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5章:完璧で究極の査察

金輪際現れない世紀末覇王の生まれ変わり

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「……こんなん完全にダイジェストでええやろがい」

 本当に知り合いだっれもいねえ。トーナメント大会編やるならもうちょっと展開考えてくれてもよかろうなのだ。ありそうでなかったオールスター的組み合わせの対戦が楽しいんやろがい。

 出場者の面々に顔見知りはいない。全員血気盛んな荒くれ者のモブ達だ。転生者までいるのがなにやら不穏だが、まあ、こんなところで弱い者イジメをしているような奴らだ、相手にもならんだろう。結局モブはモブだもの。

 試合前に、ここにはいささか場違いな我の可憐な姿に惹かれてか、やたらと突っかかってくる輩もおったが、そういうのは試合前にいつの間にかどこかにいなくなってしまっていた。ん? 我が何かしただと? おほほ、何のことか我にはさっぱりわからぬなあ。

 というわけで、超絶怒涛の最強最カワの先代魔王である我の前では、さすがにモブ相手に見どころという見どころも特になく、さして苦戦することなく順調に勝ち進む。

 だから、一定のルールの下に強者が穏やかにスタジアムに集い、粛々と大会に挑む、というのは嫌いなのだ。さっきまでの、女! クスリ! 暴力! な世紀末的思想はどこに行ってしまったのだ。盤外戦術くらい横行したらどうだ。もっと熱くなれよ!

 とまあ、この煮え切らない展開にイライラしてしていると、お、サクリエルの試合が始まったな。

 しかし……

「あやつ、意外といい勝負するなあ」

 準々決勝まで勝ち進んだ我は、大人しくサクリエルの対戦を観戦することにした。

 領地の様子を見て回ろうにも、我のような激カワ美少女がひとりで歩いていると、なんか突っかかってくるナンパ者ばかりで鬱陶しい。いちいち地の果てまではっ倒すのも面倒だ。

 サクリエルのあの大きな角と黒い翼は、あれはあれでちゃんと威嚇になっていたのだな。魔物は見かけが9割。こざっぱりして清潔感がある方がいいのだ。キモオタども、今すぐそのヨレヨレのくせえ布切れをゴミ箱に捨てて風呂入れ!

「さあ行くぞ、みんな!」

 対戦相手は、勇者御一行風情の5人パーティ。ずっと思ってたけど、そういうのもアリなの? パーティ組めるのズルくない?

 伝説の剣と防具を装備した勇者らしき青年と、大きなとんがり帽子をかぶった魔法使いのセクシー美女、そして、分厚い甲冑に大剣を携えた重装備の戦士に、身軽で露出の高い格好に小刀、あの仮面の少女は盗賊だろうか、それに真白な髭を生やした僧侶の老人。

 おお、役職とキャラクターのバランスがいい! キャラが立ってる!

「殺っちまえ、勇者!」「こんな魔物女ぶっ殺せ!」「汚物は消毒だ!」などなど。

 もちろん観客の声援は勇者御一行へと向けられている。……ずいぶん物騒な声援じゃない? これだけで陰キャなサクリエルには大ダメージだろうな。

 漆黒の翼と大きな角を持つサクリエルの見た目は、見る者によっては魔界の主や大悪魔を連想させるのだろう。まあ、サクリエルのキモい性格は置いといて、大悪魔というのはあながち間違ってはいないが。準決勝まで難なく勝ち進んできた確かな実力もあるしな。

 強大な悪に挑む勇者とその仲間、という構図は見る者を奮起させる。つまり、めちゃくちゃ熱い展開なのだ。いつもブーイングが飛び交う我としてはちょっと不満ではあるが。

「うぅ、こんな注目されるなんて。早く消えてなくなりたいでござる」

 魔界の最深部に太古より住まう原初の恐怖を司る大悪魔、エンシェントデーモン。

 サクリエルは堕天使にしてこの偉大なるエンシェントデーモンの一体であり、司る原初の恐怖は、――犠牲。

 一体何のことかと尋ねてみても、サクリエルはでゅふふと気持ち悪く笑うのみで何も教えてくれなかった。まあ、創造主である神の下から逃げ出した時点で、こやつにも何か事情があるのだろうな。ま、あやつのわがままで高慢な性格とサクリエルは相性悪いだろ。性格の不一致も転職もとい堕天のひとつの要因になり得る。

