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3.GAMESTART

孤独を愛する少年は仲間を集めることができるのか

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「はあ? なんじゃこりゃ?」

「あー、そういうことね、完全に理解したわ」

 籠手のディスプレイを覗き込みながら、怪訝な表情のメグリとおでこが当たりそうになるのをギリギリで回避。

 ディスプレイをまじまじ睨み付けているメグリが気づいていないのが幸いか。

「チーム戦だと? ソロデビューした新人プレイヤーにチーム戦を申請するとかこいつらイカれてんのか?」

「チーム戦だけど、人数は最大4人でソロでも大丈夫だしね」

「マジでなんでもアリなゲームなんだな……」

「相手は有名な新人狩りチーム、“メルヘン・ポップカラー・ハロウィンモンスタァ・パーティナヰト・ゴブリンズ”ね。ルジネも変なところに目を付けられたわね」

 目を付けられたも何も、そもそもそんなにゲームに対してやる気ないんだし、オレの中では消化試合みたいなもんだ。

 それなのになぜかやる気満々のメグリがぐいぐい詰め寄ってくるせいで、オレに逃げ場はなさそうだ。

 それはそうとして。

「どうしよう、オレ友達いねえぞ」

(主は孤独を愛している無頼漢なのじゃと思っておったわ。……違ったのじゃな)

 ……うるせぇ。オレはただの無口なぼっちじゃい。いちいち言わすな。泣くぞ。

 やるからにはチームで挑みたいです。なんか相手はチームなのにこっちはたった一人でソロで戦うのは、絵面的にチームも集められなかった完全なぼっちで寂しい。

「なあ、メグリ、とりあえずチームとして名前だけでも貸してください、お願いです」

「す、すごい悲壮感が伝わってくる」

(主、なんかすまぬな)やめろ、そこで謝るな。

 すると、メグリにもオレが背負った悲しみが伝わったのか、にっこりと慈悲深げに優しく微笑む。

「もちろんいいよ、ワタシとルジネがいたらそれだけで最強じゃん」

 おお、今この瞬間だけはメグリが天使にも思えた。心なしかメグリの背後に後光が差しているような気もするし、カグラ先生の生ぬるい視線も感じる。

「ありがとう、そしてありがとう」

 メグリもランカーだ、戦力としてはあまりにも心強すぎる。

「そういえば、ちなみにお前のランクは何位なの?」

「え? 4位だけど?」さらりと。

「……は? え? よ、よんい? マ、マジ?」

 上位ランカーだとは聞いていた。

 メグの聖遺物が、他の聖遺物とは一線を画すものだってのもわかってはいた。

 でも、それでもさ。

「メグリ、お前、つーことはアハルギより強いの?」

「いやいや、相性よ、相性。ワタシだってルジネがやったみたいに真っ正面から戦ったらすぐ負けちゃうわ」

「オレの戦法クソじゃん」

 アハルギはめちゃくちゃ強かった。

 完全ビギナーのオレが言うから説得力ゼロかもしれないけど、上位ランカーの実力をまざまざと見せつけられた。

 オレが勝ったのだって、きっとたまたまだ。

 相手の慢心とか魔剣の性能とかもっと色々噛み合った結果でしかなかったんだ。

 それを、相性、というたったそれだけの要因で凌駕できてしまうなんて。

「そんなことないって。意味ない小細工とか結局最後はゴリ押しなんて戦法もアリっちゃアリなんだから」

「ゆるくディスられてんな、これ」

 いや、これ、オレ要らねえじゃん。オレのチームっていうか、メグリのチームじゃん。こんなん、相手チームからしたらたまったもんじゃないな。

 まあ、何はともあれ。

 チームを組むからにはあとふたりは欲しい。

「あー、カグラ先生、どうすか?」

「そんな、ついでみたいな誘い方でやるわけないでしょ。それにわたしの聖遺物はそんなんじゃないもん」

「ま、端から期待してないんでいいっす」

「それはそれで!」

 メグリがいるんだし、まあ、数合わせでいいや。

 などという、完全にオレの思惑が態度に滲み出てしまっていたみたいで。カグラ先生は大人気もなくちょっと涙目だった。

「なあ、ちょっとメグリの友達とか紹介してくんない?」

「やだ!」

「なんでだよ、いいじゃん」

「やだったらやだ! だってワタシの友達みんなかわいいもん!」

「いや、別にそんなの関係……」

「あるもん! 関係あるもん!」

「え、えぇ……」

 なんか古い森の奥に住んでいる怪物の存在を主張する小さな子どもみたいな一生懸命さに何も言えなくなってしまった。しまったな、言い方が良くなかったみたいだ。

(女心がわからんやつは死ぬぞ? 気をつけてなはれや)

