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5.EXCALIBUR

魔剣は聖剣に打ち克てるのか

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「イマジンコードの選手登録抹消、聖遺物使用権限のはく奪は……そうだな、そもそもキミは【イマジンコード】で使用可能な聖遺物を所持していないか。まあいい、今後の使用権をはく奪すればいいか」

 手も足も出ない。

 その強さの底が知れない。

 どうやったってコイツに勝てるイメージがわかない。

 これが、ランカー1位の実力。

 これが、人々の願いの強さ。

 クソ、ふざけやがって。オレはそれに抗うためにクソッタレな魔剣なんかと契約したんだぞ。

 人々の願いによって形作られた世界を変えるために。

 そもそも、だ。

 どうして、アーサーなんて超大物がオレなんかと対峙している?

「……てめえは何なんだ、どうしてこんなところにいやがるんだ……」

 地べたに這いつくばった無様な体勢のままじゃあ、睨み上げることしかできない。

 そんなオレを全く興味なさそうに見下ろすアーサーは、また小さくため息をつくと左手の時計を見る。

「ボクはアーサー、竜頭のウーゼルの血を継ぐもの、アーサーだ」

 その囁くような声が何故かよく響いた。誰もいない喧騒から離れた路地裏だからって何がそんなにオレの脳髄まで震動させたのか。

「……何をなんちゃってがイキっちゃってんの? そういうキャラでいく感じなの?」

 どす黒い粘泥に沈みながら精一杯の悪態を吐き出す。それしかできなかった。どう足掻いてもあの時みたいに身体の傷は塞がらなかった。

 こいつの名前がアーサーで、自身の聖遺物である聖剣、エスクカリバーを持ってるのはまあ理解できる。誰だってそれに憧れる。オレだって正義のヒーローが持ってるマントに憧れた時期がありました。

 けどよ、どれもこれも紛い物だろ?

 アーサーなんて本物はもう遠い昔の伝説の人物だし、そもそもその聖遺物はゲームのアイテムでしかない。

 だけど、アーサーのその憂いを帯びた青い瞳が冗談を言っているとも思えなかった。いや、こんなところで冗談なんてかましやがったらさすがにぶちギレるわ。

「正真正銘のアーサー本人だよ、ボクはそのクローンだからね」

「…………は?」

 こいつは何を言っている? このオレなんかに衝撃の事実をこんなにもあっさり明かしちゃってくれてんの?

 クローンは禁止されているはずじゃねえのか。

 シンギュラリティをとっくに超越しちまったこのイカれた世界で、この小綺麗な倫理だけがオレらの理性を押しとどめていたんじゃないのか。

 もうすでに、生と死の概念すら曖昧になっている。

 身体を一新することで千年前から不老不死は実現しているし、アーカイブから死者の声はリアルタイムの思考する観測機として聞けるようになった。死にたいと望むことも、その後生き返りたいと申請することもできる。そのどれもが少し面倒な手続きだけで可能なんだ。

 でも、死者の決定意思なくそれらを蘇生させるクローンは個人の尊厳を著しく損なうとして、法によって全面的に禁止されている。だから、たとえ太古の人物の遺伝子情報があったとしても、彼らが蘇生の意思を示さない限りは彼らをこの現代に蘇らせることはできないのだ。

「数千年前からしたらこの世界はまるで別世界だ」

 だけど、目の前の聖剣を振るう少年は、さも当たり前かのように自身をクローンだと言った。

 いや、待て待て、この世界の根底の全てが揺らぐような衝撃の事実だぞ。しとり達、内殻が起こした反乱もどきよりもさらに質が悪い。つまり、腐っているのが外殻の方だったってことだ。

「あ、安心してよ、クローンはボクだけだ。その技術はボクが全て破棄させたからね」

 そんなことはどうでもいい。

 問題は目の前にいるこのクソッタレ王子様がマジの本物だってことだ。

 もしかしたら。オレの中に浮かぶ荒唐無稽な考えが。

 もしかしたら、こいつは生前にすでに死者蘇生の意思決定をしてたんじゃないのか?

 自身が死んだその丘で最期に遺るその無念の意思を、数千年もの間誰かが引き継ぎ続けていたとしたら。

 それは、もう、妄執だ。幻想に囚われた怨霊だ。

「異世界に転生した最強の騎士王が世界を征服する、そんな物語も悪くないと思わないかい?」

「却下だ、絶対につまらなさそうじゃん。それにこれはSFだ、ファンタジーはカテゴリ違いだよ」

(いやいや、これは紛れもなくファンタジーじゃ、わらわを使うていて何を言うておるのじゃ)

 あのハイテンションから一転、落ち着きを取り戻したのか、それとも、見切りを付けられたのか、いつものようにアウラがオレを嘲笑する。良かった、壊れてこんな形になってもアウラはまだ健在だ。それなら。

 オレ達はまだ戦える。

「過去の異物が、オレの未来を潰そうとすんな」

(いひひ、主の未来は契約内容に含まれておったかのう?)

「おいおい、キミに未来があると思っているのか、小狡い泥棒風情が」

 ふわり、白熱の聖剣がオレの頬をかすめる。こんな圧倒的な敗北とあっけない終焉があってたまるか。……え、マジで味方いないの? アウラ、負けそうになるや否や急に突き放してくるじゃん。

 未だ癒えやしない致命傷を無視して、無理やり全身に力を込めて起き上がろうとするが。

「残念だが、魔剣に囚われたキミに未来なんてないよ」

 どす黒い血だまりの中で藻掻くオレの姿を、アーサーは冷ややかに見つめていた。こいつの足元に広がるこの泥の一滴さえ純然たる白熱を汚せない。

「じゃ、そろそろこの物語は終わりだ、これからはボクの番だ」

 無慈悲に振り上げられる聖剣。

 こんな過去にしがみつく亡霊に殺されるとか、無念しかねえ。

 クソ、オレは――

「探したわよ、ルジネ! こんな夜中にどこに行っちゃったかと思ったら……え、何、これ?」

「……急に出てきて何なんだよ、お前は」
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