の危機的状況に完全に緊張している。
だけど、それでも、五日香なら気付いてくれる、そう信じてる。というか、こんな露出度高めの雨でしっとり濡れているコスプレイヤーをいつまでもおんぶしてたらオレの身(理性)がもたねーぞ! 五日香ー、早く来てくれー!
だけど、呼べど叫べど五日香が来てくれることはついぞなかった。ははーん、さては子ども達の夕食がまたハッスルしてるんだな。オレの魂の叫びなんて子ども達に比べたら大したことないもんな、わかる。
ならば、仕方ない。
「五日香、助けてくれ、女の子が家の前で倒れてたんだ!」
オレは覚悟を決めて、びちょびちょのままリビングへと飛び込む。もちろん、この女の子をおんぶしたままだ。
その瞬間、時が止まった。
いや、比喩でもなんでもなく、この時、リビングの空気は冷えて固まり、全ての物は動きを止めたんだ。あの騒がしいはずの子ども達でさえも。
ついでにオレさえも止まったんだから、これはもう絶対零度超えただろ、-500℃はいっただろ。
「は?」
そのリアクションはまあ、わかる。きっと、あまりにも多い情報量に状況を理解できてないし、一体どれから怒ったろうか決めあぐねているのだろう。
びっちょびちょのまま家に上がり込んだことと、どうして傘持って行かなかったのかってことと、もっと早く帰ってこいやってこと、そして、その女誰? ってことだろうか。
「っていうか、どうして連絡してくれないの? こんな雨なら迎え行ったのに」
あ、そっちか。
「いや、そんなことより」
「ちょっと子ども達見てて。今お風呂沸かしてくるから」
そういうと、五日香はすぐに風呂場まで行き、ついでにオレとこの子の分のバスタオルを持ってきてくれた。
「そのおねえさんどうしてねてるの? けがいたそう、だいじょうぶ?」
「あいあい」
「うん、ちょっと転んじゃったのかな。きっと大丈夫だよ」
最近ようやくうまくなってきたお箸を持ったまま、長男の現在(ありか)が不安そうにオレと少女を見つめる。まだ4歳だけど彼は彼なりにこの良くわからない状況をなんとか理解しようとしているのかもしれない。ビビりでわがままだけど根は良いやつなんよ。
「とりあえず、身体を温めなきゃ。うわ、傷だらけだしお風呂はムリね、それじゃあ、カナタさんはすぐお風呂入ってきて!」
「は、はい!」
急いで敷いた布団に寝かせた彼女の傷に当たらないように身体をそっと優しく拭うその聖母のような行動とはうらはらに。
オレへの言葉はあまりにも辛辣すぎやしないだろうか。い、いや、まあ、確かにオレがここにいては彼女を着替えさせることもできないだろうし、オレもずぶ濡れで風邪をひいちゃうかもしれないからね、仕方ないね。
うろうろしてる場合でもない。子ども達もまだご飯中だ。
オレはすっかり冷えた安物のスーツを脱ぎ捨てると素直にシャワーだけを浴びる。
ふと曇り気味の鏡に映る自分と目が合った。
こんな冴えない34歳のおじさんが、あんな女の子をどうこうできるわけないじゃないか。髭も剃り忘れてんだぞ、女子高生はおろか、コスプレイヤーなんてほいほい拾えるかい。
ささやかな抵抗として、日々の筋トレの成果である力こぶをムキッとしてみたけど、そんなでもないことに切なく吐息。
そして、オレは身体を拭くのもそこそこにほとんど温まっていないままそのへんに脱ぎっぱなしだった私服へと着替える。そう、部屋着ではなくこのまま外に行けるような私服。
急がなきゃ子ども達が騒ぎ出してしまう。
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