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その声は誰かに届くのか
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何か言おうとした。そうじゃないって否定したかった。
でも、オレが言いたかったその言葉は。
「あっはッ、ファンタズム・セットアーップ、雷鎚、ミョルニル!」
それは、バチバチと雷光を発する鉄槌。
「……ファンタズム・セットアップ、黄昏告げる角笛、ギャラルホルン……」
それは、曲がりくねった巨大な角笛。
「おお、よく来てくれた、キリ、シノエ! こいつがきっとこのテロの首謀者だ、捕まえて尋問しよう」
たかが一高校生でしかないオレの声はあまりにも強大な神器の顕現によって掻き消されてしまった。
メルベルトさんの知り合いってことはこの人達も治安維持部隊か。
「OK、メルベルト、シノエ、さっさと叩きのめしちゃお!」
おそらくキリと呼ばれた方、振るうたびに雷鳴轟く巨大な鉄槌を軽々しく手繰る小柄な女性。
「……彼女達は不遜にもこの管理局に攻撃を加えました。油断せずにいきましょう」
まるで金管楽器かのように巨大な角笛を身体に巻き付けている陰鬱な表情の男がシノエか。
そのどちらも当局の職員の証である灰色のスーツを着ているが、小柄な女性の方はそのド派手な虹色の髪色のせいで全く似合っておらず、陰鬱な男性の方は手入れが疎かなのかよれよれになっていた。
なんだか頼りないけど、彼らも上位のランカーならこの最悪の状況を何とかしてくれるんじゃないか。この状況ではどんな人でも救世主だ。
強大な聖遺物を見てもなお、しとりの微笑は揺るがない。もしかして、聖遺物をご存じではない?
「ふふッ、紛い物のおもちゃなんかで私達は止められないよ」
ほのかを抱き留めながらおもむろに銃を構えるしとり。
そして――
軽々しく響き渡る一発の銃声。
「え……?」
一瞬の躊躇いすらなく。
無数の枝が絡み付く剣でその弾丸を防いだはずのノルベルトさんがゆっくりと倒れる。
治安維持部隊の人達もオレも、撃たれた本人ですらこの状況を信じられずにいる。
ただの銃弾が聖遺物を貫通する? ナノマシンが作り出した幻想魔法だとしても、伝説の武器がいとも容易く破壊されるなんてそんなことが。
「ノルベルトさん!」
思わず駆け寄ろうとするも、「ダメです、行ってはいけません」「ッ」思ってた以上に強い力でシノエに腕を掴まれ廊下の角に投げ込まれる。「バカ野郎! 今の見たでしょ!」数瞬遅れてキリが飛び込む。
その瞬間、しとりの背後から現れた増援は何の警告もなしに銃を撃ちまくる。「クソ」オレ達は廊下の影から出られなくなってしまった。
「おいおい、外殻に攻め込むんだ、魔法対策なんて当たり前だろ、平和主義者ども。私達の弾丸に触れたナノマシンはその機能を無効化される」
それは真に人を殺せるもの。
初めて目の当たりにした本物。
自身の胸から拡がる血だまりに沈んでいくメルベルトさんの身体。
誰かの死。……死? メルベルトさんは死んだのか?
今まで体感したことがない恐怖。
死の恐怖。
(あははうふふ、久方ぶりの心地良い殺意じゃ!)
