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6章:異世界豪華客船連続殺人事件
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「ーーおい、グロリア、厨房に行って早く料理を持ってくるように言ってきてくれ」
「かしこまりました」
メインホールでは大見栄きって、我らは部屋から出ない! などと言ったものの、この狭い部屋にいてもやることがない。のんびりまったり船旅だとしても、ずっと変わらない海だけを眺めているのだって限界がある。カードゲームもいい加減飽きた。唯一の楽しみと言えば豪華なディナーくらいだろう。
「一応他の乗客には見つからないようにな」
「はい、色々と面倒ですからね」
部屋にいる、と高らかに宣言した手前、その護衛が船内をうろうろしては要らぬ誤解を招いてしまうからな。この状況で疑念の芽を出させてしまうのは実に良くない。
「鍵はヘラ様が内側から掛けてください、私やオフィーリアが戻ってきたときは無言でドアを3回ノックします」
「お、なんかそれっぽいことするじゃん」
「船旅は散々ですが、せっかくなので雰囲気は楽しまなければ」
「推理モノの雰囲気なんてロクなもんじゃないと思うけどな」
薄暗い船内、疑心暗鬼に囚われた乗客、脱出不可能の完全なる密室になってしまった海の上。
これだけの不穏な要素が揃っていて楽しい雰囲気になるのは、能天気な名探偵の御一行くらいだろう。ここで超高級ステーキが出て狂喜乱舞するのは狂人か探偵しかいない。
グロリアは一度身体をどろりと溶かすと、ゆうくりとドアの隙間から部屋の外へと出て行った。なるほど、ああすればドアを開けることなくここから出ることができるか。さすがスライム。
「ついでだ、オフィーリアはこの船がいつ港に到着するのか聞いてこい。殺人鬼がうろうろしているとなれば緊急事態だし近くの港に寄港するだろう」
なんだか船全体がピリピリしているし、ここは近くの港街で爽やかに気分転換でもしようじゃないか。悔しいが人間の営む港町はのどかで活気があって彩り豊かで、ただ歩いているだけでも楽しい。そういう人間の創造力は認めざるを得ない。料理も美味しいしな。
「了解っすー、じゃあちょっと船長に話でも聞いてきますんで、ヘラ様はしっかり鍵閉めて部屋から飛び出していかないようにしてくださいねー」
「我を小動物かなんかと一緒にするな、大人しく待っておるわ!」
こちらはただのエロいサキュバスだ、身体を溶かすことなぞもちろんできるはずもなく、バッターンッと盛大にドアを開け放ち、正々堂々と船長室の方に向かっていった。こっちがドキドキするわ、大丈夫かなあ。
海の揺れとともに、不本意ながらばたんッと少し強めに閉めてしまったドアの鍵を掛けて、そして、ふと気づく。
あれ? これ、我ひとりっきりになっちゃったのではないか? い、いや、こういう時、慌てて飛び出していくと廊下とかでうっかり犯人を目撃して殺される可能性もある。大丈夫、ちゃんと部屋に鍵は掛けた。我、ちゃんとお留守番してる!
というか、我、先代魔王だし、強いしな。殺人犯なぞ返り討ちにしてやるわ。
「それにしてもグロリアのヤツ、ずいぶん遅いじゃないか。どこをほっつき歩いているのだ」
自身のせっかちにもほとほとうんざりしてしまうが。やはり退屈はじりじりと我を憔悴させているようだ。
シェフに言って我のためのめっちゃ豪勢な料理でも作らせているのか。それもいいが、我はなんでもいいから何かを食べてさっさと寝てしまいたいのだが。ジャンクなものもいいが、ふふ、この査察が終わったらシャーリイの手料理を食べよう。(なかったことになった)水着回で、みんなでBBQは食べたがもっとこう、おふくろの味的なヤツをな。
などと、良くないとは思いつつも、ささやかな未来への願望をついつい、うつらうつらと夢見ていると。
突如、静かな波の音を引き裂くような悲鳴!
な、なんだ、次から次に騒がしい! よくもまあ、ここまで大きな悲鳴が出せたもんだな!