「アンチなんて滅びてしまえばいいのに」

 サクリエルの戦闘スタイルは、おそらくこの闘技場での一対一での決闘とは相性が悪い。というか、そもそもが戦いに向いている性格でもない。あやつはただのイキりキモ引きこもりヲタクだしな。

 だからこそ、あやつの戦い方は、相手に気取られることすらなくひっそりと魔法を駆使し、じわじわと相手を衰弱させ嬲っていく。陰湿で喪女なサクリエルのたったひとつの冴えたやり方はこうだった。

 しかし、この武闘大会ではそうはいかない。目の前に相手がいて、魔法の発動をしっかりと見られ、そして、勇敢にも突撃してくる。ここはダンジョンのように最奥で引きこもってはいられないのだから。

「おおおお! オレ達は必ず勝ってみせる!」

 勇壮な叫びに盛り上がる観客。このムダに大きな円形のスタジアムがビリビリと揺れる。

 他者とのパーソナルスペースがだだっ広いコミュ障のサクリエルにはそれだけでも苦痛でしかないだろう。このどうしようもない陰キャの頑張りにハンカチがほしくならなかったら、あなたは人間ではない。

 自身の身の丈ほどもある聖剣を軽々と振り上げる勇者。それをサポートすべく一緒に突撃する戦士、強化魔法を詠唱する魔法使いに、御神の加護を掛ける僧侶、そして、影に潜みながら小刀、あれはクナイか、を投擲する盗賊。実に連携が取れているな。

 いいパーティだが、なぜこやつらのようなパーティがこんな世も末な大会に参加しているのだろうか。こやつらもファジムの不在と何か関係があるのだろうか。

「ふおおお! もうどうにでもなれー!」

 ふらり、右手をかざし、詠唱も、モーションも、躊躇いもなく、そして、完全にヤケクソの風情で、真っ白に輝く小さな魔力の放出。

 神魔大戦のとき我が放ったような、魔力を圧縮しただけの名も無き魔弾。

 だが、それをサクリエルのようなぶっちぎりの魔力保持者がキレ散らかして雑に放てば。

「ッ!?」

 魔法使いが全力で防御の魔法陣を展開し、僧侶が神聖なる術でサクリエルの魔法の威力を軽減しようと杖を振り上げる。しかし、それでもほとんど軽減することすらできず、戦士が重厚で巨大な盾を犠牲にしながら、辛うじて軌道を変えることしかできなかった。

 ま、エンシェントデーモンだしな。単純に魔法の出力が桁違いなのだ。

 指先から放つ小さな魔法。

 勇者たちはそれを受けきるだけで精いっぱいだった。

「……今のはメラ○ーマではない…… メ○だ……」おい、やめろ、バカ野郎。

 しかし、古より、サクリエルがキメ顔で言ったこの言葉は、数多の勇者達に絶望を与えてきた。サクリエルが指先から何気なく放ったささやかな魔法と相まって、その効果は絶大だろう。

 ギリギリで死んでいないだけの勇者どもは目の前にいる底知れぬ強大な敵の能力を改めて思い知らされて、驚愕に立ち尽くす。だけど、その目はまだ死んでいない、こやつらはまだ諦めていない。

「いや、もう、小生にはこの雰囲気は耐えられぬでござる。おめえらはすげえよ。良く頑張った……。またな!」

 そう言って、サクリエルはビシッとポーズをキメると、さっきより出力の大きい魔弾をあっさり撃ち放つ。あやつ、羞恥に耐えきれなくて色々端折っちゃってるではないか。よほどだったのだな。

 ばびゅんッと、あっさりとステージごと5人を吹き飛ばし、リングアナウンサーが目の前の光景にあんぐりと大きな口を開けて、高々と勝者をコールするのをすっかり忘れているうちに、サクリエルは逃げるように会場を後にした。

「よくやった」

「ありがたき幸せでござる。じゃ、小生は」

「次は我と貴様とのマッチアップだが、我はこれ以上目立つわけにはいかぬからな、棄権だ。良かったな、貴様がチャンピオン、この領地で一番つえーヤツだ」

「嬉しくないでござる! 遺憾の意を表明するでござる!」

「それじゃあ、真意が国民に伝わってこないんだよなあ」

 とまあ、こんな感じで本当にサクッとこの武闘大会編は終わらせて本題に入るとしよう。あとは決勝戦のみだ。もしかしたらスピンオフ的なのもあるかもしれないしね。今後に乞うご期待!
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