聖遺物は結局、幻想を模しただけの紛い物でしかない。極限まで現実に近づけただけのヴァーチャルリアリティだ。
それはオレ達の世界のルールでは紛れもなく現実なのかもしれない。
だけど、外のルールではそうじゃない。
オレ達は聖遺物なんて大層なものを振り回しながら、今は純粋な暴力に屈するだけのただの無力な市民でしかなかった。
(あはは、わらわもただの幻想か? いひひ、それは愉快じゃ、えへへ、主が心臓を突き刺したのも幻想、うふふ、それは愉快じゃ、おほほ)
これはただの幻想に過ぎなかったんだ。
「話が違う、わたしは聖遺物を取り返したら、それで外殻は大人しくわたし達の話を聞いてくれるって!」
銃弾の嵐の中じゃあよく聞こえなかったけど、ほのかのそんな叫びがかろうじて聞こえてきた。こんな時に親子喧嘩かよ、そういうのは周りを巻き込む前にしてくれよ。
「ほら見てみなよ、こいつらは確かに“大人しく”なるじゃないか」
もう、しとりにほのかの声は聞こえない。彼女はすでに破壊と信仰に妄信している。
そう、紛れもなく実の娘であるほのかの声すらも。
「こんなことするなんて聞いてない! これじゃあ完全に犯罪だ!」
「ほのかは何を言ってるんだい? 私達は外殻じゃあ存在自体が罪なんだよ?」
まるで小さな子どもに言い聞かせるような声音、そこに親子の絆はあるのだろうか。
あの緋い瞳は似て非なる色なのか。
「内殻を覆う外殻を壊すにはやっぱり管理局を一つ一つ破壊していくのが手っ取り早い」
しとりはもうすでに勝利を確信しているようだった。
もう動くことすらできていないほのかを連れて奥へと進んでいくしとり。
もうここには用はない。
それもそうだ、こっちはほとんど丸腰のやつらが3人、何も太刀打ちできずに廊下の角に追いやられている。
銃を撃ちながらじりじりと近づいてくるテロリスト達。弾幕が激しすぎて頭も出せない。これじゃあ、すぐに撃ち殺されてしまう。
もう敗北は時間の問題だった。
(うふふ、ここであっさり諦めてしまうとは、主は主人公にはなれぬなあ)
「う、うるさい、とにかくここを切り抜ける。あと、メルベルトさんを助けなきゃ」
(おや、ちょっとは主人公っぽいこと言うじゃないか。いいぞ、あやつを助けてやろう)
ぬるり、魔剣が痙攣じみた動きで形を変える。それは、地を這う腐敗したコールタールのようにぐじゅりとメルベルトさんの身体にへばり付くと、ズルズルと引きずる。「……おめぇの聖遺物、きめぇな」
「メ、メルベルトさん!」
「……メルベルトは電脳体です、私達よりは死ににくい、時間の問題ですが」
状況は良くなってはいない。咄嗟に義体とのリンクを切ったのか動かないメルベルトさんの身体はさらにいくつもの銃弾を浴びていた。
だけど、ただそれだけ。今は、ギリギリ無事。
「我々はここで退くわけにはいきません。この先にはこの管理局の管理中枢があるからです」
「で、でも、こんな状況じゃ」
「あちしの電撃ならぶん殴れなくてもカンケーないし!」
「……ギャラルホルンも音さえ聞かせてしまえば……」
それでも、彼らはまだ諦めていない。
そうだよな、自分が生きるってのはこんなに簡単に諦められるもんじゃない。そんなのは、ヴァーチャルだけの話だろ。
オレの身体を強張らせているのは、ただ、死の恐怖だけ。
……死の恐怖ってなんだ?
いや、死の恐怖ならもうすでに味わっているじゃないか。
この魔剣を引き抜く度、オレは明確に可視化された死をその身から引き抜いている。
「つーか、ラスボスが出会い頭にいるとか意味がわかんねえ」
「あっは! そうだよな、少年!」
キリさんが嬉しそうにニヤリと笑う。その可憐な口から覗くギザギザの人間離れした乱杭歯が無性に似合っているのはどうかと思う。
「よっしゃ、あちしって地味な攻撃はキライなんだけどさー、」
勢いよく立ち上がったキリさんはその身の丈よりも巨大だった雷鎚をどんどん小さく圧縮していく。
それはみるみるうちに小さく小さくなっていき。
「今はそんなこと行って場合じゃないっしょ」
きっとその大きさと重量は全く比例していない。あの巨大だった雷鎚と同等の質量がキリの手の内にある。
それをぎこちなくではあるが片手で持っているキリの見た目以上の身体構造に驚く。この人、こう見えて相当改造してるな。
「あちしはこいつを使うために身体を頑丈にしてる。ちょっとなら銃弾も防げるっしょ」
ぎしりみしり、右腕を大きく振りかぶるキリさんの小さな身体が軋む。
「あちしがミョルニルぶん投げたら同時に前に出るから、少年はあちしの後ろから突撃して」
「……ここは我々が押さえます。あなたには話したい人がいるのでしょう?」
「あ、ありがとうございます、キリさん!