慌てて飛び出すと、我のいた部屋の隣からも男が勢いよくドアを開け放った。
「うわッ!」
「ご、ごめん、ケガしなかった?」
「我のことは気にするな。そんなことより今のは」
「悲鳴だよね。ど、どうしよう、また事件が起きたのか」
「とにかく声のした方に行ってみるぞ、付いてこい、人間!」
「に、人間? あ、ボクはワトソンだ」
「そうか。我はヘラだ、よろしくな、ワトソン君」
なんだ、人間がいたのか。ということは他の乗客も一旦自室に戻ったのだろう。では、あの悲鳴は一体誰がどこから? 我らの部屋がある客室からではない、あれは娯楽室の方からだ。
この客船の乗客にしては似つかわしくないよれよれのスーツを着た常識的かつ理知的な青年、ワトソン君の印象なんてそんなもんだ。まあ、気弱だが誠実そうで扱いやすいヤツ、人間社会でも概ねそれくらいのどこにでもいそうな感じの人物だろう。
それにしても、なんだかこやつの狙いすましたかのようなネーミングと相まって、心なしか探偵にでもなった気分だ。うひひ、こやつを助手にして颯爽と事件解決してやろうかな。
「かしこまりました」
メインホールでは大見栄きって、我らは部屋から出ない! などと言ったものの、この狭い部屋にいてもやることがない。のんびりまったり船旅だとしても、ずっと変わらない海だけを眺めているのだって限界がある。カードゲームもいい加減飽きた。唯一の楽しみと言えば豪華なディナーくらいだろう。
「一応他の乗客には見つからないようにな」
「はい、色々と面倒ですからね」
部屋にいる、と高らかに宣言した手前、その護衛が船内をうろうろしては要らぬ誤解を招いてしまうからな。この状況で疑念の芽を出させてしまうのは実に良くない。
「鍵はヘラ様が内側から掛けてください、私やオフィーリアが戻ってきたときは無言でドアを3回ノックします」
「お、なんかそれっぽいことするじゃん」
「船旅は散々ですが、せっかくなので雰囲気は楽しまなければ」
「推理モノの雰囲気なんてロクなもんじゃないと思うけどな」
薄暗い船内、疑心暗鬼に囚われた乗客、脱出不可能の完全なる密室になってしまった海の上。
これだけの不穏な要素が揃っていて楽しい雰囲気になるのは、能天気な名探偵の御一行くらいだろう。ここで超高級ステーキが出て狂喜乱舞するのは狂人か探偵しかいない。
グロリアは一度身体をどろりと溶かすと、ゆうくりとドアの隙間から部屋の外へと出て行った。なるほど、ああすればドアを開けることなくここから出ることができるか。さすがスライム。
「ついでだ、オフィーリアはこの船がいつ港に到着するのか聞いてこい。殺人鬼がうろうろしているとなれば緊急事態だし近くの港に寄港するだろう」
なんだか船全体がピリピリしているし、ここは近くの港街で爽やかに気分転換でもしようじゃないか。悔しいが人間の営む港町はのどかで活気があって彩り豊かで、ただ歩いているだけでも楽しい。そういう人間の創造力は認めざるを得ない。料理も美味しいしな。
「了解っすー、じゃあちょっと船長に話でも聞いてきますんで、ヘラ様はしっかり鍵閉めて部屋から飛び出していかないようにしてくださいねー」
「我を小動物かなんかと一緒にするな、大人しく待っておるわ!」
こちらはただのエロいサキュバスだ、身体を溶かすことなぞもちろんできるはずもなく、バッターンッと盛大にドアを開け放ち、正々堂々と船長室の方に向かっていった。こっちがドキドキするわ、大丈夫かなあ。
海の揺れとともに、不本意ながらばたんッと少し強めに閉めてしまったドアの鍵を掛けて、そして、ふと気づく。
あれ? これ、我ひとりっきりになっちゃったのではないか? い、いや、こういう時、慌てて飛び出していくと廊下とかでうっかり犯人を目撃して殺される可能性もある。大丈夫、ちゃんと部屋に鍵は掛けた。我、ちゃんとお留守番してる!
というか、我、先代魔王だし、強いしな。殺人犯なぞ返り討ちにしてやるわ。
「それにしてもグロリアのヤツ、ずいぶん遅いじゃないか。どこをほっつき歩いているのだ」
自身のせっかちにもほとほとうんざりしてしまうが。やはり退屈はじりじりと我を憔悴させているようだ。
シェフに言って我のためのめっちゃ豪勢な料理でも作らせているのか。それもいいが、我はなんでもいいから何かを食べてさっさと寝てしまいたいのだが。ジャンクなものもいいが、ふふ、この査察が終わったらシャーリイの手料理を食べよう。(なかったことになった)水着回で、みんなでBBQは食べたがもっとこう、おふくろの味的なヤツをな。
などと、良くないとは思いつつも、ささやかな未来への願望をついつい、うつらうつらと夢見ていると。
突如、静かな波の音を引き裂くような悲鳴!
な、なんだ、次から次に騒がしい! よくもまあ、ここまで大きな悲鳴が出せたもんだな!
慌てて飛び出すと、我のいた部屋の隣からも男が勢いよくドアを開け放った。
「うわッ!」
「ご、ごめん、ケガしなかった?」
「我のことは気にするな。そんなことより今のは」
「悲鳴だよね。ど、どうしよう、また事件が起きたのか」
「とにかく声のした方に行ってみるぞ、付いてこい、人間!」
「に、人間? あ、ボクはワトソンだ」
「そうか。我はヘラだ、よろしくな、ワトソン君」
なんだ、人間がいたのか。ということは他の乗客も一旦自室に戻ったのだろう。では、あの悲鳴は一体誰がどこから? 我らの部屋がある客室からではない、あれは娯楽室の方からだ。
この客船の乗客にしては似つかわしくないよれよれのスーツを着た常識的かつ理知的な青年、ワトソン君の印象なんてそんなもんだ。まあ、気弱だが誠実そうで扱いやすいヤツ、人間社会でも概ねそれくらいのどこにでもいそうな感じの人物だろう。
それにしても、なんだかこやつの狙いすましたかのようなネーミングと相まって、心なしか探偵にでもなった気分だ。うひひ、こやつを助手にして颯爽と事件解決してやろうかな。
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