上 下
12 / 48
3.GAMESTART

新しい拠点はランカー達に馴染むか?

しおりを挟む
「ルジネ! ランキングに載ってたわよ!」

「ランキング? ああ、アハルギに勝ったからか」

 メグリに工房の場所を教えたのは良くなかった。オレの唯一の安息の地が失くなっちまった。

 毎日のように襲来してくるメグリから逃げるために潜伏先を変えたっていうのに。

 それなのに。

「ねぇぇぇ~、図書館では静かにしてよー、っていうか変な工具持ち込まないでよー」

「先生だって役に立たない紙ベースの本集めて、それでも飽きたらずにコスプレまでして完全に私物化してるじゃないですか」

「それとこれとは別じゃない!?」

 クソ、すぐバレたじゃねぇか。灯台下暗し、って言ってたのはカグラ先生だ、やっぱり信用ならねぇ。

「っていうか、生徒会長のメグリちゃんまでサボりに来ないでよ! わたしが怒られちゃうじゃん!」

 なんか横でギャーギャー騒いでる図書館の主は無視しとく。

「ランカーを倒したんだから当然ね、とりあえず100位だって」

「別にそんなの興味ねえよ、オレはゲームがやりたかったわけじゃねえ」

 オレは世界を変えたかっただけで。

 なんか理不尽な喧嘩売られたのを買っただけで。

 とどのつまり、ただの逆張りなだけで。

 そういえば、そうは言っても確かに世界は変わった気はしたんだ。

 あの対戦の日から。

「相変わらず授業には出てないよね」

「ああ、まあ、そうだな、かったりぃし」

「だからって図書館には来ないで! 保健室行ってよー!」

 オレはとりあえず学校には通っている。

 工房を図書館に移したこともあるけど、それよりも。

 オレには心臓にぶっ刺さってる魔剣があって、もう夜な夜な裏道のジャンク屋巡りをしなくても良くなったからだ。

 昼間に部屋に引き込もってたんじゃメグリの母親にどやされるのが鬱陶しい。

「そういえばアハルギは平気だったのか? 見た目完全に死んでたぞ? 【イマジンコード】って死人が出るようなデスゲームじゃないよな」

「大丈夫じゃないかな、仮想フィールドなら安全装置も働いてるだろうし」

「ねえ、メグリちゃんまでわたしを無視しないでよぉー」

 いや、あんな真っ二つになってて大丈夫なのかなぁ。

 あんな大観衆の中での公開殺人でも逮捕されてないんだから大丈夫なのか?

 あんな負け方を公開生配信しちゃってるんだ、もう喧嘩売られることもないだろう。あとでお礼参りに学校に来てるかだけでも確認してやるか。

「普通はあそこまで損傷する前に聖遺物が強制的に解除されるはずなんだけど」

(おや、そうなのか? なら次はバレぬように気をつけようか、いひひ)

 魔剣がなんか意味不明なことを気をつけようとしてる。

 結局のところ、オレはあの対戦からこいつの正体が何かを掴むことはできなかった。

 というか、それどころじゃなかった。

 死ぬ気しかしなかった。

「たかがゲームよ? 失うものなんて何もない。無課金で遊べて、運営やスポンサーから賞金まで出るんだからお小遣い稼ぎにはもってこいじゃない」

 メグリはそう言って笑ってるけどさ。

 【イマジンコード】のプレイヤーはみんなあんな恐怖を味わっているのか。

 ……イカれてやがる。

「そうだ、ちょっと自分の財布確認してみなよ、ルジネ」

「ん?」

 カグラ先生の机の邪魔な本をどかして、「いやぁー!?」がしゃりと籠手を置きホログラムディスプレイを開いてみる。

「……な、なんだ、この金額は……」

「そ。これがゲームの賞金よ、すごいでしょ」

「しょ、賞金……」

 ごくり、思わず唾を飲み込んでしまう。

 だってそうだろ、いたって普通の男子高校生じゃ一生懸命バイトしても手に入らないようなお金を今オレなんかが手にしてるんだ。どどどど動揺しちゃうのも無理ないだろがい。

 こ、このまま勝ち進むのも、う、うん、その、まあ、あれだ、わ、悪くはないな。別に賞金に目がくらんだわけじゃないけど。

 つーか、ランカーすげえ。オレよりさらに上位のメグリやアハルギはもっと稼いでるのか。……しゅ、しゅごい。

 このゲームのために身体改造までしたがるヤツの気持ちがなんとなくわかったかもしれない。

 幻想が現実になる。

 それだけがこのゲームの魅力じゃない。

 世の中、金だ! 金こそが全てだ!