シノエさん!」
「んじゃ、いっちょ逝きますか!」
そして、全然可愛くない轟音と共に投げられる小さな雷鎚。
それは飛び交う弾丸をすり抜け、誰にも気付かれることなく廊下を翔けて。
そして。
高速でぶん投げられればほとんど目にも留まらない大質量、さらに、そこから放電されるは、神雷の出力。
雷をまともに浴びて無事な生物なんていない。
獣人の強靭な身体を持ってしても、だ。
感電し、次々と倒れるテロリスト共。
雷鎚は投げれば必ず敵に当たり、主の元に戻ってくる。
雷を放ちながらキリさんの元に戻ってくる雷鎚をようやく見つけた残党がそれを撃ちまくるが。
「おい、さっさと鳴らせよ! シノエ!」
「……はあ、私の聖遺物、ギャラルホルンは音色を聞かせた相手に災厄を、つまり、精神的恐慌をもたらします。相手は聖遺物対策をしています、どれくらい効果があるかわかりませんが、獣人ならきっと耳も良いでしょう」
シノエさんは猫背気味の身体をさらに大きく屈める。
ヨレヨレのスーツを突き破ってその背面から現れるのは、肺へと直接空気を送り込む大きな吸気口。それが身体に巻き付けたギャラルホルンと接続される。
「あなたは耳を塞いでいて下さい」
その直後、慌てて塞いだ耳にどうしようもなく届いてしまったのは。
その音色は低く高く不協和音じみていて美しい旋律のようだった。つまり、よくわからん。
だけど、それがあまりにも不穏な響きを奏でているのだけはわかった。オレやキリさんにはなんともないのは、シノエさんが音色をコントロールしているからだろうか。
ちらりと廊下の先を覗いてみると、何か恐ろしいものでも見えているのか、パニックを起こしてあらぬ方向に銃を乱射する獣人達の姿。
「行って来い、少年! 拳なら話聞くだろ!」
「はい! ちょっと行ってきます!」
獣人達はキリさん達に任せる。
オレには真っ直ぐに向かわなければいけないやつらがいる。
でも、オレが言いたかったその言葉は。
「あっはッ、ファンタズム・セットアーップ、雷鎚、ミョルニル!」
それは、バチバチと雷光を発する鉄槌。
「……ファンタズム・セットアップ、黄昏告げる角笛、ギャラルホルン……」
それは、曲がりくねった巨大な角笛。
「おお、よく来てくれた、キリ、シノエ! こいつがきっとこのテロの首謀者だ、捕まえて尋問しよう」
たかが一高校生でしかないオレの声はあまりにも強大な神器の顕現によって掻き消されてしまった。
メルベルトさんの知り合いってことはこの人達も治安維持部隊か。
「OK、メルベルト、シノエ、さっさと叩きのめしちゃお!」
おそらくキリと呼ばれた方、振るうたびに雷鳴轟く巨大な鉄槌を軽々しく手繰る小柄な女性。
「……彼女達は不遜にもこの管理局に攻撃を加えました。油断せずにいきましょう」
まるで金管楽器かのように巨大な角笛を身体に巻き付けている陰鬱な表情の男がシノエか。
そのどちらも当局の職員の証である灰色のスーツを着ているが、小柄な女性の方はそのド派手な虹色の髪色のせいで全く似合っておらず、陰鬱な男性の方は手入れが疎かなのかよれよれになっていた。
なんだか頼りないけど、彼らも上位のランカーならこの最悪の状況を何とかしてくれるんじゃないか。この状況ではどんな人でも救世主だ。
強大な聖遺物を見てもなお、しとりの微笑は揺るがない。もしかして、聖遺物をご存じではない?
