35 / 48
5.EXCALIBUR
魔剣は聖剣と対峙してしまうのか
しおりを挟む
「管理委員会の権限、および当局からの要請によりキミのその剣を回収しに来た」
「なんだァ? てめェ……」
初対面の相手に、キレた!! ……久しぶりにキレちまったよ。
まあ、そうは言いつつも、そこにいたのは。
「ア、アーサー……?」
いつでもどこでも色んな場所でクソほど見た顔だった。もちろん、向こうはオレのことなんて知るはずもねえし、こっちだってリアルで見たのは初めてだけど。
何故か思わず身構えてしまう。心臓に刺さる柄に触れる。あっちはまだ何もしていないっていうのに。
気分転換を兼ねて、夜の街に繰り出したのが運の尽きだった。ついでに“ちょっとした探し物”なんて要らん事考えなきゃよかった。
オレはまだ未練がましく仲間を探している。
誰も見向きもしない路地裏。
彼のようなクソッタレがこんな薄暗くて小汚いところにいるのはあまりにも場違いで。
ネオンにまみれたぬるい風に光り輝く金髪がさらさらと揺れる。
まるで少女のように小柄で華奢な身体。白磁のように透明感のある肌。こいつのどこに、オレが警戒する要素があるっていうんだ。
長い金色のまつ毛、その下の大きな青い瞳はどこか憂いを帯びている。たぶん、こういうちょっと陰がありそうなのが人気の秘訣なんだろうな。
その小さな身体にはどこかの貴族が着ていそうな、皺もほこりひとつもない白いスーツを着ていた。この下品なネオンに染まる白いスーツの様はあまりにも不憫に思えた。
まるでどこかの絵本から飛び出してきた王子様だ。この世界観には不似合いすぎる。白馬に乗ってないだけまだマシだ。
そして。
そのか細い腰には、豪勢な青い鞘に納められた大きな剣を挿していた。これが、あの超最強の聖遺物か?
(なんじゃ、あやつは?)いつになく怪訝な声音のアウラ。
そう、こいつは。
「……【イマジンコード】開始以来無敗無敵の絶対的チャンピオン、アーサー」
自分で言っといて吐き気すら催してしまう。なんでこんなのがオレの目の前にいやがるんだ。
ゲームをプレイしてなくたってわかる。メグリとの会話でコイツの話題が出なかった日なんて一度もねえ。そういえば、あの時もこいつの対戦を見上げていたっけ。いい加減うんざりだ。幻想ばっかりで反吐が出る。
「で、何の用事? もしかしてランカー1位様が直々に対戦の申し込み? ハッ、オレ様も偉くなったもんだな。けどさ、今はちょっと忙しいんだ、そんな気分じゃねえし、また出直してきてもらっていいすか?」
「いや、これはゲームじゃない。ルール違反をしたキミの処罰だ」
長ったらしくまくし立てるオレの戯言にも、アーサーの表情は変わらない。固く結んだ薄い唇に、瞬きが少ないガラス玉みたいな大きな青い目は、まるでマジにお人形さんなんじゃないかって思ってしまう。
不用意に触れたら壊れちまいそうな儚げな感じなのに、これでチャンピオンとかマジで信じられねえ。今までのランカーとは全然雰囲気が違う。
直に見たら画面で観てるより余計に弱そうじゃねえか。
「あの日、キミは事情聴取のために呼ばれた。その聖遺物をどうしたのか、とね」
あの日。きっと、テロ事件の日のことだ。
やっぱり、この魔剣について呼び出されていたのか。
けど、どうして、こいつがそれを知ってんだ?
あ、こいつもキリさんやシノエさんみたいな当局の治安維持部隊のひとりだったのか?
そうだ、あの後メルベルトさんは助かったんだろうか、キリさんに訊いても教えてくれなかったし。あの日以来【イマジンコード】には出ていないみたいだけど。
いや、今はそれはいい。
「だけど、あの事件でのキミの活躍を見て当局は事情聴取なんて必要ないと結論付けた」
とにかく、あの時の戦闘を、そう、しとりに弾丸を撃ち込まれたはずのオレが蘇ったこともおそらく見られている。
そして、それはわざわざランカー1位を送り込むような事態だって判断された。
これは、とてもヤバい状況なのでは?
