引退魔王お忍び領地査察紀行

儀仗空論・紙一重

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2章:査察へ行きたい

先っちょだけ、なんて言う男を絶対信用しちゃいけない

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「「「「          !!!」」」」

 ズズィーをはじめ、どろりとこの部屋に滞留する死霊達は我の可憐なる姿を見ると、一斉に声帯無き喉を震わせる。

 この声無き叫びを聞くがよい!

 生きとし生けるものの脆弱な魂を打ち震わすその狂気の呪詛を。

 ……良い。

 オーク達の迫力ある雄叫びももちろんカッコイイが、こやつらのような、それこそ魂を臓物の奥底から掻き回すような嫌悪すべき悲鳴も悪くない。これがまたいいのよ。

 さっきまでの低評価から一変これは大分評価高いよ。

「あ、あ、た、助けて……」

 そして我の演技力も冴え渡っている。これは完全に怯え切った美少女だわ。

 死霊達は生を視る。

 我はもはや生死を越えた概念としての存在になりかけているが、魂無き我でも十分、動いているものを生と認識する死霊の本能を掻き立てるであろう。

 この廃城塞に動くものはない。この城塞に巣食う悪霊らはネズミ一匹たりとて生かしておけない。生命を刈り取る形をしている、もはやそういう本能、そういう機能なのだ。

 生存を否定する本能。そういうの、我は好きだなあ。

 さて、肉体無き死霊達の攻撃方法であるが、もちろん物理的な攻撃は不可能だ。それなら死霊はどうやって現実世界へと干渉するのか。それなら、なぜ生者は亡者を恐れるのか。

 それは。

 死霊が闇の魔法を使うからだ。

 魔法とは、現実を改変する力だ。

 純粋な魔力の奔流である死霊達は、その意思ではなく本能で魔法を用いて生者を狩る。

「「「「            アバ」」」」それ以上いけない。

 稲光の如き緑色の閃光が、我が身体を貫く鋭い不快感。身体の奥底の魂を破壊する衝撃。

 そうして、生者は死者の嘆きとともに力なく崩れ落ちる。迎えるのは、安らかな死、ではなく終わりなき従属だ。

 さて、ここに立ち入った愚かな者どもは、こうして呆気なく殺されてこの死霊渦巻く城塞の一部へと成り下がるのだろう。

 そう、まさしく今のこの我と同じように。

 ま、我は魂と呼ばれる真髄は全てステラへと継承したから問題ない。

 ひとつ問題があるとすれば。

 あとは、どうやってここから死んだふりをしながら脱出しようか、っていうね。

 できればこのまま正体を明かさずに颯爽と立ち去りたい。

 しかし、侵入者として殺された(という設定の)今、何事もなかったかのようにすっと起き上がってしまうのは良くない。彼らのやる気が削がれてしまう。

 ここに意思ある者はいない。

 支配者のズズィーでさえそうだ。

 しかしまあ、彼らにも感情のような何かはある。我は、嘆き悲しむ彼らを見たくはない。

 仕方ない、今回ばかりは転移魔法を使うか。い、いや、先っちょだけ、先っちょだけだから大丈夫。この城塞の外にちょっと出るだけだから、先っちょだけならノーカンでしょ!
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