「ふふッ、紛い物のおもちゃなんかで私達は止められないよ」
ほのかを抱き留めながらおもむろに銃を構えるしとり。
そして――
軽々しく響き渡る一発の銃声。
「え……?」
一瞬の躊躇いすらなく。
無数の枝が絡み付く剣でその弾丸を防いだはずのノルベルトさんがゆっくりと倒れる。
治安維持部隊の人達もオレも、撃たれた本人ですらこの状況を信じられずにいる。
ただの銃弾が聖遺物を貫通する? ナノマシンが作り出した幻想魔法だとしても、伝説の武器がいとも容易く破壊されるなんてそんなことが。
「ノルベルトさん!」
思わず駆け寄ろうとするも、「ダメです、行ってはいけません」「ッ」思ってた以上に強い力でシノエに腕を掴まれ廊下の角に投げ込まれる。「バカ野郎! 今の見たでしょ!」数瞬遅れてキリが飛び込む。
その瞬間、しとりの背後から現れた増援は何の警告もなしに銃を撃ちまくる。「クソ」オレ達は廊下の影から出られなくなってしまった。
「おいおい、外殻に攻め込むんだ、魔法対策なんて当たり前だろ、平和主義者ども。私達の弾丸に触れたナノマシンはその機能を無効化される」
それは真に人を殺せるもの。
初めて目の当たりにした本物。
自身の胸から拡がる血だまりに沈んでいくメルベルトさんの身体。
誰かの死。……死? メルベルトさんは死んだのか?
今まで体感したことがない恐怖。
死の恐怖。
(あははうふふ、久方ぶりの心地良い殺意じゃ!)
聖遺物は結局、幻想を模しただけの紛い物でしかない。極限まで現実に近づけただけのヴァーチャルリアリティだ。
それはオレ達の世界のルールでは紛れもなく現実なのかもしれない。
だけど、外のルールではそうじゃない。
オレ達は聖遺物なんて大層なものを振り回しながら、今は純粋な暴力に屈するだけのただの無力な市民でしかなかった。
(あはは、わらわもただの幻想か? いひひ、それは愉快じゃ、えへへ、主が心臓を突き刺したのも幻想、うふふ、それは愉快じゃ、おほほ)
これはただの幻想に過ぎなかったんだ。
「話が違う、わたしは聖遺物を取り返したら、それで外殻は大人しくわたし達の話を聞いてくれるって!」
銃弾の嵐の中じゃあよく聞こえなかったけど、ほのかのそんな叫びがかろうじて聞こえてきた。こんな時に親子喧嘩かよ、そういうのは周りを巻き込む前にしてくれよ。
「ほら見てみなよ、こいつらは確かに“大人しく”なるじゃないか」
もう、しとりにほのかの声は聞こえない。彼女はすでに破壊と信仰に妄信している。
そう、紛れもなく実の娘であるほのかの声すらも。
「こんなことするなんて聞いてない! これじゃあ完全に犯罪だ!」
「ほのかは何を言ってるんだい? 私達は外殻じゃあ存在自体が罪なんだよ?」
まるで小さな子どもに言い聞かせるような声音、そこに親子の絆はあるのだろうか。
あの緋い瞳は似て非なる色なのか。
「内殻を覆う外殻を壊すにはやっぱり管理局を一つ一つ破壊していくのが手っ取り早い」
しとりはもうすでに勝利を確信しているようだった。
もう動くことすらできていないほのかを連れて奥へと進んでいくしとり。
もうここには用はない。
それもそうだ、こっちはほとんど丸腰のやつらが3人、何も太刀打ちできずに廊下の角に追いやられている。
銃を撃ちながらじりじりと近づいてくるテロリスト達。弾幕が激しすぎて頭も出せない。これじゃあ、すぐに撃ち殺されてしまう。
もう敗北は時間の問題だった。
(うふふ、ここであっさり諦めてしまうとは、主は主人公にはなれぬなあ)
「う、うるさい、とにかくここを切り抜ける。あと、メルベルトさんを助けなきゃ」
(おや、ちょっとは主人公っぽいこと言うじゃないか。いいぞ、あやつを助けてやろう)
ぬるり、魔剣が痙攣じみた動きで形を変える。それは、地を這う腐敗したコールタールのようにぐじゅりとメルベルトさんの身体にへばり付くと、ズルズルと引きずる。「……おめぇの聖遺物、きめぇな」
「メ、メルベルトさん!」
「……メルベルトは電脳体です、私達よりは死ににくい、時間の問題ですが」
状況は良くなってはいない。咄嗟に義体とのリンクを切ったのか動かないメルベルトさんの身体はさらにいくつもの銃弾を浴びていた。
だけど、ただそれだけ。今は、ギリギリ無事。
「我々はここで退くわけにはいきません。この先にはこの管理局の管理中枢があるからです」
「で、でも、こんな状況じゃ」
「あちしの電撃ならぶん殴れなくてもカンケーないし!」
「……ギャラルホルンも音さえ聞かせてしまえば……」
それでも、彼らはまだ諦めていない。
そうだよな、自分が生きるってのはこんなに簡単に諦められるもんじゃない。そんなのは、ヴァーチャルだけの話だろ。
オレの身体を強張らせているのは、ただ、死の恐怖だけ。
……死の恐怖ってなんだ?