「君はその魔剣が何なのか知ってるのか?」
「は? 知らないね、いくら訊いても教えてくれねえんだわ」
この聖遺物はなんだ。
オレは一体何と契約した。
いや、マジでホントに誰か教えてくれないかな。
じりじりとした不可解な焦燥の中で、ふと芽生えたそんな切実な思いに応えてくれた……んなわけはないだろうけど。
「それは正真正銘本物の聖遺物、■■■■■■」いやにさらりと。
(おや、わらわの名を知る者がおるとは、こやつ何者じゃ?)
少し嬉しそうなアウラの声はもちろんアーサーには聞こえていない。だけど、どうしてかこのふたりがオレの知らない秘密を共有しているのは面白くない。オレには相変わらずアウラの真名が聞き取れない。
というか。
本物の聖遺物? なんじゃそりゃ。
「そんな安っぽいファンタジーなんか信じられるか。オレはこいつを心臓にぶっ刺してるんだぞ。本物ならとっくに死んでるじゃねえか」
ここはシンギュラリティを超越した最先端の世界だぞ。そんな手垢まみれの剣と魔法のおとぎ話なんてメグリじゃねえんだから知ったこっちゃねえ。
ファンタジーなんて頭の中のバグみたいな妄想で十分だ。今はそんな話はしてねえ。
すると、アーサーの表情がみるみるうちに驚愕に変貌していく。あの、憂いを帯びた眼差しさえ今はその見る影もなく大きく見開かれている。なんだ、意外と人間らしい表情もするじゃん。
「お、おい、本当にそんなことをしてしまったのか!?」
「え、う、うん」
え、その反応、何? なんですごい心配そうな憐れむような表情してるの? ……え?
「……え、マジで本物? え、マジなの、アウラ?」
(いやー、どうだろうなー、わらわにもちょっとわからぬなー)
「おま、ちょ、お前、これ、ちょ、ホントに、え、お前、これはちょっと、いや、おま、これは、ダ、ダメだろッ!」
(動揺しすぎじゃ)
「動揺しすぎじゃないか?」
「なんだァ? てめェ……」
初対面の相手に、キレた!! ……久しぶりにキレちまったよ。
まあ、そうは言いつつも、そこにいたのは。
「ア、アーサー……?」
いつでもどこでも色んな場所でクソほど見た顔だった。もちろん、向こうはオレのことなんて知るはずもねえし、こっちだってリアルで見たのは初めてだけど。
何故か思わず身構えてしまう。心臓に刺さる柄に触れる。あっちはまだ何もしていないっていうのに。
気分転換を兼ねて、夜の街に繰り出したのが運の尽きだった。ついでに“ちょっとした探し物”なんて要らん事考えなきゃよかった。
オレはまだ未練がましく仲間を探している。
誰も見向きもしない路地裏。
彼のようなクソッタレがこんな薄暗くて小汚いところにいるのはあまりにも場違いで。
ネオンにまみれたぬるい風に光り輝く金髪がさらさらと揺れる。
まるで少女のように小柄で華奢な身体。白磁のように透明感のある肌。こいつのどこに、オレが警戒する要素があるっていうんだ。
長い金色のまつ毛、その下の大きな青い瞳はどこか憂いを帯びている。たぶん、こういうちょっと陰がありそうなのが人気の秘訣なんだろうな。
その小さな身体にはどこかの貴族が着ていそうな、皺もほこりひとつもない白いスーツを着ていた。この下品なネオンに染まる白いスーツの様はあまりにも不憫に思えた。
まるでどこかの絵本から飛び出してきた王子様だ。この世界観には不似合いすぎる。白馬に乗ってないだけまだマシだ。
そして。
そのか細い腰には、豪勢な青い鞘に納められた大きな剣を挿していた。これが、あの超最強の聖遺物か?