「で、次のゲームはどうするの?」

 メグリがバンッと机を叩いてすごい詰め寄ってくる。さらり、スカイブルーの髪が揺れるのを右手で耳にかける。

 オレンジと青色の魔眼の機能はオフにしてるみたいだけど、そんなにどアップで覗き込まれたらなんか色々まずいだろ!

 メグリだって別にかわいくないわけじゃない。というか、普通にモテる。

 喋らなければ、守ってあげたくなるような華奢で清楚な感じだし。

 喋らなければ、成績優秀文武両道な生徒会長だし。

 喋らなければ、ちょっとその前屈みでオレの顔を覗き込む体勢はいくらちんちくりんだっていっても制服の中が見えてしまいますし。

 そう、つまり、実はとっても残念系な美少女なわけで。

「や、やる気なんてねぇよ。ランキング入りしたのだって喧嘩売られたアハルギがただ強すぎただけだ、これからはのんびりやるよ」

 オレは無意識に視線を逸らし、身体を仰け反らせる。

 いや、つーか、これだけの賞金があればそれだけでしばらくは不自由なく遊べるし。

 それにいちいちあんな死の恐怖に苛まれるのはごめんだ。死んだってやりたくねぇ。

「あ、ほら、見て、早速対戦の申請来てるよ」「……人の話聞かねえじゃん」

「ねえ、やってみようよ!」

「メグリ、お前って実は人の話聞かない人なの?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ドラゴン=八角=アーム~無限修羅~

AKISIRO
ファンタジー
ロイは戦場の果てに両腕を損傷してしまう。 絶対絶命の中、沢山の友が死に、国が滅び。 1人の兵士として戦い続け、最後の1人までになってしまい。 それはやってきた。 空よりドラゴンが落下してくる。ドラゴンの力を得たロイの両腕はドラゴンアームとなり果ててしまう。 ドラゴンの娘デルと共に、100人以上の仲間を集める為、捨てた故郷に舞い戻るのだが、 無数の異世界、無数の神の世界、地球、ありとあらゆる世界が交差していく。 ロイと100人以上の仲間達は旅の果てに世界の真実を知ってしまう。 全ての生命の数だけ〇〇があるという事を! ※別サイト様にても掲載しています。

葵の戦神八姫~アンカルネ・イストワール~

みくもっち
ファンタジー
 文芸部に所属する佐賀野葵(さがのあおい)は留学生のシノから妙なことを頼まれる。  一冊の本に手書きで小説を書いてくれというものだ。  小説を完成させた日、学校に異世界からの侵略者、魔族(グリデモウス)が現れる。  魔族に襲われ、傷つき、倒れていく生徒たち。 そんなとき、葵の本からひとりの少女が飛び出し、魔族を倒す。少女の名は雛形結(ひながたゆい)。  葵が書いた小説、葵の戦神八姫のキャラクターだった。    葵が小説を書いた本は小説のキャラクターを具現化できる魔導書アンカルネ・イストワール。  魔族に対抗できるのはその魔導書から喚び出されたキャラクターだけだった。  魔族の軍勢から人々を守るため、アンカルネ・イストワールから戦姫を喚び出して戦う少年の物語。

美咲の初体験

廣瀬純一
ファンタジー
男女の体が入れ替わってしまった美咲と拓也のお話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

“絶対悪”の暗黒龍

alunam
ファンタジー
暗黒龍に転生した俺、今日も女勇者とキャッキャウフフ(?)した帰りにオークにからまれた幼女と出会う。  幼女と最強ドラゴンの異世界交流に趣味全開の要素をプラスして書いていきます。  似たような主人公の似たような短編書きました こちらもよろしくお願いします  オールカンストキャラシート作ったら、そのキャラが現実の俺になりました!~ダイスの女神と俺のデタラメTRPG~  http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/402051674/

処理中です...