いや、死の恐怖ならもうすでに味わっているじゃないか。
この魔剣を引き抜く度、オレは明確に可視化された死をその身から引き抜いている。
「つーか、ラスボスが出会い頭にいるとか意味がわかんねえ」
「あっは! そうだよな、少年!」
キリさんが嬉しそうにニヤリと笑う。その可憐な口から覗くギザギザの人間離れした乱杭歯が無性に似合っているのはどうかと思う。
「よっしゃ、あちしって地味な攻撃はキライなんだけどさー、」
勢いよく立ち上がったキリさんはその身の丈よりも巨大だった雷鎚をどんどん小さく圧縮していく。
それはみるみるうちに小さく小さくなっていき。
「今はそんなこと行って場合じゃないっしょ」
きっとその大きさと重量は全く比例していない。あの巨大だった雷鎚と同等の質量がキリの手の内にある。
それをぎこちなくではあるが片手で持っているキリの見た目以上の身体構造に驚く。この人、こう見えて相当改造してるな。
「あちしはこいつを使うために身体を頑丈にしてる。ちょっとなら銃弾も防げるっしょ」
ぎしりみしり、右腕を大きく振りかぶるキリさんの小さな身体が軋む。
「あちしがミョルニルぶん投げたら同時に前に出るから、少年はあちしの後ろから突撃して」
「……ここは我々が押さえます。あなたには話したい人がいるのでしょう?」
「あ、ありがとうございます、キリさん!
シノエさん!」
「んじゃ、いっちょ逝きますか!」
そして、全然可愛くない轟音と共に投げられる小さな雷鎚。
それは飛び交う弾丸をすり抜け、誰にも気付かれることなく廊下を翔けて。
そして。
高速でぶん投げられればほとんど目にも留まらない大質量、さらに、そこから放電されるは、神雷の出力。
雷をまともに浴びて無事な生物なんていない。
獣人の強靭な身体を持ってしても、だ。
感電し、次々と倒れるテロリスト共。
雷鎚は投げれば必ず敵に当たり、主の元に戻ってくる。
雷を放ちながらキリさんの元に戻ってくる雷鎚をようやく見つけた残党がそれを撃ちまくるが。
「おい、さっさと鳴らせよ! シノエ!」
「……はあ、私の聖遺物、ギャラルホルンは音色を聞かせた相手に災厄を、つまり、精神的恐慌をもたらします。相手は聖遺物対策をしています、どれくらい効果があるかわかりませんが、獣人ならきっと耳も良いでしょう」
シノエさんは猫背気味の身体をさらに大きく屈める。
ヨレヨレのスーツを突き破ってその背面から現れるのは、肺へと直接空気を送り込む大きな吸気口。それが身体に巻き付けたギャラルホルンと接続される。
「あなたは耳を塞いでいて下さい」
その直後、慌てて塞いだ耳にどうしようもなく届いてしまったのは。
その音色は低く高く不協和音じみていて美しい旋律のようだった。つまり、よくわからん。
だけど、それがあまりにも不穏な響きを奏でているのだけはわかった。オレやキリさんにはなんともないのは、シノエさんが音色をコントロールしているからだろうか。
ちらりと廊下の先を覗いてみると、何か恐ろしいものでも見えているのか、パニックを起こしてあらぬ方向に銃を乱射する獣人達の姿。
「行って来い、少年! 拳なら話聞くだろ!」
「はい! ちょっと行ってきます!」
獣人達はキリさん達に任せる。
オレには真っ直ぐに向かわなければいけないやつらがいる。
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