「お前にだけは言われたくねえ……え、死ぬの? そんなにもやべぇの?」

 仕方ない、こうなったら最後の手段だ。

「オレに心当たりがある」

「え!? どこのどいつなのその子!」

「なんでそんな怒ってんの? あと、なんか勘違いしてない?」

「し、してないわよ! 別にルジネが誰とチームを組んだっていいもん!」

 なんか急にめっちゃ不機嫌になって、そわそわしているメグリを引き連れて校舎裏へと向かう。

 そして到着するなり――

「よう、元気だったか」

「……おかげさまで」

 オレは唯一の心当たりを見下ろす。

 まるで大きな岩みたいなバカデカいそいつは薄汚れることも厭わず校舎裏の隅っこで寝そべっていた。そう、まるで吹っ掛けられた喧嘩の後みたいに。

 そして、なぜか今はいつも引っ付いてる取り巻きがいない。一人だ。

「いやーよかったよ。お前が元気そうでさ。最近どうよ?」

「…………」

 返事はない。

 寝そべったままでオレを睨み上げている。たぶん、まだ死んでない。こいつは幽霊じゃないはずだから、きっと無視を決め込んでいるだけだ。

「おい、シカトすんなよ、なあ、アハルギ」

「……」

 オレは構わずに続ける。

「まあでもあれか? お前って意外とメンタル弱いのか? だからこんな人気のないところで落ち込んでたんだろ? わかるぜその気持ち」

「……」

 これだけ言ってやったのに反応がない。いつもならすぐにぶん殴られる勢いで突っかかってくるのに。あ、そういえば実際に殴られたことはなかったっけ。

「ね、ねえ、ルジネ、もうやめなよ」

 少し怯えているメグリの声に、アハルギは面倒そうにこっちに顔を向ける。

「なんだ、ルジネとそれに生徒会長様も、わざわざ俺をバカにしにきたのかよ、てめえもヒマなのか?」 

「ああ、そういえば決闘の報酬もらってねえっなって」

「後出しは卑怯じゃねえか?」

「おい、アハルギ、オレに協力しろ、オレのチームに入れ」

「いいぜ」

「いいの!?」

「いいの!?」メグリもついでにびっくり。

 アハルギはゆっくりと起き上がると、うんざりとため息を吐き出した。まるで機械の起動だ。

「どうせランカーという箔はもう剥がれちまった。ある意味、俺はもう自由だ」

 どうしていつもギラギラしていたアハルギが校舎裏なんて人目の付かない場所でこんなに薄汚れていたのか。

 なんとなくわかってはいた。

 まあ、どうせ今まで威張り散らかしていたツケが回ってきて、きっとしょーもないやつらに決闘でも挑まれていたんだろう。

 アハルギは今でも、大餓、の二つ名を持つ上位ランカーであることには変わらないのに。

 ランカーってのはそれくらいすげーことなんだな。

 失えば全てが変わってしまう。

「つーか、身体大丈夫だった? 死んだかと思ったけど」

「俺も死んだと思ったぜ、マジで真っ二つになるとは思わなかった」

「あれ、マジで真っ二つになってたの……?」

「問題ない、俺は電脳体だからな」

「あ、そうなの!?」

 知らなかった。あんなデカイ図体を誇らしげに見せびらかしていたんだ。普通に身体持ちだと思うじゃん。

「この身体も本体といえば本体だが、俺という存在はデジタルが本質だ」

 電脳体。

 自分の意識をデジタル情報化してネットワークサーバー上にのみ存在させる、人間の新たな存在定義。

 普通は電脳体がいるヴァーチャル世界、箔殻(アヴァロン)で生活してるけど、アハルギみたいに仮の身体を使ってこっちにいるやつももちろんいる。

「クラスのみんなにはナイショだぞ?」

 別に電脳体は外殻にだって普通にいる。自称してるやつだってそこら辺にいるだろう。

 でも、アハルギはそれを知られたくないみたいだ。まあ、義体使ってイキり散らかしてた、なんてあんまり言いたくないか。

(つまり、どういうことじゃ?)

「お前にはアハルギの魂は食えねえってことだ」

「どうしたの、ルジネ?」きょとんと首を傾げるメグリ。

「なんでもねえよ、こっちの話だ」

(なんでなんでー?)

「つーか、人を殺すのは禁止だ。こんなのは子どもでもわかるやろがい」

(どうしてじゃ? わらわにはわからぬのじゃ)

「いけないことなの! オレが死刑になっちゃうの!」

(まあ、よかろう、人は殺さぬ。主が死んでしまうのはわらわも悲しい……おほほ)

「ね、ねえ、アハルギ……くん? でも、どうしてルジネなんかにこんなにも突っかかってたの? 別にルジネが何かしたわけじゃないんでしょ?」

 メグリ、ズバッと聞くなぁ!?

 すると、アハルギはオレをじっと見たあとでふと遠くを見つめる。

「入学式の時、一目見たときからどこか影のあるお前が気になっていた」

「うん?」流れ変わった?

「俺が勝ったらお前と友達になれるようにメグリさんに協力してもらおうと」

「お?」

「も、もしかしてそれって恋ってやつじゃない? そ、そんな!」

「違う、やめろ、メグリ、バカ」

「ッ……!?」

「アハルギもそんな顔を赤らめるんじゃあない!」

(おほほ! 男色はいいぞ! 男色はいいぞ!)魔剣が急になんか色めき立つ。

「アウラ! やめろ!」
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