(なんじゃ、あやつは?)いつになく怪訝な声音のアウラ。
そう、こいつは。
「……【イマジンコード】開始以来無敗無敵の絶対的チャンピオン、アーサー」
自分で言っといて吐き気すら催してしまう。なんでこんなのがオレの目の前にいやがるんだ。
ゲームをプレイしてなくたってわかる。メグリとの会話でコイツの話題が出なかった日なんて一度もねえ。そういえば、あの時もこいつの対戦を見上げていたっけ。いい加減うんざりだ。幻想ばっかりで反吐が出る。
「で、何の用事? もしかしてランカー1位様が直々に対戦の申し込み? ハッ、オレ様も偉くなったもんだな。けどさ、今はちょっと忙しいんだ、そんな気分じゃねえし、また出直してきてもらっていいすか?」
「いや、これはゲームじゃない。ルール違反をしたキミの処罰だ」
長ったらしくまくし立てるオレの戯言にも、アーサーの表情は変わらない。固く結んだ薄い唇に、瞬きが少ないガラス玉みたいな大きな青い目は、まるでマジにお人形さんなんじゃないかって思ってしまう。
不用意に触れたら壊れちまいそうな儚げな感じなのに、これでチャンピオンとかマジで信じられねえ。今までのランカーとは全然雰囲気が違う。
直に見たら画面で観てるより余計に弱そうじゃねえか。
「あの日、キミは事情聴取のために呼ばれた。その聖遺物をどうしたのか、とね」
あの日。きっと、テロ事件の日のことだ。
やっぱり、この魔剣について呼び出されていたのか。
けど、どうして、こいつがそれを知ってんだ?
あ、こいつもキリさんやシノエさんみたいな当局の治安維持部隊のひとりだったのか?
そうだ、あの後メルベルトさんは助かったんだろうか、キリさんに訊いても教えてくれなかったし。あの日以来【イマジンコード】には出ていないみたいだけど。
いや、今はそれはいい。
「だけど、あの事件でのキミの活躍を見て当局は事情聴取なんて必要ないと結論付けた」
とにかく、あの時の戦闘を、そう、しとりに弾丸を撃ち込まれたはずのオレが蘇ったこともおそらく見られている。
そして、それはわざわざランカー1位を送り込むような事態だって判断された。
これは、とてもヤバい状況なのでは?
「君はその魔剣が何なのか知ってるのか?」
「は? 知らないね、いくら訊いても教えてくれねえんだわ」
この聖遺物はなんだ。
オレは一体何と契約した。
いや、マジでホントに誰か教えてくれないかな。
じりじりとした不可解な焦燥の中で、ふと芽生えたそんな切実な思いに応えてくれた……んなわけはないだろうけど。
「それは正真正銘本物の聖遺物、■■■■■■」いやにさらりと。
(おや、わらわの名を知る者がおるとは、こやつ何者じゃ?)
少し嬉しそうなアウラの声はもちろんアーサーには聞こえていない。だけど、どうしてかこのふたりがオレの知らない秘密を共有しているのは面白くない。オレには相変わらずアウラの真名が聞き取れない。
というか。
本物の聖遺物? なんじゃそりゃ。
「そんな安っぽいファンタジーなんか信じられるか。オレはこいつを心臓にぶっ刺してるんだぞ。本物ならとっくに死んでるじゃねえか」
ここはシンギュラリティを超越した最先端の世界だぞ。そんな手垢まみれの剣と魔法のおとぎ話なんてメグリじゃねえんだから知ったこっちゃねえ。
ファンタジーなんて頭の中のバグみたいな妄想で十分だ。今はそんな話はしてねえ。
すると、アーサーの表情がみるみるうちに驚愕に変貌していく。あの、憂いを帯びた眼差しさえ今はその見る影もなく大きく見開かれている。なんだ、意外と人間らしい表情もするじゃん。
「お、おい、本当にそんなことをしてしまったのか!?」
「え、う、うん」
え、その反応、何? なんですごい心配そうな憐れむような表情してるの? ……え?
「……え、マジで本物? え、マジなの、アウラ?」
(いやー、どうだろうなー、わらわにもちょっとわからぬなー)
「おま、ちょ、お前、これ、ちょ、ホントに、え、お前、これはちょっと、いや、おま、これは、ダ、ダメだろッ!」
(動揺しすぎじゃ)
「動揺しすぎじゃないか?」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる